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『ファインディング・ドリー』 冒険も人生、帰ってくるも人生

ten0582394455『ファインディング・ニモ』は当時大好きな作品だったけれど、最近はピクサーから気持ちが少し遠ざかっていた。なのにまさか、この作品にこんなにハマるとは!
字幕で見て、翌日吹替でと二度見た。一度見た時は、前作とそっくりに思えた。魚を使った冒険アクションであり、自分の居場所そして家族を取り戻す物語。何より自分の好きな豪快なアクションにグッと心を動かされた、前作がそうだったように。テーマ的なものは後からおみやげみたいに、心の奥に持ち帰った。ジワりとだがしっかりそれらが残されるのを感じた。付き合いでなければ二度目は行かなかったかもしれない。それなのに、二度見たら!なんと思いもよらず、大きな感動に包まれてしまった。

私は、すぐにいろんなことを忘れてしまうドリーを、ニモの頃からイライラして見ていた。この作品はそれらを、コメディとして笑いに転化はしていない。笑えるようには描いていないのだった。冒頭では、明らかに彼女は周囲を苛つかせる存在として描かれている。エイの先生の授業風景やその後のニモとマーリンの会話を見ると、彼らがドリーに愛想を尽かすのも理解が出来る。
ドリーの“すぐ忘れてしまう”という障害は、子供の時分にはなるほど発達障害児のように見える。だが大人になって記憶障害を持つ彼女は、発達障害というよりも認知症に似ている。マーリンやニモに寄り添って描くことは、障害を持つ人の障害に付き添う、周囲の人達の思いについても同時に描いているのだった。ドリー彼女ひとりの障害は、発達障害であると同様に、認知症でもある。つまり、発達障害児を持ち教育の難しさに途方にくれる親の苦労を描くと同様に、認知症の老人の介護に手を焼く人々の思いをも反映していると言えるのではないか。

でありながら、アクションの面白さは文字通りの底なしだ。私が好んでやまないジェットコースターアクションそのもの。海の中を悠々と泳ぐウミガメたちの陽気な音楽を皮切りに、冒険に次ぐ冒険の連続で見せる。タコの触手の変幻自在もさらに楽しさに拍車をかけ、海の世界をぶっちぎって空へ、ついにはカーアクションまでこなしてしまう海の生物達!アンビリーバボー!

この先、ネタバレ


ドリーが少しづつ思い出すのは、親が教えてくれた大切なことばかり。私も、親の教育をさほど大事なものとも思っていなかった割に、案外大人になっても忘れないこと、感覚的に覚えていることがいくつもある。
ドリーの場合はこれが、「行き止まりだと思っても、いつも他の道がある」。彼女を支え続けた一言だった。忘れっぽいドリーがそのままの彼女のまま、今まで生きてこれたのは、この生き方が身についていたから。彼女の個性だと思われた行動指標、これが実は、心の底にあった大切な思い出だったことを知る。
とうとう自分自身の両親に会えた後で、彼女は今の自分の家族=仲間の大事さを思うのだった。自分の側に味方としていつも居てくれた、マーリンとニモ。彼らこそが自分の家族だったと悟るドリー。

旅の途中で出会えた他のいろんな生き物たちも、皆それぞれに欠損を抱えていた。シロイルカもジンベイザメのデスティニーも。
そんな彼らが皆で助け合ってこそ、大きな力となって奇跡を起こしてしまう。自分のすぐ側に居る誰かを信じて手を伸ばすこと、寛容性を持って寄り添うこと。
初めて会ったその場に居た生き物たちも、そこに“天敵”が配置されているけれど、これもきっと偶然ではないのだった。例えばタコも“Devil’s fish”なんて言って嫌われる存在。日本では平気で刺し身にしたりして食べるけれど、欧米ではタコなんて口にしない。魚にとって敵でしかないアシカやオットセイが手伝ってくれたり、鳥が旅の手伝いとなったりする。敵と思い込んでいただけかも知れず、話しかければ意外にも自分を手伝ってくれる存在となる。「これは見ものだ」なんて面白そうに。

この作品では、自分の物語を一歩踏み出すために果敢に冒険に出てゆくけれども、大事なものに気づいて帰ることも同様に描かれていた。

作品中では、ドリーのような行動ありきの人間と正反対の者として、“自分の居場所を守るようにして生きる”生物たちがいる。タコのハックが最初はそのつもりだったのであり、子供たちに苛められることなく、心安らかに水族館の水槽の中で過ごすのが夢だった。失恋以来自分の殻に閉じこもって生きるホタテは、何年間も誰とも話さず苔むしたまま。ジョーク的な存在として描かれていたオットセイやアシカも、自分達の小さな島を守るのに精一杯だ。自分より身体の小さい、変な顔したアシカを除け者にして。こういう人、人間でも居ますよね…。つまらない自分の居場所だけを大事にして生きる人が。

 

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コメント(4件)

  1. とらねこさん☆
    私もニモが大好きで、そしてこの映画も本当にドハマりしたわ!!
    私もドリーを見てて認知症の義母を思い出したの。
    忘れることはとっても不安で困った事も多いのだけど、案外過去(心配事)は全部忘れてどんどん突き進んで行けちゃう「お気楽」なところもあるのよね。

    沢山の事を思い出させてくれて、勇気をくれるいい映画だったわ☆泣けたし!

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんにちは〜♪
    やはり認知症を思い出しちゃいますよね。
    そうそう、後先考えず動いていく勇気、描かれてましたよね。
    本当は思い出せないこと自体が悲しいことで、思い出したくても思い出せない苦しさも、ちゃんと描かれていたと思うの。

    うん、私も!すごく泣いてしまいました。
    まさか、ドリーでこんなに泣かされるとはね。

  3. こんにちは。
    仲良しの小学生と、このところ映画三昧です。

    ドリーが自由に水の中を泳ぎ回る姿に魅了され、水族館に行きたくなりました~
    何でもすぐ忘れてしまうドリー!でも、親から教えられたことは少しずつ思い出す!私も最近同じ思いを痛感します。
    「ペット」も観ましたが、夏休みは面白いアニメが多く、子供と一緒に観れて幸せ!(小学生の感想もスルドイ)

  4. cinema_61さんへ

    こんにちは♪
    子供と一緒に映画三昧、子供の素直な反応に楽しくなりそうですね!
    この作品は海の生物を見ているだけで楽しめてしまうし、アクションが派手で面白いんじゃないかな。
    小学生と一緒だと、吹替版ですかね?
    あの八代亜紀にはきっと驚いたと思いますがw
    英語字幕版で見ると、シガニー・ウィーバーなんですよ〜

    親から教えられたこと、忘れているつもりでもいつの間にか覚えていたりすること、ありますね。
    若い頃には親に反抗したつもりで、母の教育についてあまり有難いという思いはありませんでした。
    きっと自分が子育てをしていたら、もっと思い出したと思います。
    あ、同じこと言ってるなあ、とか

    『ペット』も、面白いんですね?なんか、『ルドルフとイッパイアッテナ』は子供向けと聞きました…。




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