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『独裁者と小さな孫』 悪政と血の革命の行き着く先

story強大な権力の下に、これまで散々やりたい放題の限りを尽くしてきた独裁者が、革命が起こり、一夜にして逃亡者となる…。
これはロードムービーとも言えるのかもしれない。
追われてはいるし、それまで自分のものであった国を、彷徨う旅ではあるけれど…。

まだ年端もいかない小さな孫と祖父の逃亡劇だ。
“大統領”という名目を捨てての。
おそらくこうしたことでもなければ、孫は一生彼を”大統領”と呼んでいたであろう。

初めて、幼子が死を目撃するシーンがある。この“逃亡劇”が始まってすぐのことだ。
「死ぬって何?なんで動かなくなるの?」
これまでの誰もが通る道 ー “死の概念”だ。小さな子にとってはそんなこともまだ分かっていなかった。そして、こうしたことが勃発しなければ、まだ彼は何も分からず、大きくなるまでずっと宮殿の中にいただろう。
死の概念について尋ねる彼の台詞は、大統領にとっても目に映るもの全てが初めての体験だったのだろうということまでも意味する。
とても辛い旅が始まるであろう冒頭だが、同時に新鮮でもある。
驚くべき設定の面白さ。

小さな孫にとって、身近に居た小さな友人、マリアという女の子のことが気になる。
このマリアと対比させての、大統領にとっての”マリア”が、売春婦であることも面白い。
(名前の由来についての凡庸な指摘は避けるとして…)
周りは全部敵だらけだったとすぐに悟ったであろう独裁者にとって、唯一思い描いたとっさに信用出来る人間が、この”マリア”だったのだ。

クライマックスでの“決着の付け方”がまた素晴らしくて、さらにこの作品の価値を上げている。
暴徒と化す民衆、革命が行き着く先、たとえ悪政を倒したとして、その後の政治はどうあるべきか?
気高い人間として、正しいことを選択することの難しさ。
群衆の獣性、復讐の持つ根の深さ。

世界中で紛争が起きているどの国の民にとっても、この作品の描いたラストのシークエンスは、崇高なものとして映るだろう。
世界がこうであって欲しい、そう思いながら…
何故だろう、心が沈んだ。
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コメント(4件)

  1. 観てきました
    久々に「映画観てきた〜」ゆーホコホコな気持ちになれました
    予測不能な展開にドキドキとざわざわでたまらんかったし
    ダンスとギターがチャーミングでたまらんかったし
    2015年ナンバーワンに決定でした
    この監督の他のDVD作品が高額過ぎて手が出ません

  2. よしはらさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    おお〜!よしはらさんていつも意外なチョイス、意外な感想。
    これが今年のナンバー1でしたか!
    なんとなんと…。今年の番狂わせ。

    うんうん、ダンスとギターがチャーミング。
    真面目なばっかりじゃなくて、こういうシーンが差し挿まれているところが、好感が高まりますよね。

    私もマフマルバフ、他の作品も見たいなーと思っているところですわん。

  3. こんばんは。
    今年初めての映画でしたが、見応えありました!
    子連れの逃亡劇(ロードムービー?)は今も起こっているであろう悲惨な世界事情を考えさせられました。
    「独裁者を倒しても憎しみの連鎖は終わらない!」

    圧倒される結末も見事でしたが、孫の視点が加わることで凄惨なシーンの清涼剤になったのでは?
    ウオッカや赤いスカーフ(サラファン)で、とある国とは、旧ソ連邦の国だと想像できましたが・・・・。

  4. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    お、こちらが今年の映画はじめでしたか。
    良い始まり出しで素晴らしいですね。

    そうですね。これはどこの国であるか、特に描いていない訳ですが、そのおかげでどの国にも当てはまる寓話になっていると分かります。本当に、現在の世界情勢を思わせるものになっていますね。
    孫が可愛かったですし、お爺ちゃんの逃亡劇も本当に小憎たらしくて、面白かった!
    この作品の素晴らしさは、数年経って尚語り継がれるようなものだと思います。




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