渋い人間ドラマ 『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』J.C.チャンダー
『オール・イズ・ロスト』のJ.C.チャンダーだったので気になり、終わってしまう前に見たが正解だった。アルマーニのスーツに身を固めたオスカー・アイザックがまるで『ゴッドファーザー』のアル・パチーノに思えてくる。なかなかに渋い。
上にUPしたのは海外ポスターなのだけれど、モノクロのせいもあってか異常にカッコ良くないですか?
キャメルのダブル襟のコートに、深いターコイズブルーのスーツがやたらとキマっている。佇まいがまるでマイケル・コルレオーネの若い頃を思い出させるのも、これはきっと狙いだ。自分の事業の成功を信じ、真っ直ぐ強い視線でひた進むアベル・モラレス(オスカー・アイザック)。
でも、コルレオーネファミリーと違う点が明確にある。高潔な彼は、この種の業界に横行する犯罪行為スレスレの横暴さやマフィア的なやり方を、けして真似ようとしない。そして、恐ろしいことに名前が“アベル”なのだ。人類最初の人殺し犯罪“カインとアベル”では、殺される側の“アベル”…。
実際ここ最近、業績をグングンと伸ばした彼の会社がずっと狙われ続けていた。何ガロンものガソリンが盗まれるがまま。武器も携帯することを許されず自衛手段も持たない運転手は、大怪我を負い病院に入院せざるを得なくなる有様だった。
今まさに大口の契約を結ぼうというその大事な時に、邪魔な横槍が入るアベルの会社。“アベル”は“罪なき羊”のメタファーなのだろうか…?
成功の代償が鮮やかに描かれたこの作品は、なかなかの傑作だった!アベル役のオスカー・アイザックは素晴らしいけれど、彼と考え方が正反対である奥さん、アナ役のジェシカ・チャステインもまたブラボー!この人の演技力は相当高くて、いつも目を見張る。今回もやっぱり素晴らしかった。私は、監督がJ.C.チャンダーでなく、彼女の演技を見るだけでもきっと当たりだろうと踏んだけれど、正解だった。今後も彼女は追いかけよう。
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コメント(2件)
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とらねこさん、こんばんは~。
コメントありがとうございました。
私は『オール・イズ・ロスト』は未見でキャストに惹かれて観たんだけど、なかなか痺れましたね。
ジェシカ・チャスティンは、今ハリウッドで一番パワーのある女優さんかもね。
グザヴィエ・ドランの新作にも出てるとか・・・期待よね~。
しかしとらねこさん、本当にたくさん観てるのに記事もたくさん書いて、すごいなーっていつも思ってます。
これからもよろしくです♪
真紅さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おお、ジェシカ・チャステイン、ドランの新作に出るとは!
それは楽しみです!
そうなんです。私、映画ばっかり見てるんですよねー。
記事は、書くの早いですから…
チャッチャチャッチャという感じ。
twitterにずっと居るのあんまり好きじゃないんですよ。
時間があるならブログをやる方が好き。
『オール・イズ・ロスト』、これもなかなか骨太な素晴らしい映画だったんですよ!
きっと真紅さんも気に入られると思います。