『彼は秘密の女友だち』 女性らしさとは
オゾンは女性の気持ちを良く分かってる監督だよなあと思う。『8人の女たち』を監督した時に、「ベテランの大女優たちをこれほど揃えて監督するなんて、よほどの神経だろう」と思った。現場もおそらく、女性たちのプライドと嫉妬渦巻く場所だったに違いない、と背筋をゾゾーっとさせていたのを思い出す。私はオゾンで好きなものは、『まぼろし』や『スイミング・プール』、『17歳』etc…。女性の心理をよくぞここまで分かってくれるなあと、つくづく思ってしまう。
この作品は一言で言えば、ロマン・デュリスの女装に大いに驚かされる作品だ。フランスらしいフェミニズムを捉えた作品でもある。
もともとロマン・デュリスは肩幅が細いタイプだから、女装するのが楽だったかもしれない。それより何より、脚の細さに驚いた!脚はよく見せていたけれど、このほっそりしたふくらはぎはなかなかのもの。
一度、高校の時のBFが文化祭で女装したことがあった。彼は元々美形だったので、みんなに綺麗綺麗と言われたらしい。調子に乗って私にまで写真を見せてくれた。確かに他の生徒の女装に比べれば綺麗だった。男子校であるせいか“女性っぽさ”に普段触れていない男子達にとって、きっと楽しいイベントだったのだろう。大いに盛り上がったらしい。彼は中学の頃サッカーをやっていたので、ふくらはぎにかなり筋肉が付いていて、どうしてもその辺が女には見えないな…と思った記憶がある。脚の美しさはやはり女性特有なものなのだと、その時ほくそ笑んだ記憶がある。
しかし!ロマン・デュリスのこの美脚に今の自分が勝てるかというと、かなり怪しい。
冷静になって考えて見ると、ロマン・デュリスはこれまで、標準の男性らしいイメージを演じてきた。セドリック・クラピッシュは彼を“青春映画のモデルロール”として描いたし、『タイピスト!』でも『ムード・インディゴ うたかたの日々』でも、彼が演じるのはヒロインを引き立てる、いわば“王子様”的な役どころだ。これが彼のイメージだと思っていたのに、オゾンはなんてことをしてくれるんだ!おそらくロマン・デュリスはかなりダイエットしたのだろう。それでもこんなに脚が美しいシルエットになるなんて。CGはきっと使っていないのよね?
でも、脚や華奢な肩幅より何より、ロマン・デュリスをアッと驚くほど女らしく見せているのはその仕草だった。女性らしく優雅で、上品な微笑み。びっくりするほど素敵な女性に思えるような、魅惑の物腰だった。凄い。相当研究したのだろうと思う。
頭では分かっていたつもりだった。女性らしさを表すのは、女性であるという性別ではなくて、その美しいしぐさなのだと。マリリン・モンローにハマった19歳の頃に、“女性の美”が何かと掴んだつもりだった。
だけど今の自分は、その時思い描いたような女性らしい人になれているだろうか。(おい、返事はいらないぞ)
若い頃は、ただスタイルが良いとか見てくれがまあ我慢できる程度であるとか、そういう理由で女っぽく見えていただけかもしれない。傲慢だった。でも41歳のロマン・デュリスをここまで女らしく見せるのは、見た目の美だけではない。
「この女性を守りたい」と思えるような美しさ、そんなものを彼は兼ね備えているようにすら思えた。
オスカー・ワイルドは女性の美を描き、「ひと目彼女を見れば、あの人にひどい仕打ちが出来るような男は、畜生にも劣る冷血漢だということが分かってもらえるでしょう」という表現を使ったことがあるけれど、“思わず女性を守りたくなる男性の気持ち”を、私は初めて分かった気がした。
それほど、ロマン・デュリスの女性としての物腰は優雅で素晴らしく、傷つきやすそうに思えるものだった。
女性らしい上品さ、優雅さ、物腰。まだまだ女性として私は研究が足りないのだと、つくづく反省してしまったのであった。
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いきなりで恐縮ですが、ブログ「レザボアCATs」の管理者でいらっしゃる「とらねこ」さんは、もしかしたられっきとした男性であり、文章の上で“女装”することを趣味にされている方なのではないでしょうか?
ロマン・デュリスの「ふくらはぎ」とか「女性らしく優雅で、上品な微笑み。びっくりするほど素敵な女性に思えるような、魅惑の物腰」とかに注目されたり、「マリリン・モンローにハマった19歳の頃」とおっしゃったりするところに、男性的なものを感じてしまうのですが。
なによりも、「“思わず女性を守りたくなる男性の気持ち”を、私は初めて分かった気がした」と述べておられますが、「とらねこ」さんが男性だからこそ“分かる”のではないでしょうか(その気持が「男性の気持ち」であることをどうして女性が分かることができるのでしょう)?
そして、「高校の時のBFが文化祭で女装したことがあった」と書いておられますが、BFとは、あるいは「とらねこ」さんご自身なのかもしれません。
〔未見なので推測に過ぎませんが、もしかしたら「Reservoir Cats」(2011)は、「Reservoir Dogs」(1992)の女性版→女装版とも言えるのではないでしょうか〕
本作は、以上のような他愛もない妄想をも抱かせる映画だったというべきなのかもしれません。
混ぜっ返すような失礼なことを申し上げて甚だ申し訳ありませんでした。
クマネズミさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ぷぷぷ…妄想力逞しいですね!
コメントが届いたのを読んで、ビックリしてウケちゃいましたw
そうそう先日思ったのですが、「クマネズミ」さんのお名前って
「クマ」vs「とら」
「ネズミ」vs「ねこ」
で、私と真逆だなあ、面白い!って思ってました。
実は私と裏表の関係、もしくは永遠のライバルだったりして!?
残念ながら私は、ブログでもSNSでも、いつも男性であると疑われているのです…しくしく
だから、別に謝る必要はないですよん
>本作は、以上のような他愛もない妄想をも抱かせる映画だったというべきなのかもしれません。
おお、上手いまとめ!
しかし、『Reservoir Cats』って『レザボア・ドッグス』のパクリ映画があったんですか!知らなかった。
オーストラリアの映画なんですネ
見る機会があったら見なくては!
新宿や銀座で観る予定が終映になっていて、渋谷のアップリンクまで行ってみてきました~
オゾンファンにとっては外せない!
描き方が繊細で丁寧で・・・・・。
マイノリティのなかには色々なタイプがあって、女装癖の人も多いですよね。女性性と男性性の狭間で揺れ動くデュラスの演技は最高!(足の細さも)
でも、私はキリアン・マフィにこの役やって欲しかった!
カミングアウトしたオゾン監督ならではの視点でした~
cinema_61さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
今ってアップリンクでかかってるんですね。本当、オゾンなら損はしないですよね。
同じようなテーマでも、オゾンの手にかかると新鮮に思えます!こういうところがフランス映画の醍醐味だなあと思える部分もあったりして。
ゲイと性同一性障害と、今回は服装倒錯…
それぞれにグラデーションがあって、2パターンが当てはまる人も居れば、そうでない人もいるんですね。
ドラァグクイーンの場合は服装倒錯が多いのかしら。同時にゲイのタイプが普通だと思っていたので、今回のロマン・デュリスの役柄のような、純粋に“服装倒錯”なんてあるのだなあーと。
ロマン・デュリス、本当に女らしくて美しかったですねー♪
キリアン・マーフィーは『プルートで朝食を』でとっても美しかったのを思い出しますね!
わたしも○○しようかしら?
http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-3169.html
ボーさんへ
あけましておめでとうございました♪
◯◯やってみて!
私、今手元に積読本で、こんなのが…
https://www.amazon.co.jp/dp/4763134361/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_WhkCybH5MCPA6