『ナイトクローラー』 ジェイク・ギレンホールの気持ち悪さが最高
『ドニー・ダーコ』から風変わりな映画を得意としているけれど、ジェイク・ギレンホールはこうした映画に恵まれている。
冒頭のとある会社の面接で、それらしき自分アピールを滔々とまくし立てるのだけれど、喋れば喋るほど信頼できない感じが増すんですね。
相手は「俺はコソ泥を雇ったりはしないんだ」なんてピシャリとルー(ジェイク・ギレンホール)の話をシャットアウトする。
更正したくてもなかなかさせてもらえない社会も描いているのか?と思う部分は冒頭こそあったけれど、
その後も平気で人のチャリを盗んだりする。
いやいや、やはりこの人は更正なんかする気はない訳だ。…と、ここである種の悪党を主人公にした、“ピカレスク物”を覚悟せざるを得なくなるんですね。
いかにもネットの文章をパクってきたような文章をペラペラと喋り続けるルーは、それらしいことを喋っていると言えるけれど、それらはちょうど「この人の言い分は、これ以上一分たりとも聞いていたくないな」と思わせるもので、彼が喋れば喋るほどイライラする。
本人が言う通り、彼は「Quick learner」、物覚えが極めて早いタイプというのは確かにその通りなのだろうとは思う。ゼロからのし上がっていく姿が異常に面白い。同時に、調子に乗って暴走しそうで怖い危険なタイプ、リアルな知り合いなら“最も近づきたくないタイプ”。
で、こんな出来損ないの男が、「やりたくないことはやらずに、自分の天職を見つけ、少しづつスキルアップしてゆく話」であるので、全国のクズ諸君 ー 仕事が嫌いで、やり甲斐も全然感じない人々 ー つまり我々のほとんど ー にとっては、不思議なほどに心惹かれる面もあるのでした。
事件のあるところ目掛けて、夜の大都会を徘徊する職業。「ああ、これは完全に奴の天職だな」、というのがよく分かる。人の生き死にに関わる大事件が起これば起こるほど、彼がゲットしたニュースの価値が上がる。それがエグい映像であればあるほど、貴重なショットとなるわけだ。本来のゲスな好奇心からニュースの倫理規定など考えず、ただ「スゴイ画」を求めて一線を軽々と超えてしまう、何か。下衆な人間ほど飄々と飛び越えてしまうのだろう。この危なげな“一線”を、彼がいくつも超えてゆく姿が見れる。うん、やっぱり面白い。
それにしても、“脅しながら口説く”奴ってなんてサイテーなのかしら。ニーナ(レネ・ルッソ)はルーよりずっと年上で、それなりのポジションにいる立派な社会人であるのに、そうした一般的なルールなど彼の前では無力なのだ。
あの生き生きとして楽しそうなルーの姿が、私には本当に羨ましく思えてしまった。夜の街を徘徊し、何事か起こらないかとグルグル無線で追いかける血に飢えた吸血鬼たち。
“今、自分の目の前ですごいものが起こっている”、それを“カメラに収めている”という感覚。
強烈なドラッグよりずっと気持ちが良さそうだ。そんなことを思ってしまうなんて私も大概だな。
彼同様に、倫理のぶっ壊れた人間なのかもしれない。
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こんにちは。
モラルとか情を欠片ほども持ち合わせていない最低男のサクセスストーリーなのに・・・興奮して観ている自分が怖かったです。
マスコミやパパラッチなど、報道に携わる人にはスレスレの線で思い当たるフシがあるのでは?
ニーナの中にも一線を超えそうな報道人の気持ちが垣間見えて、人間(普通の)の弱さを実感しました。
ギレンホールの怪演には脱帽!次回作ももうすぐ公開ですね。あっそうそう、「あの日のように抱きしめて」も観てきました~なかなか良かった!
cinema_61さんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
ギレンホールの切れ味、なかなか素晴らしかったですよね!
まさに死神のごとく、事故現場にフラリと現れるんですよネ。
観客である我々もどこか楽しんでしまったんですが、
ニュースを見ているお茶の間の人々も、「なんて酷い事件」なんて言いながら、どこか野次馬根性で楽しんでる部分も無いとは言えませんもんね。
本当は報道倫理に即して歯止めをかけるべき女性プロデューサーも、視聴率で自分の首がかかっていると、この倫理を踏み越えてしまう…
なかなか見ごたえがありました。
あの日のようには、早速今日UPいたします〜♪
ジェイク・ギレンホールの最低振りが最高でしたね。
でも結局彼らの様な職業が成り立つのは、それを求める私たち視聴者がいるからで、そう思うと彼らと私たちの間には大した差なんて無いのかもしれませんね^^;
amiさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ジェイク・ギレンホール、イキイキしてましたね!amiさんは彼お好きかしら?
割と映画好きの女性の方は、ジェイク好き多いですよね。
うんうん、そうですよね。
ある意味、彼は私達を映す鏡でもありました。
これ、見た当初はまあまあ位に思ってたんですが、後から考えるとやっぱりもっと点数高くしておけばよかったな〜と
主人公が助手に対していう説教すべてが説得力ありましたね~(爆)
これから起業しようとする人間以外も
出来る社員になるにはジェイクの演じる主人公の言葉は
一生モノであると思いましたよ(爆)
道徳心のない最悪野郎ですが^^;
itukaさんへ
こちらにもどうもです〜♪
やー、これitukaさん、スルーしないで本当に良かったです。
面白かったでしょー!?
一般人の一人ひとりがメディアとしてtwitterやFacebookで情報を発信する今だからこそ、
メディア倫理をあえて考える上でもこの作品が面白く見れました。
道徳心の無い男なんですけど、これって私たちの野次馬根性をカリカチュアしたようなものでもあるんですよね。
道徳無しに我々の興味を凌駕して驚かせてくる、彼のフィルムが売れてしまうわけで…。
ブルルルル恐ろしい〜
こういうピカレスクものというのは主人公の破滅で終わることが多いけど、捜査の手もするっとごまかして成功をおさめてしまうところにスカッとするかイライラするか… まあわたしもついスカッとしちゃいましたw
このペースで仕事をしていくならルー君はまず長生きできないと思うのだけど、彼も立場が上になっていくにつれ守りに入っていくのかな~ 彼にはできれば太く短く生きてもらいたいもの
SGA屋伍一さんへ
こちらにもどうも♪
そうそう、ラスト逃げ切りのピカレスクでしたよね。
ああ、確かに彼はこの調子じゃ、長生き出来ないかもしくは、仕事が長続きしないと思いますね。
途中で大問題を起こして首にされちゃうんじゃないでしょうか。
早死するかどうかは分からないけれど、この仕事を首になったとしても、あっさり翌日はゴミ拾いから始めそうで、
殺しても死ななそうなゴキブリ感がまた、場末のヒーロー感あります★