『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。
日本の80年代の映画は、バブルの盛り上がりとマスコミ最盛期のおかげで、自分には馴染めない空気感が満載だったりする。全部が全部そうとは言わないけれど。
対して、80年代のアメリカ映画はとてもしっくり来るなあと、最近思う。
例えば、Smokey Robinson & the Miraclesの「You Really got a hold on me」が流れるような映画。The Knackの「My Sharona」が流れるような映画。
心からリラックスして週末を楽しく過ごせるような、心地よいヤツら。
リンクレイターは文字通り、一周回って戻ってきた。
『六歳のボクが、大人になるまで』がちょうど大学入学前で終わっていたので、「その後に、『バッド・チューニング』が来るんだ!」なんて当時に私は言っていたところ。今回文字通り一周回って、またも大学生活に戻ってきた。ちょうど、『バッド・チューニング』の原題が『Dazed and Confused』、とレッド・ツェッペリンの曲であったように、今度はヴァン・ヘイレンの『Everybody Wants some』そのままのタイトルで。
物語は70年代、80年代を彷彿とさせるような空気感そのままの作りだ。デジタルで撮りながら、あえてカラーコントロールをチープな印象を与えるよう統一してある。懐かしさ溢れる雰囲気はこのカラーリングのせいも多分にあるだろう。これは実は、最近のハリウッド映画(特にアメコミ映画を初めとしたCG最先端の技術が使われた映画)が、決してやりそうもないテイストかもしれない。
このおちゃらけたテイストが心から呑気に楽しめるものである理由は、作品の持つレイドバック路線でもある。また“大学入学前”の学生という、この世で一番自由を謳歌スルことの出来る生き物を描いているおかげだろう。
たったの3日間の精神的フリーダムだったのかもしれない。
その後、一旦入ってしまえばアメリカの大学生活は意外に厳しいであろうし、将来がその肩にかかった重要な時期なのだから。
だからこそ翻って、この作品のここまでの享楽的さにも納得がいくのだ。
心から笑い、夢に溢れていた“あの時代”を懐かしく思い出す、幸せな映画。
今の流行からすれば、明るく青春を謳歌するリア充を描いたこと自体が、亜流なのかもしれないけれど(苦笑)。
つくづく、いつも難しい顔をして、映画を見ているなあと思った。
心から楽しめるような映画なんて、久しぶりだ。
P.S…いつも配給会社の付ける邦題がブツブツ…と文句ばかりの私だけれど、今回ばかりはその副題だって許しちゃうよ。このタイトルは原題ままでないと行けないのをわかってくれているようだし、それに『6才のボクが大人になるまで』という邦題よりはず〜っとマシじゃないw。今回の『世界はボクらの手の中に』の“ボク”も、あの作品の主人公ー“ボク”を踏襲しているように思えて。細かいのだけれど(笑)。
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こんにちは、ついついお邪魔致しますが、
この作品は、きっと男子諸君にはコタエられない作品なのではないか、と推測致します。ホント、「たったの3日間の精神的フリーダム」だったのでしょうね。
で、副題の件、私はバッチリ!秀逸!と感じております。。
ここなつさんへ
こんにちは〜♪すっかりお久しぶりです!
コメントありがとうございました。
男子寮って憧れます。そんな女子諸君にもコタエられない作品でした♪
あとやっぱり会話の楽しさや軽快なリズムがいいですね^^
たった三日間のフリーダム、これから授業が始まるところで終わるところがもう…