『サラゴサの写本』 キング・オブ・カルト ポーランド発千夜一夜物語
ポーランド映画祭で見た。
中学時代の友人の話だけれど、彼女はそのディテイルにこだわるためか、いつも必ず途中で脱線した。そしてどんどん話が複雑になっていく。いつ会っても話の内容が豊富で、次から次へと展開していく。私はいつも聞いているだけで楽しかった。この映画を見てそんなワクワクする楽しさを、ふと思い出した。
この作品は彼女の話とは違い、一度も行ったことの無い場所を旅する千夜一夜物語だった。次の頁をめくると、その話の続きとは限らない。
ナポレオンの時代のスペインで、戦時中にとある貴重な本が見つかったことから始まる。「それはどんな本かというと…」と頁をめくるやいなや、この世界へひとっ飛び。しかし、そのまま戻っては来ない。”行ったきりで現実に帰ってくることのない”幻想譚だ。
この世界のどこかの話のようで、どこの世界の話でもないような。幻想の扉まで開けてしまうので、気づけば幻想怪奇の世界を彷徨う。そしてそれが心地いい。
原作はポーランドの怪奇幻想小説で、ヤン・ポトスキ『サラゴサ手稿』。監督のヴォイチェフ・イエジー・ハスは、リアリズムには背を向け、幻想的でカルトな方向へと、グイグイとギアを上げていく。
誘惑の美女二人に囲まれ、気づけば朝は必ず死刑台の下で骸骨と共に目覚める。いつか自分も見たことのある、夢の中の話のよう。彼が連れて行かれた館で、人々が話を始める。その内容とは…と言って、そこでも物語が始まってしまうのだ!出会った女が話すことには…と言ってまた始まる、終わりの無い迷路。しかし、いつしかふと世界が交あい、あちらとこちらが出逢いスポンと解決する。
意味なんて無いのかもしれない。リアリティ重視の作法の映画に対して、真っ向から否!と言っているのかもしれない。映画に、そしてこの世に意味を求める無益さについての物語なのかも?
「夜の夢こそまこと」ととある作家は言った。そう実感する人には、きっとたまらない最上級の映画。素晴らしき偉大なカルトがここにある。
片チチを出した女性が招きます。この世界の女性たちは皆、胸が綺麗。
いつも飲まされてしまうドクロの杯
気づけばいつも居る、死刑台の下。「寝起きが最悪だよ」。
「老婆のように腰の曲がった灌木」という美術、なのでしょうか。冥界の世界の入り口なのかも。
このオジサンが好きだったな。余裕の笑みが素敵なの
誘惑はいつも受けて立つ
で、このオジサンは誰なの
2015/12/09 | :カルト・アバンギャルド ポーランド映画
関連記事
-
-
『幻の湖』 迷作であるが超大作
以前、新橋の立ち飲み屋で本を読んでたら、「何読んでるんですか?」と隣の...
記事を読む
-
-
怒りをむき出しにするカルト映画 『追悼のざわめき』
「この映画にようやく世間が追いついた」って、すごく的を射た表現。まさに...
記事を読む
-
-
小津をアメリカに紹介した映画評論家の前衛映像集 『ドナルド・リチー作品集』
アメリカに小津や黒澤を紹介した評論家(『小津安二郎の美学――映画の中の...
記事を読む
-
-
無敵少女の王国 『ひなぎく』
“幸せになれるカルト映画”をもし選ぶとしたら、この作品がまさにそれ。可...
記事を読む
コメント