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『ロブスター』 人間の世界で生きていて楽しい?生まれ変わるなら何になりたい?

Lobster-Quadこれは、今一番自分が見たかった世界かもしれない。あなおそろしや。

ヨルゴス・ランティモスは前作の『籠の中の乙女』同様、人間と人間の関係性を別の次元から見立て、ある種歪んだファンタジーを打ち立ててくる。しれっとシュールで変態的世界に包み、こんな世界どうですか?なんて真顔で提言してくる。
「どうですか?」じゃねーよ、全く。

ただの変態ワールドと高をくくって見ていると、突然凶暴なシンボリックで痛い所をザックリ突いてくるからタチが悪い。
こうした悪意の滲むシュールな世界構築を、単に好き嫌いだけで判断してしまうのは分からないではないんですよね。
だってマトモに喰らうと、生きた心地のしない世界だもの。
一見すれば単なる“変態的な世界観”。でも実は現代の社会機構にも似たところがあるな、なんて好奇心がくすぐられ始めたら最後、この歪曲された表現に現実を見てしまって…痛い、痛い!

社会における人間と“愛”の問題、そしてコミュニケーションの問題。
現代の社会にだってルールはあり、そして“常識”という目に見えないルールもある。
“愛”を得ることが人生におけるゴールとされる中で、そこに欺瞞や葛藤も見出す。
何より“愛の問題”というパーソナルスペースに、社会性を無理やり組み込んだところが、この作品のクレバーなところだったと思う。

45日間で人生の伴侶が見つからなかった場合、動物として生きることを強要されてしまう世界。
今だって、「人間じゃなくて動物として生きていたらもっと楽なのに」と思える人が、ごっそり居るはずじゃないですか。
「自分が動物として生きるなら、何の姿に生まれ変わりたいか?」という問題は、
「人間としての生」を諦めることに対する、“覚悟”のようなものなのかもしれない。

そう聞かれた時に「ロブスター」と答える主人公。
食物連鎖の下の階級を選んでしれっとしているところが、この主人公の怖さでもある。
犬など“人間に食べられる心配のあまりない”、友好的な生き物を選ぶ人はまだ平凡であり、精神的にマトモなのかも?
もちろん、この世界で動物にされてしまうことは“人間の人生“としての生き方を失敗した証であるのだから、どれを選んだところで同じだけれど。

前半と後半で、ルールの異なる2つの世界を選んだ者たちについて描いている。実はこの二段構造で、愛についてさらに掘り下げてもいる。
最初に描写したシュールな世界観、これ1つで描き切ってしまうのがよくあるシュール作品の特徴とも言えるけれど、
ここから逃げず真正面にテーマに組み付いているところがこの作品の賢いところだ。
単に豪華なキャスト陣で人を惹きつけただけではない、シュールの描き逃げを許さないハリウッドのストーリー理論なのかも。

 

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コメント(6件)

  1. これ、最初アホくさいと思ったけれど見たらとっても不思議な作品で一気に気に入ってしまいました。
    なるほど、やっぱり監督さんがクレバーなのですね。
    私もとらねこさんのクレバーな解説で、この作品の理解度が少し上がったような気がします。

    ところで、私は何に生まれ変わるのが良いのか悩むところですが、犬だけは絶対に御免蒙りたいという人です。
    ロブスターはなかなか良いかもしれません。水中は嫌ですが・・・

    『籠の中の乙女』も良いですか?

  2. imaponさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    えっ。私imaponさんとほぼ同じような感想だな〜と思ったんですが、でもでもありがとうございます!

    犬はたくさん居過ぎるって行ってましたけど、猫は居ないのかなー。
    私は虎か猫、パンダがいいなと思います。
    パンダって1日10〜16時間も睡眠時間があって、起きている間はずっと食べているんですって!
    なんて幸せものなんだろう!と、オーストラリアに行って以来、パンダが羨ましくて仕方が無いのですよ…。
    『籠の中の乙女』も変テコ系の話ですよ。籠〜の方はここまで振りきれていないので、人によってはイマイチかも。

  3. 犬や猫も中国の地方に行けば安心していられませんよね。
    ワタシだったら迷わず「亀」と言います。
    社会に適応しなくても甲羅の中でじっとしてればいいし
    気が向いた時だけ手足を伸ばす生活一度してみたいわ(笑)

    こういう映画の記事って文系にとって腕の見せ所と思っている
    理系(と思っている)男子です(笑)
    ワタシは表面しか見ることが出来ないのがダメなんだな~

  4. itukaさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
    中国行ったら確かに犬は安心できないですが…えっ、猫も!?
    亀はいいんですけど、間違えてスッポンに生まれ変わってしまったら、精力つく高級料理になってしまいますよ?!

    itukaさんも亀好きだったんですね。何故か私のリアル友人に、亀好きが居るんです。
    「鉄男」という名の亀を飼っている友人もいるし、亀をホラーの題材に使った監督志望の男の子もいますよ♪
    亀好きは、『食人族』とかキツそうだなあ〜
    (見たら、感想聞かせて下さい)

    なるほど、「文系にとって腕の見せどころ」なタイプの映画ですか。
    フーム。私にとっては、SFの変わり種みたいな感じ。”世界デザインを設計し直す”タイプの映画なので、理系が好きなタイプの映画かと思いましたお。

  5. 怖いけど面白い、でもやっぱり怖い(笑)作品でしたね。

    >食物連鎖の下の階級を選んでしれっとしているところが、
     この主人公の怖さでもある。

    そうそう、この主人公って一見凄く平凡そうに見えるけど
    底知れぬ闇を抱えていそうな気がします(笑)

    >友好的な生き物を選ぶ人はまだ平凡であり、
    精神的にマトモなのかも?

    もしも生まれ変われるなら、人間でも動物でもなく植物がいい
    と思っている私はやはりマトモじゃないですかね^^;

  6. amiさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    なるほど、amiさんは植物が良いのね!
    そういう人が一番ステキな人かもなあ。
    私はでも、じゃがいもとか大根とか、あっという間に根っこごと収穫されちゃう植物じゃなくて、大きな木だったら良いなあ。
    …と、そこまで言ったら『おおきな木』という絵本を思い出してまた、人間の身勝手さを思い出してしまった…!
    なんちゃってw。




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