『人生スイッチ』 ストレス深い社会の諷刺オムニバス
アルモドバル製作ということでいそいそ駆けつけたところ、大正解。最高に面白かった!
6つの物語のオムニバスだけど、一つ一つの話がキマッててだんだん鳥肌が立ってきた。
スペイン映画のクレイジーさが好きな人(今作品はアルゼンチン・スペイン合作ですが)、ブラックコメディ好きにはオススメ!
知的エンターテイメント。
ただ、普段からヨーロッパ映画に慣れ親しんでいる人の方がいいかも。
監督業を兼ねていない、アルモドバルの“製作”作品というと、イザベル・コイシェの『死ぬまでにしたい10のこと』、ギレルモ・デル・トロの『デビルズ・バックボーン』。同じくコイシェの『あなたになら言える秘密のこと』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ハイルミュタンテ!電撃XX作戦』。個人的未見作はこの1作で、イグレシアの狂気の世界が大好きなのできっと面白いと思うんだ。次に絶対見よう!そして今作は、ダミアン・ジフロン。監督・脚本。
6つのオムニバス、群像劇的にせず章立てになっているので、頭を切り替えて次々楽しめちゃう。ブラックコメディと言っても、人間が社会に対してストレスに押し潰されそうになり、何かに逆らうかのように挙句ぶっ壊れていく様を描写しているんですね。この壊れッぷりが勢いが良くて、思わず吹き出しそうになってしまったり、内心ヒヤヒヤしながら、共感しながら皮肉を感じついニヤリ。
社会と人間の歪みが次第に顕わになっていく描写で群像スタイルのものって案外あって、例えばジャ・ジャンクーの『罪の手ざわり』なんかも実は、ユーモアが無いだけでこの作品とどこか通じる部分があったんですよね。人間に罪を犯させるような人生のスイッチを、諷刺で描くか真面目にアート的に描くかの違い。
この作品のユーモアって、ただの笑いと違って鋭敏な諷刺。笑いながらもどこかハッとさせるものがあるんですよね。ものすごく知的な作業で、人間の馬鹿馬鹿しさや痛々しさを、笑いに転化させるカラッとしたセンス。誰しも、社会に押し潰されそうになりながら、なんとかこらえて生きている部分もあるじゃない?そういうのを、グイグイ付いてくる。好きです。
1の『おかえし』は、軽めのコメディ。笑っている内に、笑えなくなるダイハード状態に。この落差と、一瞬のラストショットの急降下がいい。この作品から始まることで、嫌でも心の準備が整ってしまうw。
2の『おもてなし』は、このツイートを思い出した。
米国人の後輩ジェフに「おもてなしって知ってるか?」と聞いた所「知ってます、知ってます。あれでしょ。あの、失敗をしたら指を詰める事ですよね」と言った為、しばらく思い悩んだ末、おとしまえである事が判明した。おもてなしの認知度などこの程度なのである。因みにジェフは北野映画のファンである
— 佐原敏剛 (@saharabingo) July 15, 2015
まさにここでも、「お・も・て・な・し」というよりは、「お・と・し・ま・え」w!
1とは打って変わってミニマムな、レストランでの小さな殺意の話。
3の『エンスト』。これすごい好きでしたね!こちらもミニマム。ホラー好きにはこうした『激突』的状況って俄然嬉しくなっちゃうのでは。
車の中で殴り合うシーンもあったんだけど、狭い場所での切り返しで誤魔化さない殴り合いって見たことある?!私は初めてでしたね!ラストにも爆笑。
4『ヒーローになるために』。これはまたテイストが違う。案外、真面目な社会派ドラマに見て取れなくもない。これこそ、社会の軋轢で今にも潰されそうになっている個人でした。駐車場代、レッカー代。こうしたシステムってどこの国も同じなんだろうか?陸運局のおざなりの態度など、イライラする気持ちがすごい分かるなあー。
5『愚息』。何か問題が起きると、周りの人間たちが急にハイエナのように群がってくる…。これは案外、スペインやアルゼンチンではよく見られることなのかもしれない。
6『HAPPY WEDDING』。最後に来た、強烈な作品。よくある痴話喧嘩の嫉妬・復讐劇も、結婚式という幸せの絶好調からの落差であるから、勢い良くストンと落ちること、落ちること。濃い目の凝縮された人間模様は、なんとなくラテンのノリ?何段階もにシフトチェンジをして、話が加速していく。うーん、上手い。ラストのそっと着陸する様子にも、文句なしのブラボー!
2015/07/26 | :コメディ・ラブコメ等 アルゼンチン映画
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「お・と・し・ま・え」最高ですねww
「おかえし」で、これがアルゼンチンの歴代興収第1位って
アルゼンチンの人ってどんだけブラックユーモア好きなの?
と思いましたが(笑)1本通して観ると、意外に社会派の作品でしたね。
ユーモアたっぷりに庶民の不満や鬱憤を晴らしつつ、
最後はちゃんと”愛”に着地。お見事でした。
ところで
>車の中で殴り合うシーン
『友よ、さらばと言おう』の冒頭シーンも切り返し無しに見えましたけど、近年動体視力ガタ落ちなので、定かではありません^^;
この章立ての順番も緻密に計算されたものなんでしょうね。
ひとつでも前後が変わるとどうなっていただろうと逆に興味が湧いて来たり(爆)
それはソフトが出たらテストできるからいいんですね(笑)
他のブログでは「エンスト」のスカトロ映像に耐えられなかったとか言ってますが
これも人それぞれなんだな~と思いました(笑)
「ヒーローになるために」これはラスト5分が絶品ですよね。
(20分弱の映画のラスト5分って言うのも、、、)^^;
amiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
「おかえし」の簡潔さには驚くと同時に、ちょっと気持ち良くなりましたよ。
「こうやって、映画文法をきちんと省略して見せることが出来るつなぎ方をするなら、この先も面白いゾ」と。
あのワクワク感はちょっとたまりませんでしたよ。
>『友よ、さらばと言おう』
お!これも切り返し無しの車の中での殴り合いでしたか。
未見でしたので確認しなければ。
フレンチノワールは結構スルーしてしまう私で、フレッド・カバイエはプレイヤーしか見てませんでした。
あのタコ殴り、声を出して笑いましたよw
分かってるよなあ
itukaさんへ
こちらにもどうもです♪
そうそう、章立ての順番も計算づくですよね。
すごくキレがいいんですよね。好きだなあ〜
『エンスト』はホラー好きの方が気に入りそうですよね。
究極表現だから馬鹿馬鹿しく思ったりする人もいるかも。
私は大好きですけどね(笑
『ヒーローになるために』は、あれだけの短い最中に、逡巡の中で鬱屈を溜めておきながら、一気にラストで覆してくるんですよね。
テンポもカット割も他作品と全く違うから余計印象に残る。見事です。
こんばんは☆
そうそう、順番って大事ですよね~~♪
「おかえし」はタイトルでもう、心構えが出来たというか、
それであの、「おもてなし」ですからね(笑)
「お・と・し・ま・え」嗤えます(≧▽≦)
だれもが激突を思い出したであろう3話のラスト、
可哀想だったけどココは館内、笑い声がもれてました^^;
kiraさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おお、kiraさんちょっぴりご無沙汰しています。
これ、私大好きだったんですが、こちらの作品で遊びに来てくださりとっても嬉しい!
お・と・し・ま・え最高ですよね(爆)!
「おかえし」があって「おもてなし」と来たら、やっぱり「おとしまえ」も欲しいところですよねん^^
激突シチュエーションを、新鮮に感じさせるところ、ほんと好きでした。
私が見た時は、結構笑いがもれてましたよ〜(1100人収容のところで満席近く居ましたからw)。
それぞれが怒りのおとしまえをつけて、結果的にその代償を支払う話でしたけど、ブラックなのに後味が悪くない。
やっぱり人間誰しも怒りを感じていて、この映画のシチュエーションにはどこかで感情移住しちゃうんでしょうね。
3話と4話は同じようなシチュエーションで、爆発を妄想したことあるしw
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
なるほど。映画だからこそ、社会の軋轢に押し潰されずに、我慢せずスイッチを押して欲しいと願っている観客の私たちが居る。すごくそれ感じましたよ(笑)
なるほど、単にそうした箇所に感情移入させるばかりではなく、その結果としての代償も描いていました。1以外は(爆)…あ、2もかな?
3と4の状況なんて、すごく気持ち分かりますよね。
ゴーンガール的状況から、笑える復讐を成し遂げた挙句、ラストでハッピーにまとめた第六話。これ天才かと思いました!