『偉大なるマルグリット』 アートの国フランスならではの辛辣なコメディ
こんな変てこな話が、フランスでは大ヒットするんだ…!
「やっぱりフランス人のユーモア感覚は、ちょっとヒネリが効いているな」と思いました。
笑える話ではあるけれど、実に痛々しい話なのです。ちょっと言いにくいことを言われた的なズキっとする部分があるんですね。
マルグリットは絶望的な大の音痴で、だけどオペラを歌いたいという純粋な欲望がある。自分は音楽の女神に丸っきり振り向かれることがないにも関わらず。
フランス人はアートに対して、他の国よりどこか一段違うレベルで捉えている、というイメージがあります。
知識人にとっては、アートは音楽・絵画・文学・そして酒も含んだ食の文化に至るまで、すべてアートとして知識が要求される。一国の首相ともなると経済や政治の知識と同様に芸術について“知識として”突出した知識を持っていたりする。
まあ、欧米では当然のことなのかもしれません。
フランスでのアートに対しての認識は広く深かったり、アートを目指す人が多くいるのに、映画を見ていて気づくと思いませんか?
フランスだからこそ懐深く、こうした“下手の横好き”みたいな人が多く居るのかもしれません。『ヴィオレッタ』のイリナ・イオネスコみたいに、自分の娘の裸を撮って有名になるなど、これがフランスでなく日本であったなら、写真家として名を成すことが出来たでしょうか?
芸術の分野ほど、“好きだけれどその才能に恵まれていない人”というのは多く居るのかもしれません。でも、私だって人の事は言えません。こうしてアホみたいにブログを長いこと続けているし、一時期はミュージシャンになりたかった、夢敗れた人だったりする(苦笑)。
私は歌をやっていましたが、上手というよりは表現力で技術をカバーしよう、なんて思っているタイプでした。ヘタウマタイプというか、まああんまり歌が上手いタイプではないんですよね。暴力的表現力、みたいなものを目指していましたから…まさに、マルグリットみたいなタイプでした。トホホ…。
この作品に戻ります。この先ネタバレ。
マルグリットが歌いたい理由、もっと根源的に彼女にとって歌を必要とした理由は、旦那さんに愛されたい、というものでした。これを考えるとさらに痛々しく感じます。実際、彼女はそうすることで自分の望みのものを得たのでした。もはや遅かったけれど。
しかし、彼女を1つの作品として“理解”し、表現するのに長けていたのは誰だったのか、と考えさせる辺り、唸ってしまいますよね。
執事の“作品”は完成しました。悲しい芸術品として。
そして、彼は本当に才能がある人だった。彼女と違って(苦笑)。
2016/02/26 | :音楽・ミュージカル・ダンス フランス映画
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