『殿、利息でござる』の志高い傑作ぶりを見よ!ただのイイ話と思いきやとんでもない!
選挙が終わった。今回の選挙はもしかしたら戦後最大の争点になるかもしれないものだったのに、改憲については最後まで伏せられたまま。選挙が終わり開票が始まってようやく、“議席数2/3”についてメディアは語り始めた。それを知らなかった国民は6割も居るのだと“後で”報道された。
寝てしまったので書かないけれど、『64 前/後編』に全くノレなかった理由は、そうしたお上の方針に従うしかない無力なメディア(NHKのくだらなさを筆頭に)、これらに怒りすら感じる私の印象とは全く逆の記者クラブの姿。警察の広報担当は精一杯対応するも、まるでヤクザのように恫喝し突き上げを食らわせる記者クラブの、瑛太を始めとした怖い面々。役職を捨てる覚悟で人間として語るにも関わらず、努力虚しく誠意は報われない。恫喝と慟哭とが綯い交ぜになり、“見た目的にはまるで傑作映画のような”熱演満載。しかし、そんなものが傑作の理由になるわけもなく。ひたすら慟哭の時間が無駄に長いだけの、かったるい映画でした。
というわけで今回は、「邦画にも傑作はある!」と感激した作品。地味でありながら志が高い、“人情派・社会派映画”の傑作だ。
作品のチラシやポスターを一目見ただけで、「こうした作品を“今”やる必要ってあるの?」という疑問が湧くことがある。正直“時代性”なんて映画には本来、不毛な問いであるにも関わらず。しかし、こと“時代劇”についてはどうしてもそんな質問が付いて回る。
でも、この作品に関しては、まさに今こそ見るべき作品になり得ているのが素晴らしい。
地域社会を盛り上げるために映画が撮られるのは近年特に見られる傾向だけれど、この作品については、富の再分配を目指し地域復興を目指す話だった。
“吉岡宿”が何処にあるのか知らなかったけれど、何かのついでに必ず足を伸ばしてみようと思っていたり。
この作品は物語の展開が上手に進む冒頭が終わり、途中まできたところで「良い人ばかりが出てきて、ひたすら延々イイ話」なのかな、と思わせてしまう面がある。もちろん、感動や涙腺を刺激する人情派ならではの良さもありながら、だ。ところが、阿部サダヲの心の葛藤とその問題を描き切ったクライマックス手前で、気づくのが「これ、イイ話どころではないよな」と。人のために自分の商売を潰したり、生きていくことすらままならなくなってしまうのは、それは一体どういう類の“イイ話”なんだと。
しかし、なんとこれを突き抜けてしまう。想像の範囲を超え、覆してくるラストは圧巻だ!
中村義洋監督は振り幅が大きいけれど、今回はこの監督のベスト作品になったのでは。この監督のどの作品についても言えるのは、役者がそれぞれオーバーアクトをすることがなく、映画としての良い演技を引き出しているところは、私は買っています。
瑛太はいつも中村作品では飛び抜けて輝いているし、阿部サダヲのやりすぎコメディ感を封印したところが素晴らしかった。竹内結子に至っては、こんなに良いコミカルな演技が出来る人と知って驚いてしまった。西村雅彦だけクセのあるTV演技そのままか、と冒頭思ったけれど、この彼の特別な役割がラスト間際には分かる。全体の中で調和していたので無問題。
私の好きな松田龍平の雲の上の人のような持ち味は、この作品では悪役として使われているけれど、不思議と“横暴な政府役人ではあれど、特に才能のある頭の良い人”というイメージがぴったり。
スケートの天才の例の人には正直驚いたけれど、この松田龍平とどことなく風貌が似ているところがあるため、説得力も増していたと思う。
いやあ、本当に気持ちの良い、素晴らしい日本映画でした。天晴!
2016/07/11 | :文芸・歴史・時代物 日本映画
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ちらしで可なり客を逃がしてると思うのはワタシだけではなかったのですね(笑)
人情時代劇もたまにはいいものですよね。
阿部サダヲ自体あまり好みの俳優ではないけれど
こんな風に少し抑えた演技が実は心に響いたりして
終盤のどんでん返しに涙腺決壊しましたよ(笑)
『64』の時とまた違った瑛太も微笑ましかったです。
とらねこさん☆
傑作でしたなぁ~~!
これこそ、今見るべき映画。
コメディでしょ?なチラシで騙されて、本当にいいもの見せてもらえちゃいましたよ。
もう少しヒットしてもいいのに…
特に良かったのは、案外老舗の風格がない現代の桝田屋さん!いかに威厳や世間体を気にしないでやってきた感が出ていて、家にも人柄が出るのね~~と感心してしまったわ。
itukaさんへ
こんばんは〜♪
そうなんです。正直、“阿部サダヲが出てくる、コメディ物”というだけで、もう「ウゲー」ってw
大体予想が付いてしまいますもんね。
でも、そんな大方の想像を裏切る良作で本当に良かった。
私は実は、初めの方の仲間が少しづつ集まっていく辺り、肝煎、大肝煎などのシークエンスからすでに泣きまくりでした(笑)
瑛太は中村監督とピッタリ合いそうですね。
この間アヒルと鴨を見返してみたんですけど、瑛太は演技いいですよね。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪
でも結構ヒットしてたみたいだし、良かった良かった。
阿部サダヲについて言うと、例えばジム・キャリーなんかも、コメディ演技を抑えたシリアス演技の時は意外に良作があったりしますが、彼もそのタイプかな、なんて思います。
この作品も、阿部サダヲのコミカル演技をとことん抑えた冒頭で、「あ、いつもと違うじゃん!」と期待が出来ました。
ところで桝田屋さんてどの人でしたっけ?
浅野屋・穀田屋、早坂屋とあとは何だったかな〜
ちょっと分かりませんでした!
両替屋でもないし…?!
選挙前に公開されたことは一定の意味があったと思います。
アベノミクスが想定してたトリクルダウンっていうのは、今の日本人がこの映画のような人々だった場合、可能なことなんですよね。
残念ながら、今の資本主義社会ではなかなか起こりえないことなのでしょう。
私と公との関係、今一度考えてみたくなりました。
ノラネコさんへ
こんにちは〜♪
トリクルダウンについては、資本主義のあるところ正直あり得ない幻想なのかなと思います。
トリクルダウンを進めた竹中氏自ら認めていますね。
http://www.mag2.com/p/money/6935
『無私の日本人』素晴らしいことのように響きますが、正直言うと私の考え方はこのベトナム人のものに近いです。
http://temita.jp/twitter/34520