『道中の点検』 ゲルマンのリアリスティックな戦争ドラマ
こちらは、アレクセイ・ゲルマン作品の中でも、一番普通に見れる戦争ドラマ。
尺としても一番短いばかりか、ストーリーが普通にあることに驚く。
革命がもう終わりに近づいた頃の話。ドイツ軍の捕虜となり、敵軍に協力した経験を持つ元伍長が、パルチザンに投降する。
一度でも祖国を裏切った汚名を着せられた人が、いかに信頼を取り戻していくかという物語でもある。
主役の元伍長ラザレフは、タルコフスキー『ローラーとバイオリン』のウラジーミル・ザマンスキー。目に力があって良い俳優だ。
観客はこの伍長が信頼に足る人物であることが十分に分かっていて物語は進むが、同じ祖国の旧ソ連パルチザンの一部には、挑戦的であったり底意地が悪かったり、「単に一度でも裏切った同胞」の気持ちを分からない人も居る。そちらの気持ちも理解できない訳ではなく、なかなか難しい。
ペトシコフ少佐(アナトーリー・ソロニーツィン)は「裏切り者は即刻処刑すべき」という考え方だったが、部隊の隊長ロトコトフ大尉(ロラン・ブイコフ)がラザレフを信用してくれて止めてくれたから、彼は首の皮一枚で繋がったようなものだった。
彼の命が目の前でまさに風前の灯火(ともしび)となり、それが目の前の数名の人間のその場の判断で変わる運命であることを、心細く思う。
戦場ではそうした目に見えない“人間力”なるものが大事になってくる、ということをヒシヒシと感じる。
ラザレフの命が尽きて後、ロトコトフとペトシコフがスレ違い、会話をするシークエンスがなんとも皮肉である。
相変わらず出世していないロトコトフと、大いに出世したペトシコフ。少しは彼は末端の兵士を思いやる気持ちになっただろうか。何も変わっていないのかもしれない。戦場では命の重さはなんとも軽い。
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