『サイの季節』 映像詩の世界で迷子になれ
2012年のフィルメックスでかけられ、一部で評判の良かったこの作品。イランのバフマン・ゴバディがトルコで撮影した。
クルディスタンの詩人であるサヘル・ファラザンを主人公にし、事実を元にしている。詩人の経験した苦悩すら映像詩に写し取ったかのよう。特に鏡や映り込みを使った映像が美しい。どこか乾いた色調統制も、世界観にピタリとハマっていた。
ただし、台詞やナレーションがその時の説明になっていないことが多く、しかし物語は進んでいくため、とても内容が掴みづらい。
さらに、主人公とストーカーの男二人がどちらも濃い系の髭の男ということで、恥ずかしい話だが、私は途中で混乱してしまった。時系列が交差するから余計である。今がいつの時代なのかは髪型や風貌で判断するしかないのだが、もしかして「似ていないけれど二人は同一人物を演じているという設定なんだろうか」とか、幻想の中を彷徨ってるため記憶に混乱が生じているという設定なんだろうか‥といろいろ考え過ぎてしまった。ムスリムの国であるからお前も俺も髭の男、というのは仕方がないことなのだろうけど…。
サイがバッタバッタと倒れるシーンの頃になると、なんだか全てどうでも良くなってしまった。動物達が倒れる映像は、本能や感情が死に絶えていくというダイナミックな表現であったのだろう。悲しみも絶望も表現することの出来ない男の、声にならない叫び。
何故かイランの女性を演じている“イタリアの至宝”と呼ばれたモニカ・ベルッチが、セクシーで美しく撮られている。皺が刻まれるようになってなお、どこか気高さを感じるし、脱ぐシーンも昔と変わらずスタイルが良いまま。なんたる美魔女っぷり!“モニカ・ベルッチを見るための作品”としては、『マレーナ』、『アレックス』に次ぐ作品と言えるかも。(本音、個人的には彼女よりイザベル・アジャーニの方がずっと好きだな〜。)
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コメント(2件)
前の記事: 『若さは向こう見ず』 気持ちのいい快作!
拙マイブログに来て下さってありがとうございます。
もしかして今頃はこっちへ来てらっしゃるかな。^^
本作、歌仲間と一緒に鑑賞。
ほんとは1人で観たかったんだけれど。(ーー);
とらねこさんと同じでこの歌仲間も
男優の区別が曖昧で、最後まで置いてきぼり状態
だったということで、鑑賞後、茶など飲みながら私
ストーリーを解説しなければならなかったという次第。
話的に追いかけづらい部類の映画ではありましたね。
しかし、私的には印象に残るシーンが満載でした。
演技的には相変わらずヘタですが、ベルッチはやはり
フォトジェニック的女優としてだけでも存在価値大かと。
特に哀しみに満ちた表情は捨て置くには美し過ぎる・・・
気持ち的に映画からは以前よりは離れていることは
ご察しの通りですが、映画ファンであることは廃れて
おりませんのでご安心を。
私から映画をとっちゃったら・・(ーー)^^
歌?
あれは、別腹、ですから。(笑)
vivajijiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
そうなんです、「映像詩の世界で迷子になれ」って、自分自身が迷子になってるじゃねーかという(笑)、
ツッコミどころ満載の記事にようこそ!(笑)
顔の濃いヒゲの二人の男、もちろん別人が演じているのは分かるのですけれども、時間軸が遡ることもあって、「もしかしたら同一人物を描いているつもりなのかも」なんて思ってしまいました。
…もう、気づいた時には手遅れ(笑)
vivajijiさんが見終わってせっかく感動しきりのところへ、お連れの方がトンチンカンなせいで説明で苦労するなんて、お疲れ様でございました…。(人のこと言えませんが)
でもそうした素晴らしい映画に対する洞察力を有するvivajijiさんにはやはり、無理にとは申しませんが、映画を見ていただいて
時々こうしてお話させていただけたら嬉しいです。
ジャズの歌なんていう素晴らしい趣味も、もちろん無理しない程度に続けていただいて。
ところで私は、ちょうどこの作品を見た辺りに「説明台詞」について考えておりました。
この作品は「状況説明」的な「説明台詞」がないんですよね。
自分は「台詞は要らない、映像で見せてくれればいい」、というタイプであると思い込んでいたところ
この作品を見て、「あ、やっぱり説明台詞必要だわ」と思ってしまいましたw。
モニカ・ベルッチはおっしゃる通り綺麗に撮れていましたね。
数年前に見たフィリップ・ガレルの映画では、オバサンそのものに見えたのですが、
2015年はこの作品も公開されたり、007スペクターではボンドガールも果たし、ベルッチの人気が高まったように思います。
私も彼女を見習って、もっと色気出していきたいものです!