『神様メール』 新・新約聖書がもし書かれたなら
映画の面白さについて語るのはいつも難しいことだけれど、とりわけこの作品については一体どこから語ればいいのやら。この間、友人の前で「最近面白かった映画は」というあの“映画好きとして知られてしまったからには必ず受けることになる質問”を繰り出された私だったけれど、この作品をどうやって人に勧めたらいいのか、私には到底歯が立たなかった。「そんなの面白くなさそう」というみんなの心の声が聞こえてくるような気がした。しかし!お勧めの映画を適切に勧めることすら出来なくて、どうして映画ブログなんて金にもならない無駄な努力を続けることが出来よう?だから私は、果敢にも無駄なチャレンジをすることにした。
なんて前書きは、全く意味のないことなのだけれど…。
ロン・カリー・Jr.の『神は死んだ』を読んだ時に、未だに神についてフィクションを描くことが禁忌であるという事実に、宗教的であるとは言えない私ですら気づき、驚きを禁じ得なかった。
神とこの世の理について大胆な解釈を試みるこの作品は、かの作品よりもっとテクニックに頼らない自由な気風とブラックなユーモアが目立つ、一風変わったコメディに徹している。
キリストの妹をヒロインに描き、神は人間に嫌がらせをするのが趣味のただのクソ親父だ。
この世界ではキリストは既に磔にされていて、親父の横暴に反抗した娘は「新・新約聖書」を書くため6人の使徒をランダムに探し出す。
大胆過ぎる諷刺に、まるで鬱憤が晴れるような思いがした。目を覆いたくなるような嫌な事ばかりのこの世で一方では、人々の心の中には音楽があり、その束の間の美しさに癒される。
台詞の芳醇さがとても多彩で美しく、オリジナリティに溢れていた。まさにそれこそが“ひと”を語るやり方なのだろうと思えた。誰かの人生そのものを詩にすることで、ナチュラルに彼らが使徒であるように思える。不思議な感覚だった。選び出された6人の使徒は、あえて議論を呼び起こすようなチョイスにしか思えない。キリスト教の知識があったらこの辺りについて一言二言引っかかるものがあるのかもしれない。が、私には分からなかった。
ここに描かれた『新・新約聖書』は、いろいろ価値が転倒してしまった現在において、福音が訪れるべき人々に来たることを描いているようにすら思えた。この自由さ、開放感。これこそが芸術的で、それは人生をより豊かにする音楽だった。
2016/07/06 | :コメディ・ラブコメ等 ベルギー映画
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>映画好きとして知られてしまったからには必ず受けることになる質問
あれ、本当に困ります。
大抵の場合私の好みは世間と逆方向なので(笑)
でもこれは本当に美しい映画でしたね。
鳥たちの群舞、失われた手のダンス、花柄の空、
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の作品を観るといつも
うわぁぁぁぁ…となってしまいます。・: *:・: * (゚・゚* ウットリ…
amiさんへ
こんばんは〜♪
ですよね。お勧め映画ちょい面倒…
相手を見て勧めるのを変えるべきなんですが、思いつかなかったんですよね、適当なのが。
「そういう映画好きの人が勧めるやつじゃなくて、私たちにも好きそうなヤツ何かない…?
あ、あの動物がいっぱい出てくる映画は!?」
て、言われました。
「ああ、ズートピアね…」と。もう、それでいいじゃん、じゃあ(苦笑)
うん、この作品は人の想像や喩え話、詩的なものについて、わざわざ映像化しているのが特徴的でしたね!
イマジネーション豊かな映像と詩心がとても良かった!
モンティパイソン的というか、元気な時のテリー・ギリアムに通じるシュールな世界がたまりません。
それぞれの使徒の物語を映像詩のように語るのも、好き嫌いは分かれるでしょうけど、じわじわ来ました。
物語に仕込まれた幾つもの暗喩、意味があるように見せて無かったりするとぼけたディテール。
この監督の持ち味が存分に出た快作でした。
ノラネコさんへ
言われてみれば確かに、このブラックさの突き抜け様はモンティ・パイソン的ですね。
使徒の物語は私はとても痛快に面白く見れました。
意味がありそうで無さそうだったり、ドライなユーモアとして楽しむことも出来る本作、こうしたバランス感覚が大好きなんです。
この監督実は初めてだったので、今後ビデオフォローしようと思います。
たくさん居るのに、また増えましたよ(苦笑。