『少年、機関車に乗る』 セピアな思い出色の原風景
優しいセピア色のモノクロ映像が美しい。小さな機関車から見るタジキスタンの景色は、まるで原風景のよう。また一つ、忘れられない映画が出来た。
機関車やトロッコが出てくる旧ソ連映画には好きなものが多くて、『クロイツェル・ソナタ』(ミハイル・シュヴァイツェル)や『愛の奴隷』(ニキータ・ミハルコフ)を思い出す。
何が起こるという訳ではないのだけれど、心惹かれる映像。見ていて楽しい。
デブちんと呼ばれる男の子は、何となく愛嬌があって可愛いのだけれど、土を食べるという奇癖があって、お兄ちゃんに怒られてもやめようとしない。
機関車に乗ってどこに行くのかと思えば、着いた先はお父さんのところ。元々この地にいる少年たちとも知り合いのようなので、この旅の目的はむしろ“元々居た場所”であったのだと分かる。だが今は父親には新しい彼女が居る。
父親にデブちんを預けて帰るつもりだった兄だが、父親も少年を育てる気がない。兄の少年にとってこの地は居るべき場所ではなかったから、旅立っていったのだろう。だがデブちんもここに自分の居場所がないのを感じていた。
“行きて戻る物語“なのかと思いきや、そうではない。その機関車のレールの“途上”で終わる物語だった。
むしろ、“行った場所”は“元居た場所”であり、今度向こう先こそが“今まで居た”、だが“新天地”であった。
しかし彼らが抱いている感情には明らかな違いがある。
おそらく彼らはこの旅で成長したのだろう。デブちんは今後もしかしたら土を食べることはないのかもしれない。
少年はいつの間にか大人になるのだ。
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これ、いいですよね。
私は8年前に観ましたがタジキスタンの鉄道風景が記憶に刻まれています。
今回、監督のバフティヤル・フドイナザーロフ(とても憶えられません)が亡くなっての追悼上映だったんですね。
しかも享年49歳というのは驚き。モノクロ映画に騙されてるんですけど。
とらねこさんは他の2作品も観ますか?
私はこの監督のラブ・ストーリーにとても魅かれるものを感じたのですが気づいた時はレイト最終日で、同じくレイト最終日でとらねこさんも絶賛の「エボラ・シンドローム」とどっちにするか迷った挙句、後者にしました。
この選択って果たして正しかったか?・・・
imaponさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
わはは♪…確かに、同じ時間枠でやってるんですよね〜、コチラ。
フドイナザーロフ、ハーマン・ヤウ、ペニス博物館映画…
どれも同じ時間枠なんですもん、全部別日に設定しないといけないという。
『エボラ・シンドローム』と『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』と迷われたのですね。
私的にはどちらもすごく気に入った相当面白い作品だったのですが、どっちの方が好きかと言われたら前者に軍配が上がってしまいます…。シネフィルには怒られそうですがw