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美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』

320お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだったりする。自分の髪を触られるというその単純な行為自体、実はプライベートなことなのだ。よく知らない他人に頭や髪を撫でられるのはくすぐったい気持ちにさせられると同時に、安心して任せられる相手なのかどうなのかを、心の内で探ってみたり。その人を気に入るかどうかは、美容師さんとしての腕というより、漠然とした相性それだけかもしれない。自分の髪を触られるのが、はたして許せる相手かどうか。
美容師によっては話上手な人も居れば、客が望む心地よい静寂と時間を与えてくれるのが上手な人も居る。本当は誰かに黙って髪を触れられている方が、ある程度心地よい時間を過ごせたと思えることも。総合的な心地の良さを追求しようとする世界が、美容院にはあるのだった。

私もこの映画の常盤貴子のことは言えない。若くて可愛い美容師さんをちゃっかり指名していたりする(笑)。
美容師さんに対する微妙な女心が描かれているというそれだけでも、この題材の鋭さは面白く思えた。そこがとても気に入った。

当たり前の常識を持ち、本来は大人しいタイプの普通の主婦が、若くて優しい(そして“ちょっとだけ”可愛い ←このちょっとがポイント)美容師にハマってしまう。そして、何処で引き返すべきかの地点を見誤り、気づいたらストーカー的な行為を行ってしまっていた…。この辺が狙ったところなのだろう。郊外の住宅地と踏切のショットでそれらが表される。
クイーンサイズの新しいフランスベッドを媒介に、自分の夢と繋がっていき現実がスライドするというシークエンスもある。
(ちなみにこのベッド、「フランスベッド」社のもので家のと同じだった!)

しかし難を言えば、自分にはところどころ演出や台詞の“強さ”が、ざわざわと気になり集中できなくなった。
例えば、昼間にふと帰ってきて身体を求める旦那。あのおかしな現実味の無い空気感は、何を狙って描かれていたのだろう。かと思えば、急にコメディじみた「うちの冷蔵庫に苺、無い」の台詞で爆笑が訪れる等、戸惑いを感じたり。この辺は好き嫌いはあるかもしれない。自分の子供に対する母親としての薄さも気になる。子供がまるで存在していないかのよう。
佐津川愛美の嫉妬深い裏原宿系彼女は面白かったけれどw。

女優・常盤貴子を綺麗に映そうとする努力は丹念に感じられた。彼女本来が持つどこかふんわりと漂うような現実味の無さが、この作品を引っ張ってもいる。
次第に物語は進んでくる。表向きは何も壊れていないように見えながら、その実根底から崩れ去ろうとしている家族の危うい絆が描かれる。しかし勿体無いことに、それらは夢のようにただふわっと解決してしまう。
彼女の欲望も痛みも心の奥の声も、醜いものが何も描かれないまま。
特に、タイトルにある木琴が何を表していたのかが釈然としないのだった。そして、ヴェールを被ったようなストーリーがその深みを見せずに、予定調和に終わってしまう。
大きなカタストロフィはついぞ訪れず、主婦の“現実”がそのまま地続きに訪れるのだった。
よく知らない誰かと交わした心躍るメールが、自分の現実ですぐ隣に居る旦那に変わっていくところは上手いと思ったけれど。

 

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