『パーカー』『パウリーナ』@ラテンビート映画祭
『パーカー』
2015年アカデミー賞、短編ドキュメンタリー賞ノミネート作品。
メキシコ製作の映画だが、監督はニカラグア出身とのこと。
25年以上仕事を続けている食肉業者の短編ドキュメンタリー。
食肉業者は自分の罪の意識と向き合い、本音を語る。『いのちの食べ方』には衝撃を受けたけれど、この視点はある意味新鮮なものだった。
何と言っても、劇映画もかくありなんというほどのカメラワークが見事。
淡々と殺される牛の姿と、その器具の無機質さ。仕事後の血みどろの臓物の掃除まで。
彼の生活を追い、仕事を追う。問題意識への向き合い方は真摯でかつ逃げのないものだった。
冒頭の牛の目があまりに衝撃的。ものも言わない牛の目だが、狂わんばかりの死の恐怖が見て取れる。あの目は一生忘れられそうにない。
ラストシーンも、よくぞここから撮れたと驚くような位置からのショット。
「これ以上これを凝視しているのは辛い」と、こちらが音を上げそうな時にようやく終わった。
たった30分で死にたくなる。絶望映画好きにオススメ。
2013年/メキシコ/監督:ガブリエル・セラ・アルゲージョ
『パウリーナ』
カンヌに出品し、批評家賞のグランプリを取った力作。
こちらもまた力のある素晴らしいドラマだ。
『ブエノスアイレス』のドロレス・フォンシが主演している。
28歳のパウリーナは法律家への道を捨て、田舎の教師になることを選んだ。それは判事である父のエリート主義、権威主義的な生き方に反抗して選んだ道と考えられなくもなかった。彼女に言わせれば、彼女なりの正義感からのものであり、子どもたちにものを教え、教師になってその生き方を直接に変えたいと言う。「政治で社会を自分は変えている」という父親と真っ向から対決するも、父親は彼女の意見を尊重し、パウリーナは家を出て行った。
だが移民や貧しい人々の住む村で、子どもたちに政治や人権について教えるのは難しいことだった。“民主主義”一つを取ってみても、子どもたちに誤解なく教えるのは難しい。そうこうする内に彼女は別の人と間違えられ、レイプされてしまうという事件が起きた…。
女性が危険な地域である社会に生身で出て行く怖さ、弱さも感じる。何とも危うげなバランスを保つドラマだ。
特に『パーカー』と並列させてみると、さらに問題が浮き立ってくる。この対比は素晴らしいものだった。『パーカー』では、「自分が金持ちであれば、今やっている仕事のようなものはせずに済んだ。自分が金持ちであれば、もっと行きやすい人生だっただろう」という言葉を思い出す。
片や『パウリーナ』の方では金持ちの家に生まれ、エリートとして生まれ育った彼女。その彼女が人権を教えるために辺境の村へ教師として訪れ、そこで子どもたちにレイプされてしまうという、大いなる皮肉。
これをどう捉えるべきか、正直答えが出ない。映画でも直接に答えは出さない。彼女はこの先どう生きるべきか。子供を産むべきか、産まないべきか。レイプ犯人を警察の手に渡して問題にケリを着けようとする父親。これに彼女は「起訴しない」というやり方で反抗する。
これもまた、正しいのかどうか。私は彼女の行動はそれはそれで、芯が通っているように思った。
2015年/アルゼンチン・ブラジル・フランス/監督:サンティアゴ・ミトレ/出演:ドロレス・フォンシ、オスカル・マルティネス、エステバン・ラモチェ
2015/10/25 | :ドキュメンタリー・実在人物, :ヒューマンドラマ アルゼンチン映画, メキシコ映画
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