『ローリング』 もう少し上手に転がれていれば、あるいは…
転落人生を描いた物語は大好き。それも、ダメ人間が徹底的に破滅的な終わり方をするものだって嫌いじゃない。
インディペンデントで自分のやりたいことを、精一杯やれてる人って大好きなんですよね。特に邦画の状況がどれくらい酷いかは感じているし、思わず応援したくなる。
撮影もすごく良かったし、不思議な存在感のあるスコアも好き。画面処理なんかも良い。長回しを多用し、無駄な切り返しが少ないのも好感が持てる。
カメラや画の切り取り方、テンポがモロ好みなのに、何故だろう。
twitterのTLでは大好評だったのに、あまりハマれなかったなあ。
『パビリオン山椒魚』『乱暴と待機』の冨永昌敬監督。
このナレーションの主がどうなろうと「知ったことか」と思ってしまった部分が多かったせいかもしれない。
ダメ人間という設定もあって、共感はハナから得られそうもない元教師・権藤(川瀬陽太)。
この人物のナレーションが正直ウザい。彼の”ダメ人間”としての転落度合いの“落差”がハナから低いのも、盛り上がらない理由ではある。最初からどうしようもないクズ教師で、パリっとしたところが全く見られず、生徒に対する愛情も何も感じられない。
だから「自分は教師が向いてないと、ようやく分かりました」というナレーションも、「今頃分かったのか、この馬鹿」としか思えないし、こうした人物の勝手気ままなナレーションというのが、どうにもノイズに感じてしまう。
「なんだかどうでもいいな」としか感想の出てこない人物のナレーションが、ずっと続くのは正直ウザい。
だが、この作品の本当の主人公はナレーターである権藤ではない。観客がどの人物の視点で物語を見ていくかというと、教え子の貫一(三浦貴大)の方。
この作品の真の主人公は、貫一と言える。
この先ネタバレ
物語は、この二人の関係性を軸にして進んでいく。どこか相手に対して複雑な思いのあるまま繋がっている関係性だ。
二人の間を行き来するみはり(柳英里紗)の存在は、ファム・ファタール的。とても綺麗でスタイルも良い。セックスシーンも印象的で、エロく撮れている。柳英里紗も上半身ヌードを惜しげも無く披露している、力の入ったものになっていて好感度が高い。
みはりは自分の都合やその時々の感情で、二人に身を任せていく。彼女の描き方はどこか男性の理想像的だ。みはりは貫一のために自分を投げ出し、権藤を破滅させることを選ぶ。そして自分も破滅してしまう。貫一に健気な人物として描かれていて、女神的でもある。
(一方、元同級生の女(井端珠里)は、貫一と学生時代に付き合っていた一方で、別の女学生と二股をかけていたことが盗撮ビデオによって判明する。)
この捻れた関係性をもっと強調するために、ラストのみはりと権藤のラブシーンはもっとちゃんと描くべきだったのではないか(こちらは省略されている)。それこそ、みはりと貫一の最初のラブシーンのように、切り込んで描くべきだったように思う。
そうであれば、ラストの二人の破滅がより効果的に浮き立って来る。
あと、東京をどことなく意識した、“郊外の鬱屈とした感情”が汲み取れるようになっていて、水戸である理由がもう少しあると、面白かったようにも思う。
ダメ男の転落人生の転がりっぷりが、今ひとつに感じられてしまったのは、先に挙げたような“転落人生の落差”の高低差がそれほど感じられなかったせいではないかと思う。
でも、今後おしぼりを見てこの作品をフッと思い出すこともありそうだし、 「延長!」「延長!」のやり取りには声を上げて笑った。
うん、こうして考えてみると、もう少しで気に入ったかもしれない。
元々ナレーションが大嫌いなんですよね。
映像で描いて欲しいと思うタイプなので。
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
コメント