『ゴーン・ガール』(上・下)by ギリアン・フリン を読んだ
うん、なかなか濃い読書体験で満足。
ほぼ映画『ゴーン・ガール』と同じ内容であることに驚きながらページをめくっていった。いや、もちろん原作と映画で異なる部分はある。両親のキャラクターや『アメイジング・エイミー』に関わる部分、ラストの印象の違い等。でも何より、映画でその時感じた心の動きが、原作小説を読んだ時の感触と同じだった。これが凄い。
上下巻合わせて約800ページという厖大な情報量の文章を、映画149分の中で描写出来るのだ、ということに恐れ入ってしまう。
映画好きの間では、「成功した小説・漫画の実写化映画なんてあるだろうか?」という議題が度々挙がるのだけれど、映画版の『ゴーン・ガール』は『L.A.コンフィデンシャル』と並んで、堂々オススメしたい作品となった。
順番として私は、映画→本という順番の方を好む。大概原作の方が良いことがほとんどだし、本を先に読んでしまうと残念ながら足りない部分にたくさん気づいてしまうから。でも、この作品に関してはそれは限りなく少ないかもしれない。素晴らしい。デヴィッド・フィンチャーは『ソーシャル・ネットワーク』辺りから、確実にレベルが一段上がっているように思う。この2作で、映画の中の情報量は他の映画に比べて格段に多いのに、実に分かりやすく見事に提示する。
ロザムンド・パイクの印象的な目線。記者会見でのベンアフの間抜けな姿。ベンアフ演じるニックが近所のゴシップ好きの主婦に、携帯でツーショットを激写されつい笑顔を作ってしまった時のあのムカつき!たった一度しか見ていない映画なのに、思いがありありと蘇ってくる。
一つ忘れていたことがあった。ネタバレで語るけれど、エイミーは計画を立てていた時点では、そのまま自殺してしまうつもりであったこと。もちろん諸々の事情からそれは流れてしまうし、殺しても死ななそうな女ではあるけれど。でもそれぐらい追い込まれてしまったのよね…。
この物語って、「浮気がもし自分のパートナーに発覚した時に、一体どんな手を使えば元のサヤに戻れるか?」という、問題でもある。見過ごしてやり過ごせば、そのまま元の鞘に収まれるのか。どこの夫婦やカップルにでも訪れる可能性のあることだと思う。
もしくは、「あと一歩で別れる」という引き返せない時点まで来てしまった時に、どうやって相手を繋ぎ止めるか。自分は別れたくない、という状態で。
大人しく待っていれば相手は戻ってくるか?私はそうではないと思う。少なくともニックは、エイミーとあと一歩で別れるところまで来ていた。それぐらい、アンディとは上手く行っていた。エイミーは全てを失う寸前。
エイミーのように奸計を巡らし、一大芝居を打ってみたいという気持ちは、少なくとも私には分からなくない。それをここまで賢いやり方で完全犯罪をこなすという、現代の夫婦のお伽話。
ラストは少々シツコく思えるかもしれない。こじれた気持ちを補正するための十分な時間が描かれていたように思う。そこが、明快に終わった映画とは弱冠違う。
映画は、一般的に受け入れられやすいやり方で終わったように思う。そんな夫婦が普通にやっていくことの方が、傍から見たら不思議だ、という法螺話の方が理解がしやすいから。
小説の場合はそうではなく、ニックの気持ちが戻っていったことの不思議、エイミーが家に戻っていった気持ちの本音が伝わるようになっていた。
ところで、こちらもついでにどうぞ。
※映画『ゴーン・ガール』のモデルになったスコット・ピーターソン事件まとめ
2015/10/06 | 本
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