20年来の愛を超えた告白 ツァイ・ミンリャン最新作 『あの日の午後』
何なんだろう、この愛は。最新作がこんな愛剥き出しの告白とは。驚き呆れ果てた。ツァイ・ミンリャン、あなたは一体、どれだけリー・カンションのことが好きなんだ!
唯一の音楽である、さわさわという風の音もとても良かった。
永遠のような、あの日の午後。
まるで撮影が終わるのを惜しむかのように、ツァイ・ミンリャンは次から次へと話題を振ってくる。
共に歩いた22年間。
出会ったことによって、お互いの人生が変わってしまったね、って。
自分と作り上げたこの作品群について、シャオカン(小康=リー・カンション)はどう思う?
後悔はしていないか?
自分と一緒に映画を作っていても、儲かることなど無かったけれど、それでも良かったのか?
自分の性癖についてはどう思う?
君のお母さんは、一緒に暮らしていることを、一体どう思っている?
自分の創作は君のおかげで生まれた。
こんな関係は恋愛ではない。だけど自分の人生にとって一番重要なのは君だけだ。
毎日国際電話して、無事でいるのを確かめて安心する。
(ネットは一切使えないツァイ・ミンリャンの、唯一の娯楽が電話らしい。)
来世ではもう一度自分に会いたいか?
…こんなこと尋ねられたって、困るよね(笑)。
言い足りないことは無いか?
とめどもなく涙が落ちるままに、思うがままに語る。
ほんの数時間なのに、彼ら二人の人生を丸ごと感じる、広がりを持った時間。
ツァイ・ミンリャンはまるで最後の時間を迎えたように質問をする。この作品は遺言代わりなのだろうか。
不思議と切なくて、見ているこちらまで泣けてしまった。
ツァイ・ミンリャンは、自分の人生を一つの映画にしてしまった。
リー・カンションとの対話、という形で。
最も彼に相応しいのがこの形だったのだ。
ほんの少しだけ日が落ちるのを、開け放した窓越しに感じた。
2015/12/21 | :ドキュメンタリー・実在人物 台湾映画
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