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『恋人たち』 アンチテーゼとしてのリアル

maxresdefault『ハッシュ!』『ぐるりのこと』の橋口亮輔監督。
この監督の好きなところって、表現者としてとても誠実だなと思えるところなんですよね。
自分の中での何かを必ずぶつけてくる。「これならきっと受けるだろう」とか、「人に愛されるべき王道を目指そう」などと決してしない。いつもはみ出してしまう人を描いていて、そこに嘘のない真っ直ぐな目線を感じる。

今の日本映画が決してやらないことをやろうとしていますよね。
地味ながら、「人がやらないことをやろう」という決意に満ち満ちている。日本映画へのアンチテーゼ。これがとても気持ちが良かった。
あまり見たことのないような役者ばかりを起用するところもその一つですよね。見たことがあると言えるのは、リリーさんと光石研ぐらいかな。日本の映画界は、同じような役者ばかりを使いますよね。もう、名前だけでウンザリしてしまう。大体どんな映画か分かっちゃうでしょう。しかも同じ人ばかり起用されるんですよね。そういうものを全て避けたのでしょうか。リリーさんはまあ最近映画に出過ぎですね。でもほんの1シーンだけだし、『ぐるり』の主役に抜擢したのはこの人ですから。彼を役者として本格的に起用したのはこの監督なんだから、許しましょうよ(笑)。

あと、橋梁からの景色!これは珍しかった。東京の風景を描いて、橋梁から見た川からのショットなんて殆ど見たことないよね。だって、東京って川が汚いもん。舟に乗る機会自体めったにないですよ。お台場やら浜松町辺りには実はシーバスがあるし、その辺はまあ東京湾ですけれど、一応見せる用としてのキラキラ都会。…なんて言うほど気分が上がるようなものじゃないんだけど。隅田川ライン下りなんかもありますね、屋形船。それぐらいかな。屋形船は画になるんだけど、まああまり乗らないです。実は凄く高い。天麩羅付きとか言ってボってたりするし。まあ東京の人は舟は乗らないです。だから、東京を走る川からの景色なんて、初めて見た!と驚いちゃったな。ラストショットもこれでしょ?しかも、橋の下をくぐる。感激しましたね。東京でまだ見たこと無い風景なんですよ。

ファーストショットは正直、居心地が悪かったです。フェイク・ドキュメンタリー的なことがやりたいのかな、と。まず斜めからの長ーい“独白”ショット。素人的な役者を使って、ギリギリのリアルを攻めたいのかな、ああ、そっちかー、って。もしかすると、村上春樹も言っていたような、作家の”移行”の時期ということなのかもしれません。“一人称”から”三人称”に移行するためのそれ。“主観視点のリアル”から、”客観視点のリアル”へ、描きたいことを移行するための“通過点”なのかな、と思いました。私がこの作品に思ったのはそれかな。橋梁を抜けていく風景を見ながら。

内容は全然違うんだけど、私はこの作品を見て『野火』を思い出しました。インディペンデントだからこそ出来る、本気。今だからこその表現、であるとか。身を賭した表現者意欲、なんてものを。
これからもこの監督は追いかけていきますよ。

 

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コメント(2件)

  1. まさしくアンチテーゼでしたね。
    橋口亮輔監督じゃなかったら、私は絶対観ようとは思わないタイトルです(笑)

    >あまり見たことのないような役者
    私は元々脇役好きなので結構知った顔が多かったですが、
    メインの3人は全く知らない人たちで、それが尚更リアルに感じさせられました。

  2. amiさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ハハハamiさん的にダメなタイトルなんですか!
    しかし、全然『恋人たち』という名のロマンティックさとはかけ離れたタイトルでしたね〜

    メインの3人以外はご存知でしたか。
    私はあまり邦画の俳優を知らないんですよね〜
    アイドルや芸人・芸能人はもっとだけどw




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