『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 リーマンショックについて知っていますか
資本主義の盲点、経済破綻の物語。
21世紀版『ウォール街』はこんなにも空しい。
2008年に起きたリーマン・ショックについては、サブプライムローンに関する側からならまだ理解しやすい。
しかしこちらの作品は、モルガン・スタンレー巨額損失の裏側という視点。
経済破綻の目の前まで来ていながら人々が何も気づいていなかった、そして気づいた時にはこうなっていた…あのリーマン・ショックの裏側。
「格付け機関がヤバかった」という一端に関しては読んだことがあったが、経済に疎い自分にはその意味するところがあまりよく分からなかった。
格付けをしたことで一応安心してしまう、知った気になるというのは一般心理として誰しも同じのようで。
映画の冒頭にマーク・トウェインの引用がある。”What gets us into trouble is not what we don’t know. It’s what we know for sure that just ain’t so.” (やっかいなのは知らないことではない。実際は知らないのに知っていると思い込んでいることの方だ。)
まさにこれこそ“格付け機関”がしたこと。人を欺かせ、知っている気にさせた張本人だったんですね。
ストーリーラインとしては、破滅の日“Doom’s Day”に向かいながら危機を煽っていくというもので、同じ主張を繰り返しつつこれを高めていくものだから、物語を牽引する力は途中でその効力を失ってしまう。これからの出来事を案じて身の振り方を変えた人達の視点に、多少のグラデーションがあるのみだ。
“破滅の日”の惨事について描くけれど、よくあるディザスタームービーのように、その惨事の最中の悲喜こもごもが描かれる訳ではない。しかし描かれなくとも、その後の我々の(今まで続く)生活があり、それを知っている訳で。
非常に苦い真実なので、到底楽しい気持ちにはなれない。ブラピやスティーブ・カレルにこの映画なりの善意を語らせようともそれは変わらない。それで体裁が整う訳でもなし。不動産王の成り上がり物語について汚い手口ながら爽快に語った『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の方に軍配が上がってしまう。
アメリカの経済破綻、日本がこれに巻き込まれない訳は無く。アメリカはその損失の巨大さの割には早く立ち直り、日本がまたこの負債を大きく被った。ギリシアの悲劇については語られているけれど、“類を見ない大馬鹿”として描かれるあれはまさに日本人では。いやはや笑えないわ、心が凍りつくのを感じてしまった。嗚呼…。
にしても、クリスチャン・ベイルの演技は凄すぎる。“右目と左目の動きを別々に動かす”という芸当を、最初の登場からしばらくずっとやってるんですよね。ほんの僅かなカラーコンタクトでその違いを示していた?もしくは、キラっと光る2度の目の光だけCGで、あとは演技で乗り切っただけかな。ヘビメタ好きの彼の存在はノイズに感じざるを得ないけれど、にしてもやり過ぎる程に凄い。
スティーブン・カレルもなかなか良かったし。
ライアン・ゴズリングは…間抜けな顔して売り抜けを一人楽しく行う人物(笑)。
これを“娯楽”に変えるのはクソ(もしくは売れ残りの魚)を丸めてシチューにしたというオチでございます。
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そこは己の、ギャンブル精神次第で、この先生きる時間が少ない者ほどバクチに出る(何の話だよ)
ワタシは単純に羨ましかったわ(爆)
痩せたり太ったりを繰り返すクリベイ兄さんですが
いつの間にあんな目技を習得したんでしょうね(笑)
とらねこさん、もしや自分で試したりしてませんか?(笑)
いつも得する人の後ろに損する人がいる。
格付け機関なんか信じられない。株を少々持っている私にもなかなか教訓になるストーリーでしたが、私的には「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の方に軍配かな?
クリスチャン・ベイルの演技にはいつも脱帽ですが、ほかの俳優たちもかっこいい金融マンで・・・ニューヨークのウォール街やロンドンのシィティにいるようでした~
itukaさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
これを見越していた“ほんの一握りの数名”は得をしたとは言えますが、
失業率1%上がれば自殺者が4万人増えるという…
これはさすがに羨ましくは思えないですわ。
日本も全体的に貧しくなりましたね
中小企業の税額が上がっただけで、うちもアップアップですわ。
とてもじゃないがこれを「楽しい夢物語」と笑う心地にはなれなくて…。
暗い未来ばかり考えてしまう。
と、itukaさんに愚痴っても仕方がないのだが(苦笑
クリベイ兄さんて(笑
あの目技はボーっと視線をズラすぐらいなら自分でも出来るかしら。
しかも、「ホラホラ、またクリベイが目線やってるよ!」とばかりにアップになるので、見ざるを得なかったです…
cinema_61さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
たとえ汚いマネーの話だとしても、のし上がっていく楽しさがある分、“アメリカン・ドリーム”足り得る部分があるとして、『ウォール街』や『ウルフ〜』みたいな話はそこが面白かったんですが、こちらはその逆を行くんですよね。
“資本主義の盲点”を見事に暴いてみせたこの作品の恐ろしさは、時代に即した新しい表現として、これは有りかもしれませんね。
ここで金融の将来を見据えている人物達は、システムの全体像かつ外側から見ることが出来る視点を持っていて、
どこかアウトサイダー的でも有るんですよね。
仙人ぽいと云いますか。
「AAAつけないとライバル社に移られちゃうし~」
と言い放つメリッサ・レオに唖然としましたが
リーマンショックに関わった人たちのインタビューなどを見ても
まるで悪びれる様子がないので、
彼女や不法移民に家を売ったと自慢する
男たちの反応の方がリアルなのでしょうね。
対してラストのブラピやスティーブ・カレルの苦悩は
いかにも映画的な気がしました。
amiさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>彼女や不法移民に家を売ったと自慢する男たちの反応の方がリアルなのでしょうね
いや、まさしくその通り!
これに反してブラピやカレルの反応が映画的、本当におっしゃるとおりで。
まあ、この題材を映画化することに対する製作者側の倫理について、多少とも大げさに見せる必要があったのは分かります。
どんなものでもストーリーにすることが出来る、そしてそれがこれだけの規模の映画として成り立ってしまうという…
アメリカの凄さでもありますが、かと言ってこの作品が面白いかというとちょっとまた違うんですけどね。
amiさんとこで、コメント書いたら
「エキサイトブログの禁止ワードが含まれているため、投稿出来ません」と何度も何度も出てしまって、やり直しをせざるを得ませんでした。
ちなみに、この言葉を書こうとしたんですよ↓
「いやはや、一国の経済でこうした大失敗をやらかしてしまうとこんな事も起きかねないんですね。
『インサイド・ジョブ』も面白いんですね〜、私も機会があったら見てみよう。」
amiさんところに書いたコメントの後に、この文を後に付けるつもりでした。
一体、これの何が禁止ワードなんだろう〜?