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ホセ・ルイス・ゲリン 『ミューズ・アカデミー』

14391940222308幻惑する映像美を封じ込めての審美的議論。
能動的な誇大妄想狂の美という病に犯された者にとってはふむふむと膝を打つ前半から、次第にミもフタも無い方向へ進む後半まで全部まるっと面白い!

「ダンテの『神曲』で描かれたミューズとは何か」をテーマにした授業の中で、古代ギリシャ時代から語られてきた文学=詩、美の真髄について学ぶ。彼の授業で学ぶ人々が、傍目から見て“美しい”容貌の人々ばかりでないということが、この物語に真実味を与えていた。言葉によって調教され、詩を文学を自ら開発していく女性たち。
自分の中での美を見出そうとするかのように、闊達な議論を繰り返すところが面白かった。ベアトリーチェの体現したミューズ性とは何だったのか。女性が自らミューズになるために、自分の中でそれをまず発見しなければいけない。懐疑的な人。別の方向に美を見出す人も居た。だが、喧々諤々繰り返される議論の中で、彼の論理から決してミューズになり得ない人がいた。それは彼の妻だ。
「結婚は経済制度から来るものであり、だからこそミューズから遠のく。」「法を犯すしかないのだ」という教授の台詞がある。

ストーカーを最大限に詩的に描いた『シルビアのいる街で』をふと思い出す。
彼女の神々しさは瑞々しく、現代に蘇ったミューズだった。『神曲』のベアトリーチェは、そのままゲリンにとってのシルビアだ。シルビアもまた、ベアトリーチェの永遠性を体現していた存在だった。
妻と対決する教え子の女性は、ミューズについての教授の論理について本来懐疑的な立場を保ちつつ、闊達な議論を交わしていた1人だった。この彼女が、ガラス窓に映るシーンでは神々しく美しい姿に映る。もはや、家父長制度について頑なな意見を持っていた最初の彼女とはまるで別人だった。

前半で語られる、詩=文学としての美、ミューズについての喧々諤々たる美学論議は、後半で教授が行う“課外授業”によって、台無しになってしまうか。まるで教授は岡田斗司夫のようであるし、「不倫は文化だ」と言った例の人と同じようなことを言っているだけのように思える。観客は後半で彼を大いに笑うけれど。
教授が言うように、ミューズはただ性的行為それだけに言い換えられるものではないはずだ。教授のその行為をただの笑いとしてしか考えない人は、おそらくこうした論議について一度も見たり聞いたりしたことがないのだろう。少なくとも前半に語られた美の永遠性を嗤うことは、単にその人が美から遠のく行為だ。

私にとっては、ミューズについて誰かと話をしたくなる魅力的な作品だった。作品に巻き込まれたくなった。現代に大いにミューズについて語り合うこと。古代ギリシャ時代から何千年もの間語られたであろう議題を、ゲリンは大胆に体現し笑いと共に語った。私は大好きになった。

’15年、スペイン
原題:La academia de las musas
監督:ホセ・ルイス・ゲリン
出演:ラファエレ・ピント、エマヌエラ・フォルゲッタ、ロサ・デロール・ムンス

 

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