『クーキー』 オーガニックなオモチャ達による小マッドマックス世界
久々のチェコアニメの公開。イジー・バルタの『屋根裏のポムネンカ』以来だから、早6年ぶりなのか。でもこちらは10年の製作なので、公開されるまでに5年もかかっているのね。
『〜ポムネンカ』も『トイ・ストーリー』を思い出させるような世界観だったけれど、こちらも同じくトイ・ストーリー3を彷彿とさせるもの。
捨てられたクーキーがゴミ置き場で覚醒するシーンがあるが、可愛いらしい世界に生々しいゴミ置き場を出してくる。その根性に恐れ入った。
クーキーは森の中で精霊たちと戦ったり、アクション満載だ。オーガニックなテクスチャー感満載の車で疾走し、チェイスバトルが繰り広げられる。その姿はまるでマッドマックスのようだった。(何もかもマッドマックスに見える昨今の私だけど。)
そして、キャラクター達が何とも強烈。ゴミのペットボトルで作られた敵キャラは、脱走したゴミであるクーキーを探して、徘徊する。その姿はまるで戦時下の粛清のように恐ろしげだ。
その他、村の中にもクーデターを企てる者がいる。村長が年を取り弱ってきたと、自分がのし上がろうと奸計を働かせる精霊。
子供の想像力で紡がれた夢の世界というより、大人の物語だった。CGには全く頼らないパペットムービーで、しかも背景は作り物ではなくほぼ実写。実際の森の中で撮影されたリアリティのある世界だった。
森は、私達の忘れてしまいそうな、だが深い混沌から蘇る、無意識の世界そのものだ。人工的なものと自然のもの、この2つを対極のものとしたとして、人間は小奇麗な世界に住んでいるとどう強く思い込んでも、内側深くには魂がある。彼らの描く自然はそのまま無意識の中に横たわる、手付かずの“自然”そのものだ。
そして自然界には、人間が日常的に出すゴミが入り込んでいる。
「鉄は自然のものか?」という問いかけがあった。自分が何に属するのかを知りたい精霊が、自分が自然界に存在するものであると証明したがっている。
可愛がる一方で、飽きたら人間に簡単にゴミにされてしまうおもちゃの世界を描いたものがトイ・ストーリーだった。が、チェコ人の作るものはより深い。オモチャ自体がより想像の世界、人間存在の内側と一にする内面世界として扱われている。人間の想像の中には古来の森やアミニズムの世界、無意識領域。廃品を使って夢の世界を描こうというその目論見は天晴だった。
P.S…クーキーのチラシ・ポスターのアートワークは、日本の配給会社が“コンピュータ”で作ったフォントを軽々しく使用するのではなく、
上のどこかの国のポスターのように、フォントも手書きのものにして欲しかった。
ピンクと緑の色合いを強調する、人工的な色味もこの作品のイメージと違う。
よくあるCGアニメなのかと思い込み、スルーするところだった。チェコアニメからかけ離れていて、気づかなかったら見に行かなかったと思う。
イメージって大事ですよね。
せっかく配給してくれたのに、あまり文句は言いたくないけれど(笑)。
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