『アタラント号』 夫婦は何かを乗り越えるべし
「映画史上の傑作」特集にて、ようやく鑑賞が叶った作品。何故見たかったかというと、この映画をブログタイトルにした方の影響で。品のある彼のイメージ同様の、優しくて深い作品でした。
思い出すと、うっすら涙が浮かんでしまう。心の深い部分をサラリと撫でるような優しい詩情性があって、しっかりと心に残ると同時に、深い感触を与える素晴らしい映画なのでした。
冒頭、「こちらはほぼオリジナルに近い形で修復された作品です」と断り書きが付く。34年製作のこの作品、90年に修復されてようやく見ることが出来るようになったのね。
物語は…
結婚したばかりの男と女。アタラント号の船長である男所帯に住み始め、航海の日々。慣れない女にとっては少し飽きてしまう。憧れのパリに停泊した時も、パリをゆっくり見ることも叶わない。男のつまらない嫉妬からスレ違い、二人は喧嘩してしまう。
年取った猫好きの水兵さん、“ジュール父さん”(ミシェル・シモン)が人に迷惑をかける酔っぱらいかと思いきや、意外な活躍を見せる。このオジサンがコミカルで映画がより楽しく思えるのだった。部屋のお皿を割られても文句一つ言わないし、漫画っぽいタトゥーを見せたりして、若い夫婦を描く中、一際異彩を放っている。ラストではなんと重要な役割を果たし、見事円環をもたらしていた。
結婚したから、男と女がいきなり一つ部屋に住み始めたからといって、すぐに上手くいく訳でもない。誰もが経験するような、相手とのスレ違いや、現実とのギャップ。自分のつまらないエゴから来る嫉妬心。誰もが何かを乗り越えて、ようやく相手と向き合う覚悟が出来るのかも。
相手を許すこと。これが一つのポイントであり、唯一の相手と上手くやっていく方法なのだよなあ。
でもこれがなかなか難物なのだ。だから余計、ディタ・パルロのふわっとした笑顔や表情に癒やされる。
きっと彼女なら許してくれるだろうと思える、この包容感。
女にはこれが大事なのだよ、ガールズたちよ…。
水の中でディタ・パルロの柔らかな笑顔を見るシーンが美しくて、涙が流れた。
再び出会った時の無言の抱擁。わずかな余韻を残したのみで、サッと映画が終わるのもいい。
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