『ディーパンの闘い』 ラストの意味は?
『リード・マイ・リップス』、『君と歩く世界』のジャック・オディアール。’15年のカンヌ、パルムドール受賞。
今まさに世界中あちこちで大きな社会問題となっている、移民問題に深く斬り込んだ。スリランカ人が主人公であり、核となる登場人物が全てスリランカ人という設定もとても珍しい。テーマをズラしてボカしたり、見やすくすることなど一切しない、手加減無しのオディアールの誠実さ。真っ向からの真剣勝負。だからといって、テーマがどっしりと重苦しく、見ていて辛くなるような物語では決して無い。むしろ、映画的面白さや醍醐味を感じられるようになっているのが、さすがのオディアールだ。
スリランカの一民族出身のディーパン(アントーニターサン・ジェスターサン)は、故国の争いに巻き込まれ、一村全滅した戦士。結婚と家族を偽装し、仮の妻・仮の娘と共に、安住の地を求めフランスへとやって来る。
本当の家族ではないのだから、そして生きる文化も環境も違う中、少しづつ色々なことが上手く歯車が合い始める。だがそれも束の間で…。
途中からの展開には驚くことだろう。闘わざるを得なくなった運命の男に、様々な映画の主人公を思い出すはず。
そうそう、フランスではこうした移民の住むマンションの治安維持に、実際問題が起こっているらしい。(『スリー・オブ・アス』[未公開、2015年TIFFにてかけられた]もまた、移民達の住むマンションの治安問題に触れていたよ!)
この先、ネタバレ(まだ見ていない人は、読まないでね!)
ラストだけれど、これは一体どう捉えたらいいのだろう?私は思わず怯んでしまった。ディーパンは車の中で「死を迎えた」と思える、決定的な目のショットがあったはず。さらにはその後、フロントウィンドウを割って敵側の男が侵入してくるんですよね。ここでカット。そしてラストのあれがある。
私はディーパンが今際の際に見た美しい夢だったのではないか、と思います。ただし中には、そのまま受け取った人も居るようだけれど。
でももしそうだとしたら、悲しい夢ですね…。あの美しい理想郷はこの世には無い、ということだから。でも思い返してみると、だからこそ彼の夢が、あり得たかもしれない未来が、痛々しく感じられるのね。
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コレも一回観ただけでは消化し切れないですね。
社会派の入り口から入って、まさかこんな方向へ舵を切るとは全く予想外。
ラストの解釈も含めて、観る人の数だけ微妙に違った「ディーパンの闘い」があるのでしょう。
ノラネコさんへ
こちらにもどうもです♪
>観る人の数だけ微妙に違った
あれ…?ラスト間際でディーパンが車で突っ込まれた瞬間の“目の表情”のアップ、私はディーパンの“死”を表現していたと思うんですが、ノラさんはそんな風には思われなかったでしょうか。