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『君の名は。』 スレ違いと絆の深さとピュアピュア度合いについて。

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今夏の目玉映画として期待されていた訳でもないだろうに、残暑の中、なんと1ヶ月で100億の興収を成し遂げてしまった。いやいや、まだロングランになりそうな見込み。この先どれほどに達するか分からない。蓋を開けてみたら、大ヒットバケモノ映画と相成ったそうで。
聞いたところによると、東宝との会議を重ねていく中で、新海誠の“癖のような何か”を丹念に抜いていく作業が行われたそうだ。「新海誠はまるで猛毒のある河豚のようだ」と言っていた人が居たが、これは私には大いにツボだった。

先日友人と話していたのだけれど、このスレ違いが良いよね、なんて。昨今ではSNSやらLINEやら、誰かと気軽に“繋がる”ことができてしまう。一人思いを延々巡らすというような、“片思いの切なさ”はもはや一昔前のコミュニケーションのあり方として、絶滅してしまった。誰かを一方的に愛する甘酸っぱい“片思い”は、目の前にその人が居なくても好きな人を全力で思うというような、要は大部分が想像力で成り立っているようなところがある。一人で思いきり勘違いをしてみたり、ウニョウニョと考えまくってみたり。もっと自分に対して自信が持てるよう、努力するキッカケになったりもする。私に言わせれば、片思いという“恋の楽しさ”のほとんどは、その勘違いに基づくものだと思ったりもしている。

今や人と簡単につながれてしまうことで、あっという間に“両思い”は確立してしまう。その人と話がしたいと思ったら、即LINEで事足りてしまう。密な会話もチャットで済んでしまうし、待ち合わせなども「◯分遅れる」とすぐ連絡ができる。繋がり方が簡単になった分だけ、“この人でなくてはならない”必然性は薄れ、確信することが難しくなっているのではないか。“運命”のような特別な“縁”を感じる、要は恋愛の本能的な部分が欠落しているような気がしてならない。

夢の中で自分が別の何かになって、その生を生きる夢、というと荘子の「胡蝶の夢」を思い出す。『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』もそうだけれど、自分の生が誰かの夢であるような気がする、という感覚。重く息苦しい自分の人生という枠組みから開放され、別の人の生を生きるという“夢”は、甘美なものであるに違いない。自分のリアルな“生”が別の“ここではない何処か”と繋がるというのは、イマジネーションの世界でもどこか崇高さの漂う、美しい夢だ。
この作品は、そうした身体の“入れ替わり”を、体験出来るリアルさを伴ったものとして描いているところに、陶酔感を感じてしまう。
古さと新しさ、現代的なリアリティとそれを飛び越えた大事故も、効果的でダイナミズムを生む。

誰かとの“縁”も、赤い組紐や、胎児のへその緒、そして彗星の軌道。ダイナミックに別の何処かへ“繋がる”姿を映像で表す。この美しさに特に心を揺り動かされた。
こうしたロマンチックさがあるためか、“入れ替わり”の多少おかしな箇所にツッコミたくはならないし、満足度は否が応でも上がってしまう。
「純愛とはスレ違い」を信条とする、ロミジュリ大好きっ子の私も納得だ。
逆に、細くなりそうな縁を“思う”ことで補完する、そうした相反性がまた良かった。“口噛み酒”はそれらの思いを体現するものとして、彼らの“縁”を決定的に形付ける。

ただし、世間様ほど盛り上がれるかというと、実はそれほどでもない。これは、見終わった後に『秒速5センチメートル』を見てしまったせいだろう。新海誠の毒が、後から回ってしまった。やっぱりこの人のおセンチさは私の肌に合わないようだ。この作品自体も、頑張って若返った気分になってはじめて、「純愛」だの何だのと言う気持ちになれるのであって、もう悲しいかな、私には遠い世界なのだった。

大体、この作品の文句を言っている人を見てみると、そうした若さを忘れてしまった人ばかりのようだ。ピュアピュアはとうに忘れてしまった、オッサンオバサンしかこれを貶していない。
じゃあ自分自身は、その反動で褒める、という訳ではない。ただ、私にはどちらの気持ちも分かる気がするのだった。

P.S.…若干の大きな本音。
この音楽の使い方がどうにもこうにも嫌いだった。まるでPVみたいだし、歌詞部分を歌ってるのに台詞が被るところが特に嫌だ。
でも、『秒速5センチメートル』よりはマシだと思いました。

『君の名は。』のレビューで面白かったもの

『君の名は。』を観たら『秒速5センチメートル』の呪いが解けた -シロクマの屑籠

 

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コメント(10件)

  1. こんにちは。
    小学生に誘われなかったら観なかった映画です。
    でも、すれ違いの恋になつかしさを覚えたわけではなく、映像美やストーリー展開の斬新さに引きずられ、不覚にも涙してしまった自分に驚いていました~
    周りは中高生(それも男子中心)。新海監督のファンは多いのですね。その後に観た「THE BEAtLES」の同窓会観覧のような雰囲気のほうが私には合っていたのかも?
    一緒に行った小学生も「音楽がcheap」と言っていました。
    同感!

  2. とらねこさん☆
    全くの同感!そして私もこの作品のあとに「河豚の毒」やられた口です。
    「君の名は。」が初新海の私だけど、彼のピュアピュアな部分を目を細めて遠くから懐かしんで見られるオバさんってかんじかな☆
    ツッコミどころも気にならなくするほどの、何か大きな魅力があるよね。
    「秒速~」もそうだけど、やっぱりゲームのPV映像出身だからこそな、誰もがとっつきやすいチープな音楽と映像がヒットのカギなのかも☆

  3. こんばんほー、元気でっか?

    9月の上旬ですかね、自分も観ました
    平日の最後回なのにほぼ満席になっていたんでビックリ

    新海監督のインタビュー的な番組を見て
    「そういう思いで創ったのか」と納得するものの
    自分的には毒にも薬にもならない映画というのが正直な感想
    ウルウルさせられたしテンポも気にせず見れたので
    作品自体は楽しめたけど

    「心」が揺さぶられないんですよね~。
    (興行収入を知って)もっと素晴らしい作品があると思うけどなぁ
    なんかね、甘ったるいケーキを食べて
    濃いブラックのコーヒーが飲みたい気分・・・そんな感じなのです

  4. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪
    本当、この作品はとんでもない大ヒット映画となりましたね。
    『千と千尋』超えが期待されてもいるとは。

    “入れ替わり”モノとしては、実はこれまでも他の作品で見たことがあるんです。
    なので自分としては、さほど斬新とも思いませんでした。
    『転校生』もそうですし、『フォーチュンクッキー』、『ホット・チック』も。
    私はちなみに『ホット・チック』が大好きでした!
    それらに比べると、特にこちらが優れているとも思えないかな。

    田舎の高校生が、都会の「カフェ」でまるで夢が叶ったかのように喜ぶところが、私は大好きでした^^

    小学生が「音楽がチープ」って、すごくウケる!
    さすがcinema_61さんの情操教育が効いてますね★

  5. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜。
    ですよね、この作品が初新海、というのは逆にラッキーだったんじゃないか、なんてw。
    私の場合は『言の葉の庭』が初だったんですが、私は正直この作品よりあちらの方が好きだったりしました。なんでかな。

    んー、後に参照で載せたURLを呼んでいただくと、『秒速5センチメートル』がどんな作品なのか分かりやすいかと思います。
    誰もにとっつきやすいかというとそうではなくて、逆に一部に熱狂されるタイプの作品を作る作家だったのが、
    今作で大化けした、という感じかもしれません。

  6. サイ5150さんへ

    こんばんは〜♪オオッ、ちょっぴりお久しぶりです!
    お元気でしたか?

    >毒にも薬にもならない映画

    その通りだと思います。
    そこまで熱狂出来るかというと、まあ私はそれほどでもないかな〜
    でも恋愛SFとしては、よく作ったなあと思います。
    入れ替えとかも、アメリカ映画で見たことある設定だったのが懐かしくて。

    >ブラックコーヒーが飲みたい

    うんうん、いい喩え!
    良い作品だったと思うし、悪くないと思うのだけれど…
    綺麗に抜かれた毒とやらが、普通に効いていたらどんなものになったのやら?
    少し興味がありますー。

    私も、少し極悪なものがそろそろ見たいな〜
    今『ホステル3』を見てるんですけど、なんだか妙に落ち着きますw

  7. かわいくて、いいんですけど、タイムトラベル的なことが出てくると、理解できなくなって、そこで不満がたまるんですよねー。
    http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-3131.html

  8. ボーさんへ

    こんにちは〜♪
    タイムトラベル的なこと…。あのズレた三年間のことでしょうか?
    えと、場所の移動だけでスレ違いが起きていたのではなくて、時間的にも同時にズレていた、つまり4次元的にスレ違いが起こっていたということになるのかなと。
    時空の歪みなので、そうしたことも起こりうると思いました。

  9. やっと観てきました!というよりも
    予告編ではまったく興味なかったので
    スルー決定作品でしたが、巷の大騒ぎに自分も乗ってみたくなって(笑)
    もう、完全に映画の世界にのめり込んでしまいました。
    過去の自分を懐かしむ感覚ですかね~。
    「秒速5センチメートル」も地元で観ましたが
    主人公が大人になるにつれ自分で行動を起こさないタイプの
    ストーカーのようでちょいと不気味な感じでした。
    そういうのをすべて「君の名は。」で解決してくれたのはよかったわ(笑)

  10. itukaさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    そうそう、itukaさんがご覧になってないなあと思ってたんですよ(笑)
    アニメはあまり興味ないのかなあ、とか…
    さすがにこれだけ大人気になると、映画好きとしてはスルーする訳にはいかなくなりますよね^^
    今日のニュースで、興収150億突破ですって!すんげー

    私は実は秒速〜の面倒臭いオトコノコ描写について行けず…w
    でも私のtwitterのTLだと、「自分達の新海誠が大きくなってしまった!」みたいな言い方をする人も結構いるんです〜




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