オリヴィエ・アサイヤス 見事! 『アクトレス 女たちの舞台』
素晴らしかった!アサイヤスの確かな手腕に思わず唸ってしまう快作。
名監督に次々と起用されるジュリエット・ビノシュなれど、失礼ながらこれまではそれほど得意ではなかった。さらに言えば、クリステン・スチュワートはどうでも良かった。しかしこの女優たちの輝きはどうだろう!
そうした思いすら、逆説的にこの映画に作用しているように思えるのだから。
ああ、もっと演技や役作りについての映画が観たい!
“苦手である”というのは逆に言えば、自分にとって何か引っ掛かりがある証拠なのだ。受け入れることを拒否するが故に、潜在的に心がそれから逃れようとする。楽になりたくて。
ここでのビノシュも、自分の若さや美貌が一番出会いたくなかったものに対峙する時が来る。それは”老い”だ。
老いは、当然ながら女優だけに訪れるものではなく、女性全般にとって逃れられない時間との永遠の戦い。溌剌とした若さを誇るが故に、老醜を忌み嫌ったかつての自分が、そのまま今の自分を否定する。日本語ではよく言われる便利な表現 ーまさに”ブーメラン”。
中年太りしたセルライトのついた体で全裸になることも辞さないジュリエット・ビノシュに心からの敬意を。
呼応させるように映し出される、クリステン・スチュワートの美しい尻。
ビノシュの涙は、若さに拒否される老いの寂寞感。
あの瞬間に私は永遠にあの蛇に憑かれてしまいそうだ。
一触即発の、自分をカタストロフに陥れかねないその危険な状態。
映像で表現したあの崇高さがもう、忘れられなくなりそう。
スイスの山々が心の中に刻み込まれる。
圧巻。
でも、邦題はちょっとなあ…。
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コメント(8件)
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こんばんは。
見応えのある映画でした~
会話が素晴らしく、ビノッシュは勿論、クリスティン・スチュワートも負けていませんでしたよね。
女優としても女性としても「老い」を認め、受け入れるのは大変なこと!ビノッシュの演技は見事!
「イングリッシュ・ペイシェント」での可憐な姿を思い出しながら、年月の経過の過酷さを感じました。
スイスの雄大な景色とバロック音楽が印象的でした。
cinema_61さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ビノシュは見事でしたね…。
本当、あの涙を流した瞬間、ビノシュの昔の作品がフラッシュバックしましたよね!
私は『汚れた血』や『存在の耐えられない軽さ』の、純粋無垢な役を演じた若かりしビノシュを思い出しましたよ。
『イングリッシュ・ペイシェント』も大好きな作品でした。
スイスの景色とバロック音楽!本当ですよね。
アサイヤスってこれまでロックを使うことが多かったのに、この作品ではバロック音楽の荘厳さですもの。
マローヤの蛇が心に一生刻みつけられてしまいました…!
大絶賛じゃないですか。
ワタシもリンゴを齧りながら「マローヤの蛇」を見てみたいです(笑)
だらしなくベッドに横たわる姿なんて完璧ですよね!
脱ぎかけたジーンズの構図なんて、これ絵画にしてもいいくらい^^
本作はいつまでも観ていたいと思った映画でした。
そういう感覚って特定の作品に時々あるんですよ~(笑)
itukaさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
あのベッドに横たわる後ろ姿、ほんのわずかTバックがセクシーで、ジーンズは脱ぎかけ
絵画みたいですよね。
こういうほんのわずかなショットにも心惹かれましたね。
マローヤの蛇の雄大さ!素晴らしかったです。
「いつまでも見ていたくなる映画」って本当、おっしゃる通りですよ。itukaさん、いいこと言う!
この世界にずっと取り込まれてしまったみたいな感覚を覚えました。
とらねこさん、こんばんは。コメントありがとうございました。
>名監督に次々と起用されるジュリエット・ビノシュなれど、
失礼ながらこれまではそれほど得意ではなかった。
さらに言えば、クリステン・スチュワートはどうでも良かった
わはは、全く同感ですね。
ビノシュって、なんか大竹しのぶみたいですよね。
クリステンは、『アリスのままで』でちょっと、「ん?」とは思ったのですが。
彼女ちょっと影があって、ヨーロピアンな雰囲気があるかも。
いかにもアメリカンなクロエちゃんと対照的でした。
邦題はね、、、ほんと、いつもトホホですよね。
真紅さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
おー、真紅さんもやっぱりビノシュ苦手でしたか。
>大竹しのぶみたい
実を言うと、私も全く同じことを思ってました。証拠↓
https://twitter.com/rezavoircats/status/187024742648262657
2012年に言ってるw
でも、彼女は若いころの作品が私は結構好きなんです。それも、若さそのもののような役がとても似合う女優さんだったんですよね。
カラックスの『汚れた血』、『ポン・ヌフの恋人』、フィリッピ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』!
本当いい作品に出てるんですよね。
(もちろん『青の愛』や『イングリッシュ・ペイシェント』なんかもいいんだけど。)
でもこれを見て、改めて彼女のことが好きになりました。
クリステンは、『アリスのままで』も『オン・ザ・ロード』もすごく良かったですね。
邦題は、もう今年は特に酷いのばかりでしたよね。
ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートに対する
これまでの見解は私も全く同じです(笑)
特にクリステンは『オン・ザ・ロード』や『アリスのままで』で
あら、結構イケるのね~(その上から目線は何?)と思っていましたが、
この作品での彼女にはすっかりやられました。
老いと若さをこれでもか!と対比させる監督の残酷さ(笑)に痺れました。
amiさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あら、やっぱり?(笑)
amiさんも一緒だったって、嬉しい^^
ビノシュはいい映画に出る女優さんなんですけど、好き嫌いで言えばさして好きでも無かったんです、実は。
それがこんなに好きになっちゃうなんて。
クリステン・スチュワート、『オン・ザ・ロード』と『アリスのままで』は実は素晴らしいですよね!
アサイヤスが彼女を気に入っての出演になったそうなんです。
私もすっかり見直してしまいました!ブラボー!
あのシルス・マリアが立ち上る瞬間!
そうした女性の執念、怨念、嫉妬のようなものが蛇という形を表現しているとも見えるなと。
そして、それが神がかっても思える。神秘的であり、幻想的でもあり。
鳥肌が立ちました。