バクシーシ山下国際ドキュメンタリー映画祭 『逆ナンパしちゃった!? 青木ヶ原樹海編』その他
年末にUPLINKでやっていた、「バクシーシ山下国際ドキュメンタリー映画祭」なるもの。
明らかにタイトルが「山形国際ドキュメンタリー映画祭」を模しているのです。
舐めてる!
昔のVHSを上映する、という非常〜に画質の悪い映画祭なんですが、にも関わらず料金設定が1本1500円と普通の映画祭のように、どころかそれよりも高額。
あのUPLINKの極めて居心地の悪い上映環境で、ですよ。
舐めてる!……ゼッテ〜、舐めてる!!
さらにタイトルを秘密にした2本があり、“シークレット上映”ということで、こちらはさらにボッたくりの1本2000円。
いくらなんでもこれは高いよねー…と、シークレット上映は迷ってるうちに過ぎてしまいました。
見ようと思った時には、発禁AVである『死ぬほどセックスしてみたかった』がすでに売り切れになっていた!
ショックを隠し切れない状態のまま、「これは早めに購入しなければ」と焦って、
それ以外の日程全てを抑えてしまった。
おかげでクリスマスも含めて週に4日、年末のクソ忙しい季節をバクシーシに捧げることになってしまったという…。
UPLINKはなんだかんだ言って商売上手だなあ、と思います。
さて、バクシーシ山下については、
『劇場版テレクラキャノンボール 2013』が面白く、その後『封印されたアダルトビデオ』という本に辿り着いた。ここで1番面白かったのが、バクシーシ山下の企画とM男優の観念絵夢(かんねんえむ)。
そこで今回、バクシーシ作品を見るチャンス!ということで飛びついたのでした。
にしてもこの金額でこのクオリティは、さすがに自己嫌悪に陥りましたがね。
やっぱりUPLINKなんて、あまり好きになれないな。
『逆ナンパしちゃった!? 〜青木ヶ原樹海編〜』
主演はリストカッターの20歳の女性。青木ヶ原樹海で自殺志願者を見つけ、SMをしようという企画。
この企画それ自体は、神がかって面白いのだが…。
リストカッターの女の子はM性感で働いていた元風俗嬢のAVギャル。だがM性感は最近クビになったという。
彼女の人生観を映すべく、独白を出来るだけ掬い上げようと、樹海を彷徨う前から取材が入る。
リストカットの傷跡が生々しい彼女は、普通に見れば可愛くも見れるルックスで、とても細身。
自殺衝動の他には、食べては吐くという摂食障害もあり、その他睡眠障害に発達障害だとか、数えきれないほどたくさんの病気を患っていると言ってました。
食べて吐く姿も毎回カメラに収める。
吐くシーンでは、回数を重ねる毎に少しづつ寄っていき、嘔吐物まで遠慮無く映すところは良かった。
圧倒的に画として物足りなかったのは、青木ヶ原樹海にまず到着してすぐに、樹海に入っていかないこと。
普通に考えれば当たり前のように大事な画でしょう?それなのに、樹海には入らず入り口にずっと居て、ここで自殺志願者を探すのです。挙げ句の果てに車の中で時間を潰しちゃったりして、怠慢もいいところ。
さらには、人が来ないから出合い系掲示板かなんかで相手を探そうと、車の中で携帯をいじるのです。
これじゃあいい画が撮れるわけがない。
場を埋めるかのように、そこにタムロしていた地元のヤンキーとの絡みや、スタッフとの絡みを入れるんですね。
しかしそのセックスが少しも良くない、面白くないんです。面白くない理由はある。
絡みすら入れておけばAVは成立するのかもしれませんが、彼女のリストカットの傷跡が生々しいせいか、相手が皆最中で萎える萎える。
彼女にとっては、AVの撮影は「それでお金をもらっている」という精神的切り替えがあるのでしょう。セックスシーンで彼女を追い込むことが出来ないのです。つまり、“映画”を撮るために必要な画がずっと準備出来ないまま時間だけが過ぎていく。
さらには車の中で漫画を読んだり、とても退屈なショットが続きます。そして、3,4日の短い撮影日程はすぐに終了となってしまう。
最終日近くにようやく、樹海に入っていきます。そこで目にする腐乱死体。
映してはいけないものをモザイクかけて映す。ようやく来た。
でもこれ、どうして一日目に入っていかなかったんでしょう。
さらに、彼女にリストカットをするよう、相手の男優が促すんですね。
「◯◯ちゃんにしか出来ないことやってよ」
彼女は「いいよ」と言って、リストカットします。
ここで死体をバックに◯☓△…!
なかなかの鬼畜です。でも、彼女の顔は急激にものすごく冷めている。
「自分に要求されたものを答えた」だけだから。
彼女にリストカットをすることを、決して促してはいけなかった。
それは倫理的にではない。それじゃ、つまらない画しか撮れないからです。
『誕生 AV女優 初めてのビデオ出演』
2つの章に分かれていて、一つは顔に障碍のある女性が、初体験の相手を探すもの。
もう一つは、派手なガングロの風俗嬢が、オタクな童貞の筆おろしをするもの(+α)。
まず前者から。
顔に障碍があるのは子供の頃に暴力被害にあったからで、そのためにいじめも受け、学校も中退してしまっているという、割と壮絶に可哀想な女性。この子が渋谷で逆ナンパして処女を捧げる相手を探そうという企画。うん、なかなかいい企画。
1人ではなかなか難しい。コミュニケーションを人と取ること自体に抵抗を感じている様子。
きっと、カメラの前に立つこと自体にも抵抗があったのだろう。そのことが良く分かる。
おかげで、余計この“ドキュメンタリー”が面白いものになっている。
だが、時間をかけることが出来ないと言わんばかりに次の手を出してくる。本当はゆっくりこの辺りをエグって欲しかった。そうしたら面白くなっただろうと思う。
友人の女性(AV嬢)を呼んできて、彼女と共に逆ナンパ。109近くにいた遊んでそうな男性を引っ掛けることに成功。
痛がってなかなか入らないのも割とリアリティがあった。
AV嬢がいろいろアドバイスをしたり、実際にプレイにも参加して、何とか処女喪失に成功。
まるでお産のようだった。
後者は、
当時流行のスタイルをそのまま思い出すようなガングロギャル、彼女は稼いだお金をホストで使うのが好きな派手好き。
彼女の希望をまず聞くと、「セックスが上手な人」と言う。
彼女はAV出演自体はこれが初めてなので、確かにタイトルの「初めてのビデオ出演」に嘘偽りはない。
そこで登場するのが、コンピューター系専門学校の学生。いかにも昔のオタク風、「この人童貞では…」と思わず疑うようなタイプ。実際童貞だった。
この彼のキャラがなかなか濃くて、場内爆笑。いやあ、面白い!
終わった後、オタクは満足気。ガングロギャルへの偏った見方が変わったと言う。だがガングロ、「気持ち悪かった!病気が伝染りそう!」とどこまでも酷い。
その後彼女へのサービスのために、経験豊富なAV男優登場。
登場時に「あなたを満足させまーす!」の一言と同時にY字開脚。面白い人だった。
様々な体位を試し、アクロバットな技を披露。
中国雑技団もあわやと言うほどのトンでもない体位が登場し、あまりの凄さの連発にまた場内爆笑。
ガングロも満足気だった。めでたしめでたし。
『私が女優になった理由 望郷編 何故クニに帰れないか知ってますか?』
こちらも2つの話のオムニバス。
一つは、風俗好きで自己破産し、実家に帰れない素人童貞の中年男。
AV女優に「結婚相手」として演じてもらい、彼女と故郷である北海道の片田舎へ帰る、という話。
この中年男、元々は真面目に働き、貯金していた時代もあったと言う。
しかしその後、風俗に通い始めたところ、ハマってしまって全財産を使い込んでしまったという。
セックスが好きだが、素人とは未経験。
このオジサンがまたキャラが濃い。天然な性格をそのまま出してくるのがすごく面白い。
彼の田舎の駅も「幸福駅」という名で、なんと駅なのに木造建築。
北海道の田舎も雪深く、馬小屋を改築してそこに住んでいると言うんですね。両親の住んでいるとても貧しいバラック。
一言も口を聞かない老いた父、驚く母。
すごく画になる…!
両親に彼女を「嫁」と詐称して紹介した後、田舎の家屋でセックス。
事後に彼に「このセックスはいくら出すか?」と聞くと、「1万5千円かな」と。
それを聞いてAV嬢、「そんな安い値段でヤらせたこと無いわよ!」と一喝。
どちらかと言うと男を上手に立てるタイプの、物の分かった雰囲気の黒髪の女性であり、
良く出来た若い嫁を演じていた後であっただけに、面白かった。
2つ目の話は、AV男優である花岡じったが、柳光石という本名で登場。
彼は日系3世の在日コリアンであり、やはり同じ在日コリアンである女性と一緒に韓国に帰るという企画を、元々は立てていたらしい。でも女優さんの関係でパスポートが撮影日までに降りず、仕方なく韓国との国境が見えるところで岬でセックスする、というものに変わっていった。
ここでは在日であるアイデンティティについて、ありのままに語っていて、こうした辺りを決してキャラを作ったりしないところが、花岡じったらしいそうだ。
自分は花岡じったについては何も知らず、終わった後のトークショーで知った。
この時、バクシーシ山下と松江哲明監督のトークショーがあった。
松江哲明監督は在日で、このAVを見て在日についてあけすけに語っていることに、とても驚いたらしい。
在日を題材にした映画や本は、どれもテーマが重いものであっただけに、
在日というアイデンティティについての本音を、等身大で語ることにカタルシスを得たそうだ。
いずれにせよ、この2つの話はどちらも普通に「AV」として見始めて、これが出てきた日には
見た男性は驚くだろう。
確かにこれは、AVでありながらとても面白いドキュメンタリーになっていて、
90年代のVHSのAVの雑多な面白さを、体験することが出来た。
『1995東京大虐犯』
冒頭、戦後50年企画!と大きく謳い、「映像の世紀」さながらの歴史映像アーカイブから始まる。
こ、これは一体!?
サリン事件の後に、バクシーシ山下が仕掛けたとのこと。
今回の男優は、キグルミを着た観念絵夢と、警察の制服を着たカンパニー松尾。
観念絵夢はバクシーシ山下子飼いのM男優。笑えるキャラで相当濃い。
今回はSMではなく普通の絡み…と思いきや、カンパニー松尾は防毒マスクで登場し、毒ガスを観念絵夢に撒く!
観念絵夢は「グエー」とか言いつつ悶え、その防毒マスクのままカンパニー松尾はコトに及ぶ…という鬼畜なものになってました。
女の子も毒ガスがかかってしまったと思うけれど、そのままカンパニー松尾のハメ撮りは続く。
ハメ撮りかつ横で観念絵夢が毒ガスに苦しんでいる…という画はなかなか良かった。
『18歳〜中退してから〜』
阪神淡路大震災の被害の甚大な、倒壊家屋の映像。
これは、バクシーシ山下がとうとう社会派なテーマを!
…と思わせて、やっぱりいつも通り。
実家が被災してしまったという男を慰める、という企画ではあったけれど。
被災してから一度もセックスしていない、というAV男優。
それもそのはず、地元の大きな体育館のような施設に避難し、そこで暮らしているので。
この辺は311の時に被災地に行ったけれど、まさにそれと同じような映像でした。
連れてきた女優を紹介し、被災した倒壊家屋を紹介しながら
少しづつ気持ちが高ぶっていく彼。
もちろん、外で…という訳には行かないので、
車の中で事を済ませるのでした。
お風呂に入れていないということだったので、女優さんにとっては結構キツい体験だったかも。
まるきりいつもと変わらぬ、ただのセックスでした。
終わった後のトークショーで、柳下毅一郎が「社会的な視点が入るのかと思ったけど、バクシーシさん何も考えてないよね、社会のこと」と言ってたけれど、その通り!と思わず吹き出してしまった。
全体を通して、バクシーシの企画は基本的に面白いのだけれど、
カメラがとにかく粗いし、割と辛かった。
予算や日程の都合上、企画倒れでそのままB案へ…と雪崩れ込んでしまうのが勿体無く感じることが多し。
宮台真司が「バクシーシ山下は天才なんだよ」なんて言っていたので、少し期待しすぎてしまった。
女優さんのワガママに優しいのがAVの現場なのかな。もう少し粘ったら良いモノになれていたのかもしれない、と思ったり。
これはAVに期待するべきことではないのかもしれないけれど、絡みではなくその奥にある本質をもっと捉えて欲しかった…と思うことが多かった。
でも、人間味のあるAVになり得ていて、これをVHSで適当に借りた人が見たら、驚くことは間違いないだろう。
トークショーでバクシーシも言っていたけれど、最近のAVはとにかくパッケージングが全て、綺麗過ぎる。
そしてネット上で全て評価が決まってしまう、という。
「何か良く分からない有象無象の物を期待してお客さんが見ることは、もはや出来なくなった」
なるほど、時代の変化だなあと思ったりもした。
てか、こんなにバクシーシ山下を真面目に見ている人は居るのか問題!(笑)
2016/01/06 | :ピンク・ロマンポルノ 日本映画
関連記事
-
-
恥ずかしいタイトルだけど傑作 『妻たちの性体験 夫の目の前で、今…』
なんて恥ずかしいタイトルなんだ…! ロマンポルノの感想を連日挙げておき...
記事を読む
-
-
『濡れた壷』 こちらも小沼勝×谷ナオミ!
シネマヴェーラに来れる喜びよ!嗚呼、ロマンポルノ素晴らしきかな。 谷ナ...
記事を読む
-
-
『団鬼六 「黒い鬼火」より 貴婦人縛り壺』小沼勝×谷ナオミは間違いなし!
『生贄夫人』が大傑作なので、シネマヴェーラでやってる小沼勝特集では田中...
記事を読む
-
-
エイゼンシュテインをグリーナウェイが描く 『エイゼンシュテイン・イン・グアナファト』
そうそう先日、ゲイのカップルの結婚式に行ってきたんですよ。 1人は白人...
記事を読む
コメント