『帰ってきたヒトラー』 このご時世じゃ笑いたくてもワロエナイ!
ヒトラーは生きていた!?
「源義経はモンゴルに渡り、チンギス・ハーンになった」なんて噂は聞いたことがある。ブルース・リーは生きていたとも言われてましたね。ヒトラーだってもしかしたら生きていたっておかしくない!?なんて強引か(苦笑)。でも実際にいますよね、日本の参議院議員でも現実に「神武天皇は実在した」と思っている人が(笑)。
この作品ではヒトラーは、タイムリープして現代にやってくる。ホラ話的なブラックコメディとしてとても愉快な冒頭。ヒトラーが大仰な生真面目さでいかつい顔して例のポーズを取ったり喋ったりするだけで、どんなつまらない小話でも笑えてしまう。キオスクで始めて出会ったファビアン・サヴァツキ(ファビアン・ブッシュ)は、大言壮語するマジでクリソツなこの“困った芸人”に困惑しつつも、クリーニングにナチスの制服を預けてあるという下りで大爆笑してしまう。あの冒頭は上手かったなあ。緊張が続いた後の緩和の笑いで、この強引な設定を一気に“持って行った”感じ。
しかし、早々に自分の中で笑いは消えてしまう。難民問題を第一義に問題視し、外国人排斥、人種差別を軸にしたヒトラーの話を聞いていると、それに「そうだそうだ」と肯定する人の多さに驚く。史実で聞くよりもずっと癇癪を抑えめなヒトラーは、実は論述が得意で説得力があり、人の不満を吸い上げていくのが上手なようにも見える。なんだか有り得る展開で、だからこそ怖いのだった。ヒトラーのようなソックリさんを見たら、写メを撮ったりSNSに投稿したい気持ちは十分に分かる。だんだん人気者になり、有名スターのように引っ張りだこになっていく過程は、恐怖を覚えた。
だって今年になって現実に、世界でもポピュリズムが台頭するのを我々は目にしているじゃないですか。アメリカでは、冗談でも有り得ないと思ったトランプが共和党支持の第一候補になり、同じように外国人排斥や境界線を作るなどと言っている。怖い怖い。さらにイギリスはなんと、国民投票でEUを離脱してしまった。日本でもメディアはオリンピックの賄賂問題を棚に上げ、同時期の前者には触れず、舛添都知事を吊し上げにかかった。まんまと乗った民衆は舛添降ろしに加担してたじゃないですか。でも、ポピュリズムはもっと小さなレベルで我々は日々目にしていますよね。有名人が不倫でもしようものなら、叩くのが当たり前とばかりに叩きまくるのは、煽るメディアのみならず民衆レベルでも起こる。twitterやInstagram、FacebookのようなSNSの小さなレベルで、初めは小さな意見が大きな潮流になり、まんまと人を乗せてしまう。ポピュリズムの怖さは今年になって一番恐ろしいものだったが故に、この作品が本気で怖い。
ポピュリズムの何が怖いって、“民主主義が間違いを犯す様を目にするから”でしょうね。民主主義は間違えるか?イエス、間違えるのです!堂々と!
民主主義が信用する“数の力”というものが、すぐにも不穏分子を撒き散らす力になってパワーを増幅してしまう時が怖い。
だって見てよ、イギリスのAU離脱の国民投票を。
あのせいで世界経済はあの日あの瞬間からガラっと変わってしまった。これが世界経済だけに終始すればいいけれど、たぶん経済問題だけに終わらないのでしょう。
それより、日本の改憲問題の国民投票は大丈夫なのか?うう、未来がだんだん危うくなってきたぞ〜。
そんな怖さを実感させる、ブラック過ぎる諷刺映画でした。最高。
2016/07/15 | :コメディ・ラブコメ等 ドイツ映画
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この映画はもっと公開館を増やしてみんなに観てもらいたいですよね。
先日、テレビで有名ジャーナリストが「観るべき映画」として
可なり推薦していましたし(笑)
本作、風刺が効いて面白いだけで済ます映画ではないですね。
アメリカ共和党のトランプ氏がまさかの大統領って現実味を帯びてきましたね。
今いちばん怖いのはまさにコレだわ(爆)
こんばんは。
久しぶりにおもしろくて怖い映画を観た~感じです。
クスクス笑い声が聞こえる満席の館内で、ポピュリズムの怖さを実感しました!(皆が同じ方向に向かう怖さ)
「歴史は繰り返す」なんてことがないように!
一緒に観た友人が「ドイツ人は懐が深い!帰ってきた東条英機なんて日本じゃ作れないもの」と言っていました。
itukaさんへ
こんにちは〜♪
いやー、シネコンでかかるなら十分かと思います。
私が普段気に入る作品群とは段違いですよ。
正直この規模でかかることにビックリした位だったりも… ^^;
トランプの話ですが、共和党の公約の草案でメキシコの国境の壁建設を、本当に入れ込んだようですね。
さすがに今回は共和党は無いでしょう。
cinema_61さんへ
こんにちは〜♪
痛烈な諷刺が冴え渡る作品でしたよね。
ドイツは本当にナチス映画が多いですね。それも、手を変え品を変え面白いものが次々現れるので、毎年必ずナチス映画を見るはめになりますね。
先日も、『あの日 あの時 愛の記憶』という映画を見たのですが、これがなかなかに素晴らしかったです。
『フランス組曲』を少し思い出すようなストーリーだったので、cinema61さんももしかしたら気に入られそうです。
東条英機についての映画ですか。確かに、あまり思いつきませんね。
日本では政治諷刺どころか、真逆の方向へ向かってますもん。
とらねこさん☆
本当に笑うに笑えないほど笑えたよね~~
まさにこのタイムリーな時によくぞ出ました!って映画だったわ。
アメリカ大統領選挙もそうだけど、昨日のトルコのクーデターも、どんな呼びかけを首相がしたのか判らないけれど、休暇先からテレビ電話で市民にちょちょいと呼びかけてクーデターを阻止させたのは凄いけど、一般市民の犠牲の数を考えたらそれでいいの?と思わざるを得ないわ。怖い怖い…
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんにちは〜♪
作られたのこそ少し前なんですけど、公開時にちょうどタイムリーですよね。
まさに時代に呼ばれてしまった作品かと。
トルコ、美しい国なのにああいうの結構起こりますよね。
今回はまた先行き不安な世界情勢に、さらに恐ろしさや不安を増すようなタイミングで。。
私は5,6年以内に3回ほど行ったり友人が出来たのもあって、いつも何かとこの国についてはチェックしているんですが、本当に不安ですね。
トルコ人と政治の話すると、結構荒っぽい考え方でISIS寄りだったりする人も…。