パブロ・ラライン『ザ・クラブ』 空恐ろしい傑作!ベルリン審査員賞
ベルリン審査員賞を取った作品ということで、前作の『NO』が今ひとつだったけれど見ることにしてみた本作。
これがかなりの力作で素晴らしかった!
ラテンビート映画祭にて鑑賞。
聖職者4人が海岸沿いのとある家で皆で暮らしている。過去に犯した罪のためか、教会から追われた立場であるのか、どうやら褒められないような過去を持った者達がここに集められている。ただ一人のシスターが彼らの生活の世話をしているのみだ。
ある日、ここにもう一人の聖職者が加わった。彼は無口だったが、明らかに居心地の悪さを示している。自分はここに属する者ではないと清廉ぶっていた。ある朝、来訪者が現れた。家の外で大きな声で、口に出すには憚られるような卑猥な内容の言葉を、次から次へと話す。初めは狂人と思われた。男は単に気が狂っていて、神父や教会という存在に対して、見当違いの憎悪を抱いている者かもしれないと思えた。だが次第に分かるのは、どうやら彼の心の闇について話しているということで、実際にあったことについて語っているような真実味が、そこにはあった。
男は子供の頃、神父によって犯されたと言う。その卑猥な行動を事細かに並べ立てていた。耳を塞ぎたくなるような内容である。だが男には神父に対する嫌悪や憎悪の念は無く、むしろ神父が好きだと言う。彼はどうやら、精神的外傷により心を病んでいるようであり、それが神父によるもののようだった。そしてどうやら、新しく来た神父とは実際に会ったことのある様子仲だった。教会の罪をズラズラと声高に並べる男を、「銃で脅すように」一人の神父がけしかけると、新しく来た神父は男に向かい会った途端に、自分の頭をふっ飛ばしてしまった。この彼の行為が何より、その男の言説の正しさを裏付けているようだった。恐ろしい。これが物語の冒頭だった。
そこでまた別の神父がやって来た。若い神父は、彼ら4人を調査しに来たのだった。あちこちのクラブで閉鎖が相次いでいるらしい。4人と1人のシスターの証言により、ここの“クラブ”の存続がかかっているようだった。…
教会と男色の話は、何百年も昔から切っても切れない問題だ。日本の仏教も室町時代から、住職のそうした噂話は数多く聞く。そもそも、カトリックの“神父”は婚姻が認められていない(プロテスタントの“牧師”は認められている)。こうした問題は、どの宗教にも極秘裏に頭を抱える問題として、何時の時代も常に存在していたのかもしれない。だがおおっぴらに問題視されるには、デリケートすぎる問題だ。
このような内容を描いて、しかも最後まで驚きを維持したまま描き切ってしまうところは本当に実力を感じさせる。神父の罪。シスターの罪。神父によって人生を狂わされた男のオチの付け方。最後まで文句なく面白かった。
ただし正直、撮影があまり良くない。この人の特性なんだろうか、『NO』もわざと古臭いような画面作りがすごく居心地が悪かった。この作品でも、全体的なフォーカスがずれていたり、画面が白っぽくモヤがかかっていたりして、集中を削がれるところもあった。気にしない人は気にしないのかしら。
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