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『インサイド・ヘッド』 心理学的アプローチと自分のトラウマ話

poster2ディズニー・ピクサーのオリジナル新作がやってきた〜!
『モンスターズ・インク』、『カールじいさんと空飛ぶ家』のピート・ドクター。この人のフィルモグラフィーを見ていると、ピクサー作品の“原案”が多いということに気づく。言わばピクサー時代からのアイディアマン、重鎮の一人と言えそう。
ピクサー作品はどれもこれも好きなものばかりだけれど。中でも一番好きな『モンスターズ・インク』の監督と聞いたら、これは期待しちゃう。

頭の中の感情達を取り出して、その一つ一つに人格をつけ、脳にある“制御室”の模様を実況中継する。何とも風変わりな、オリジナリティ溢れるアイディア!まるで力動精神医学のようであることよ。
作品中には数多くの心理学用語が散りばめられ、心理学の学位を取った私としては、思わず納得のゆくワクワクする描写だった。まさか、ピクサー流の想像力でもってこんな世界の映像が見れるなんてね。

11歳の子の頭の中らしく、他のどの感情よりもヨロコビが主要な位置を占めているのが健気でいじらしい。
しかし脳内ディズニーランドにおいて、正体不明な全体的不調が始まってしまう。
これ、引っ越しをすることが決まった時点で悲しくてたまらなかったはずなのに、カナシミが表現出来ず無理をさせられたため、頭の制御室は暴走してしまったのだ。…とこんな風に、象徴的表現もとても良く分かりやすいが故に、一瞬で言いたいことが読めてしまう。おかげでその後の展開はワクワク感は無く、至ってフツーに見れてしまった、というのはある。

子供にとって、暮らしてきたその土地が自分にとっての“世界の全て”。だから“引っ越し”がどれだけ心理的に大きな衝撃を与えるライフイベントであるか、想像に難くない。もっと言うと、心理学的な象徴表現として芸術を見るなら、例えば『千と千尋の神隠し』がそうであったように、引っ越しそれ自体が個にとっての“思春期の訪れ”“変化の時”を表す。だから彼女の内部で大変革が起きるべき時なのだ。

この先ネタバレ


お母さんを困らせないよう、「いい子」で居るべく無理をするところから、ヨロコビが心の王国の制御盤をコントロールすることが出来なくなってしまう。映像表現としては、ヨロコビが制御盤から離れて脳の中で迷子になる。ここから、長期記憶の貯蔵庫だとか、抽象概念化であるとか、夢の製造まで出てくる!
私の好きな無意識の世界(脳の下部に位置する)を描いた時、そこに大きなブロッコリーが出現する。そして下り階段がある。これはユングのイニシャル・ドリームだ!そしてブロッコリーはファルロス像。恐ろしく巨大な姿で立ちはだかるファルロス的なブロッコリー。下り階段こそ、無意識への道。

ところでこれを読むと、字幕と吹替でブロッコリー、ピーマンが違っていたらしい↓

これがピクサーのこだわり!『インサイド・ヘッド』日本語吹替のみシーン差し替え

夢がまるで映画の撮影現場のように、カメラマン・監督・演者が居て、モニターまである。ここもとても楽しかった。映画好きはここでワクワクしてしまうかも?好きな夢シリーズを選んだり、ユニコーンが幻の愛されキャラ(本人は何を考えてるか不明)というのも可笑しい。

この作品で1番好きだったのは、ライリーのパパとママのスレ違いの描写。これぞまさしく、永遠の男と女のスレ違いだ!

濃い系の恋人・ラテンのパイロットネタ(女の永遠の憧れ・セクシー男!)にもゲラゲラ。このパイロット、他の女性のアタマの中にも登場していて面白い。

という訳でなかなか楽しめました。ただし、一点を覗いては。

ライリーは普通の幸せな女の子だったよね。引っ越し先の学校で、最初の挨拶で失敗してしまったこと、家出をしたけれどすぐに戻ってきたこと。これらは彼女のアタマの中では、大事故が起こる寸前。でも現実には“ただ引っ越しがあっただけ”だ。

私は彼女の幸せな子供っぷり、今後も真っ直ぐに成長出来るであろう安心感に、自分のトラウマが刺激されてしまった。

私がライリーのような子供だった頃、とても静かな目立たない子供だった。
常に母親に怒られはしないか、しょっちゅうビビリが制御盤を触っていた。ヨロコビはめったに活躍できなかった。
母は陽気で積極的で社交的な人間で、いつでもどこでも友人がたくさん居た。一方、父親は口数の少ない内向的な性格で、本を読んだり習字をしたり、親友が一人とそっくりの双子の兄弟、全世界にこの二人しか大事に思う人物が居ない、極めて大人しい人物だった。

母はいつも父と自分を比べて、自分がいかに優れているか、そして世の中をいかにうまく渡り歩いているか、いつも人の中心に居るか、そんな話ばかりだった。私は子供ながら、母の話はどうでも良くて、無口で静かな父親のことが大好きだった。父は頭が良く物静かで、無駄口は叩かなかった。そうした人物の良さを子供の頃から知っていた。だから私も父の真似をして本を読んだ。父が図書館にいつも連れて行ってくれたからだ。私は明らかに子供の頃から、“明るい性格”であることがいいことであるとは全く思わずに育った。社会に出たら、ある程度陽気に振る舞う方が得であることは十分良く分かっているので、そうした仮面は被るようになったけれど。

私の脳内ランドで言えば、“親戚”の島と“挨拶”の島はある時に、崩れて消滅してしまった。この事件を今でもよく覚えている。
シャイで無口だった私は、母方の親戚に会ってもサッと挨拶の言葉が出てこなかった。挨拶しなくてはいけないのだけれど、私にとってはよく知らない、別段好きでもなく顔を覚えている訳でもない親戚のオジサンの、酒に酔って赤くなった顔が怖くて(父は酒を飲まなかったので、酒飲みが怖かった)モジモジしていると、母のイカリが「挨拶ぐらいしなさい!」と雷を落とした。

私はいよいよ声を出したくなくなり、ようやく蚊の鳴くような声で挨拶すると、その親戚のオジサンは「頭が良いったって、この鈍さ!」などとこれ見よがしに嫌味を言った。私は子供の頃IQテストですごく高い成績を取り、母はそれを色々な人に自慢し吹聴した。母の我が子自慢を気持よく思わない親戚に、嫌味を言われても仕方がなかったのだろう。でもそんな風に大人から悪意をあからさまに出されるなんて、とてもショックだったし、以来私は母方の親戚は全員会いたくなくなった(親戚アイランドが崩れた)。母から「挨拶をしなさい!」と言おうとしている時に言われてしまうこと自体も、気分の良くないことだった(挨拶アイランドも崩れた)。

ただし私の場合、想像上の友達ビンボンは実体化して、もう少し生き長らえることになった。ヌイグルミを友達にして、そのヌイグルミの王国という想像の世界で遊ぶのが1番好きな子供に育ったから。

とまあこんな風に、自分のトラウマが刺激される結果となりました。
しかし大人になった今でも、母の“私って明るくて社交的でしょ”自慢がウザイとしか思えない私は、不幸な子供なんだなあと、つくづく悲しくなった。

 

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コメント(12件)

  1. とらねこさんも幼少期にトラウマをお持ちだったのですね。
    私も小学校の時に引越して、転校初日に些細な出来事から
    泣き出してしまった経験があり、あの引越しがなければ、
    私もこれほど屈折した性格にはならなかったかも・・・思ったりして。
    未だに私の中には、教室の後ろで一人泣いている幼い私がいるんですよね。

    ・・・なんてちょっと暗くなってしまったので、話を変えますが(笑)
    こちらの過去記事を拝読していて(今頃)知ったのですが、
    とらねこさんは名古屋のシネマテークをご存知なのですね!
    そして東京の方から見てもディープなのですね(笑)
    私も初めて行った(10代の)時は
    あの階段を上るのにはちょっと勇気が要りましたし、
    その時観たのが山本政志監督の「闇のカーニバル」だっだ所為もあり、
    禁断の扉を開けてしまったような気がしたものです(笑)
    結婚してからはほとんど行けなくなり、もう何年も足を運んでいませんが、
    若い頃は随分と通ったので懐かしくて・・・
    関係のない話を長々としてしまい、申し訳ありません^^;

  2. amiさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。

    amiさんも転校初日に泣き出しちゃった“転校少女”だったことがあるんですね!
    じゃあなおのこと、ライリーに共感してしまいそうですね。

    はい、全然記事に関係ない話をしていただいても、全く気にしません!
    いつでも、どんな話でも、話しかけてもらえるのがとても嬉しいんです(笑)

    名古屋のシネマテーク、行きましたよ!
    ここ、本当にアツいのが分かる映画館でしたね。
    でもあのディープさは、よっぽどの気合が無い限り入れない聖域のような気もします(爆
    もともと行ってみたい場所だったんですが、想像以上で驚いたのがあの記事でした!笑

    私はちなみに、名古屋の人とすごく気が合うんです(照)
    名古屋の映画好きはどこか突出しているような気がします。
    元々地元の方であるamiさんに、あの場所についての思い出を語ってもらえてホクホクですわ^^*
    やはり、“禁断の場所”的な経験をされたんですね。

  3. お、名古屋のシネマテークっていちども経験ないです(笑)
    ディープな作品選びでワタシには敷居が高いんだな~。

    脳内五人衆ですけど、ムカムカとビビリのキャラの描き分けがよく分かりませんでした。
    できれば彼ら(彼女ら)本人の脳内キャラがあったら
    無限ループに嵌ってしまいそうですね(爆)

  4. itukaさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。

    シネマテークはやっぱり敷居高いんですね!
    ではシネマスコーレはどうですか?
    今丁度『野火』がやってますよ!ぜひぜひ!

    >ムカムカとビビリのキャラの描き分けがよく分かりません
    ん?「ムカムカとイカリが被ってるんじゃないか?」という指摘をする人はいました。
    ビビリは書き間違いでしたか?
    ムカムカはdisgust、イカリはangerなんですよね
    disgustは「ウンザリする」「嫌気がする」みたいな意味で、ついつい斜に構えてモノを見る、的なところから「ムカムカ」にしたのだと思うんですけど、
    毒舌的で厭世的な態度、が「disgust」=ムカムカだったかと。

    >できれば彼ら(彼女ら)本人の脳内キャラがあったら
    無限ループに嵌ってしまいそうですね(爆)

    一つ一つの感情が、悲しんだり喜んだりするもんだから、そんな風に思ってしまいますよね!
    マトリョーシカかっていうw

  5. >“引っ越し”がどれだけ心理的に大きな衝撃を与えるライフイベントであるか
    大人になるまで引っ越したことが無く、転職をしたことも無い哀生龍は、日常の些細な変化も実は嫌うタイプ。
    イベントの予定が入るだけでも大きなストレスを感じるのに、突然の予定変更なんてもってのほか。
    だから、“ヨロコビ”が最大勢力の11歳の女の子のことはあまり理解できなくても、“引っ越し”がもたらした変化の大きさ・衝撃だけは理解できました。

  6. 哀生龍さんへ

    こんにちは。コメントありがとうございました。
    引っ越し、私もしたことが無いのですが、転校生がどういうタイプか、受け入れる側の生徒たちも結構観察しているものですよね。
    あくまでも私の印象では、引っ越しして最初の1,2日こそ大人しくしているものの、すぐ周りと打ち解けて仲良くなったり、それどころかリーダー格になったり、引っ越ししたことで余計目立つ存在になる人も居ますが、ライリーってそういうタイプなんじゃないかなあと思いました。
    おかげで彼女のことは、あまり心配する気持ちにもならなかったです。

  7. 私も少女期に田舎から都会に引っ越した経験があるので、ライリーにすっかり感情移入してしまって・・・・。
    それに心理学専攻ということもあって難しく考えすぎて、あまり楽しめませんでした~(考えすぎ?)
    一緒に行った小3の女の子は、十分理解(?)できたらしく鑑賞後は涙ぐみながら「私はビビリが好き」とか。
    次は「ミニオンズ」を一緒に観ることにしました。

  8. ライリーはヨロコビがカナシミを押さえつけてたけど、私は子供のころイカリやムカムカの吐露が苦手でした。
    どうしてもヨロコビに満ちた良い子でいなきゃってプレッシャーは共通だけど。
    やたら熱っぽいキャラや歪んだキャラに感情移入しがちなのは、その頃の反動なのかも。
    なんだか観てるうちに、自分の脳内司令室を想像できちゃうのがおかしかったです。

  9. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    cinema_61さんも転校少女だったことがあるんですね〜
    そして、心理学専攻だったことがあるんですね!そのせいで楽しめなかったとは…ちょっと分かります。
    私の場合は、ちょっと単純化しすぎているようにも思えたのですが、
    でもまあ、「11歳の子供の頭の中だから」という言葉が、最初と最後に合計で二度、出てくるんですよね。それなら仕方ないかな。まあ弱冠“言い訳”にも聞こえますがw

    そっか、「この作品てcinema_61さんらしくないなあ」と思ったのですが、小さいお子さんと一緒に見たのですね!楽しめたなら、良かった良かった。
    ミニオンズ、すっごく評判がいいですね。1や2の時はさほど日本では評判は高くはなかったんですけど、今回は高いみたい。
    私はこれからです。明後日辺りに見る予定です。

  10. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ああー、なるほど!ノラネコさんがイカリやムカムカの吐露が苦手なの、分かる気がします。
    もともとあまり感情を外に出さないタイプなのかと思っていました。
    こういうのって、やはり子供の頃からベースになってるの、分かる気がしますよね。

    でも、自分の感情の脳内司令室を想像してみるのって、いいことなのかも。
    少なくても、「今、自分の中のどんな感情が渦巻いているか」を意識してみるだけで、少し冷静になることが出来ますよね!

  11. これ、自分としては相当面白く楽しめました。
    単純な展開ではありますが、充分ワクワクして観てました。
    今まで観たピクサー作品の中で最も泣かされた。というぐらいのめり込んで観ちゃいました。
     
    大人になりきれない自分は未だにヨロコビが幅を利かせているようです。と言うかヨロコビが主じゃない感情の状態が我慢ならないって感じで、従って一見前向きで明るそうだけれど、実は能天気で無責任。現実逃避をお手のものとする、かなり問題抱えた爺ぃです。自分だけが常に幸せで周囲の人間は大迷惑というタイプ。もう一つ特技として幸福レベルを下げる事が上手いです。だから向上心が沸きにくい・・・

    他人様のところでカミングアウトしてしまいました。
    大変失礼しました。

  12. imaponさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    おー、そんなに気に入ったんですね!
    これ、ハマる人はめちゃめちゃハマってますよね。

    imaponさんは、ヨロコビが感情の制御室を担っている人なんですね。こういう人って、周りを元気にするし、不快にさせることのない、一番いい人だと思います。
    とか言いつつ、私も大人になった今では、ヨロコビが一番上位に来ることの多い人かも。
    上機嫌で居る人の方が一緒に居て楽しいし、こっちも嬉しくなりますもん。

    でも確かに悪い部分もあって、脳天気かもしれませんね。自分が一番楽しいことを優先してしまう。
    実はすっごい周りに迷惑をかけるというのも、なるほど…と思います。
    向上心もあまり無いなあ。ポジティブで居るには、自分の甘えを認めてあげちゃうという点もあるかも(笑
    でもこういう人同士だったら、すごく仲良くなれそう!




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