『オン・ザ・ハイウェイ、その夜86分』 リアルタイムのワンシチュエーションムービー
『マッドマックス 怒りのデスロード』の興奮がいつまで経っても抜けそうにない。
トム・ハーディが出てるということで、思わずチョイス。
すると何と!こっちでもずっと運転するトムハが見れる!
しかも、「My name is Max」と対照的に、
「I’m not mad!」と来たもんだ!
“その夜86分”なんていう邦題が付いてるけど、こちらの上映時間はどれ位かな?と思いきや、尺そのものが86分。
“映画の上映時間=実時間(リアルタイム)”を目指した映画なのだな、と分かる。
この邦題は、そうしたことも匂わせるというわけ。これは素晴らしい邦題ではないか!
で、この作品について。
“車”ってものはつくづく、人を“目的地(未来)”に向って走らせる、“現時点(現在)”を表すものなのだ、と良く分かる。
つまり、リアルタイム=実時間の映画であるばかりか、主人公の“現在”を二重の意味で強調している。
だから表現としては浮き立ってくるし、これは素晴らしいぞ!と思わず膝を打った。
この先、ネタバレで語ります。
全然マックスには見えない
主人公のこの男が行こうとしている“目的地”。
彼が過去に一度だけしてしまった浮気の相手で、その出産に立ち会おうとしている。
だが、男は相手に決して「愛している」とは言わない。
彼の気持ちは“そこ”には無いのだ。
ここに“未来”があるように、まず観客には思えない。だから驚く。
この目的地に向かう彼に、たくさんの障害が立ちはだかる。
明日の明け方早く(5:45)に仕事がある。それすら放ったらかして目的地に行こうとしている彼を引き止めようとする会社の上司。彼のポジションの仕事を任せようとするため、自分の代わりの部下に出す仕事上の指示。
彼が対処しなければいけないのは、むしろ“これまで彼が積み上げてきたもの”に対する精算だ。
“仕事”もそうであるし、“家庭”=愛する妻、息子たち。
ここでは息子たちは今(現在流れる時間)は他のこと(フットボールの試合)に夢中になっているため、妻との対峙が1番大きな仕事となる。
物語が進む上で、彼が1番大事なのものは何かが分かってくる。
“未来”に彼が手に入れようとしているのは何か。
これは“家庭”=愛する妻と息子 なのだった。
妻が彼の間違いを許せるか。彼の“未来”はこれにかかっている。
車の中で、父親の亡霊と話すシーンがある。このことにより、彼の出生は私生児なのだと分かる。立ち会うこともなく、自分と母親を捨てた父親。(死が近くなってから再び彼に会いに来たことがある)。
つまり、車が向かう先である“目的地”は=“未来”ではなく、“過去の精算”ということになる。
だから、「I’m not mad」はその台詞の通りで、彼は決して突然狂ってしまった訳ではないのだ。
彼の“仕事”は、この“現在の時間”が流れる中で、まさに彼が失ってしまった大事なものだった。
仕事人間の彼にとって(一緒に働く人は日雇い人に至るまで、彼の評価が高い)、これはキツイことだったはずだ。
彼にとって、父親の二の舞いをしないのは何より大事なことなのだろう。長い期間、父親を憎んで生きてきたのだろうことが分かる。
彼の心=希望である“未来”は、“家族(妻と息子)”にある。
“現在”、“過去”、“未来”。
彼が現在向かっているのは“過去”であり、その精算をした上で、この先(“未来”)も“これまで彼が持っていたもの”を手放したくないと思っている。
つまりこちらは、“過去”と“未来”に挟まれた(ロックトアップ=Locked up)、ワンシチュエーション=“現在”の物語なのだった。
過去の亡霊と語る姿は、思わず『オセロ』を思い出した。
一見すると突飛としか見えない行動も、こうして一人の男が葛藤の中で苦しみ抜いた結果のものだと考えると、
少なくとも私は、その過ちを許せる人間でありたい、と思った。
(すっかり裏切られた妻の気分で見てしまった)。
彼の妻の方はどうかなー。
この先がどうなるかが、決して見えてこないのが怖い物語でしたよ。
ハイウェイを抜けて一般道に入ったところで、一度彼は車を停止させる。
そしてもう一度目的地に向かう、というところで終わっている。未来を予知させる様子は無いんですね。うん、やはり“現在”を描いた物語なのです。
過去、人間が何をしてきたかではなく、“現在”、何をしたかで英雄であるかが決まるなら、この主人公の男を私は評価したい。
“現在”を強調した物語。
スティーブン・ナイトは、『ハミングバード』もそうだけれど、男の内面の孤独を描かせると素晴らしい。監督作としては二作目で、脚本も自分で書くタイプのよう。
脚本家としても、『堕天使のパスポート』『イースタン・プロミス』と素晴らしい仕事が多いんですよね。
今後も要注目だね。
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
TVで映画番組がなく、映画雑誌も読まないので
こういった作品の情報が自分に入ってこないんで・・・
トム・ハーディがこんな作品に出演してるなんて知りませんでした
気になりますね
見てみたいです
サイ5150さんへ
こちらにもありがとうです♪
そうなんです、マッドマックスつながりでこっちまで見ちゃいました。
86分、ずっと車の中で運転してるだけの映画なんですよ。
だから、ある種“裏マッドマックス”と言えるカナ、とも思ったんですが…
でもっ!今日、『ひつじのショーン』見てきたんですね。
で、こっちの方が裏マッドマックスだ!と思います。
ノンストップアクションはこちらも一緒なんです。
「何を言い出すんだ?」なんて思われそうなんですが、本当に素晴らしく出来がいいの。
マッドマックスの渇きを求めるなら、こっちの方が断然良いですよ!ひつじのショーン!
こんばんは^^
この邦題は秀逸でしたね。
原題の「 Locke 」アイヴァンがこだわり続けた
アイデンティティーでもあるのでしょうが
作品を観なければ、何が何だか・・・ですものね(笑)
ところで、トムハつながりですが
とらねこさんは「ウォーリアー」はご覧になりましたか?
私は特別トムハファンと言うわけではありませんが、
この作品のトムハも素晴らしいので、もし未見でしたら
来月DVDスルーされるみたいなのでお薦めです。
過去の記事をリンクさせていただきますが
もし不適切でしたらコメントごと削除してくださって構いません^^
http://hasikko.exblog.jp/16297774/
amiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
この邦題なかなか素晴らしかったですよね。
そうそう、原題の『Locke』、これじゃあ何がなんだか分からないタイトル。
まあ、もともとは狙ってのことでしょうけれど。
ウォリアー、知りませんでした。DVDスルー作品だったんですね。でも、amiさんはご覧になってらしたんだ。
ところで、amiさんブログやってらしたんですね。
これまで、遠慮してURLを貼らずにいらしていたなんて。
しかも「不適切でしたら削除してください」なんて、なんと遠慮深い方…まさか、そんなことあるわけないですよ!
遊びに行かせていただきます〜。
とらねこさん、こんばんは~。やっと記事アップできましたよ。
初日に観たのに、遅過ぎ(笑)。
しかし、、トム・ハーディって不思議な役者だと思わん?
↑の写真、ほんとに端正な男前でマックスには全く見えない。。
結構いろんな映画で彼を目にしているんだけど、印象がそれぞれ全く違う。
レオみたく、カメレオンだけど本人のキャラが隠しきれない役者じゃないんだよね。
おっと、そのレオと今度共演しているらしい、、、超期待!
(インセプションで既に共演はしているけど)
マッドマックス、実はまだ再見できてない、、でもパンフレットは買いました(笑)。
真紅さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
お、書き上げましたか!
真紅さんは早く書くタイプかと思ったのですが、案外そうでもないのかしら。
トム・ハーディ、ホントなかなかのカメレオンですよね。
175cmと結構身長は低いのに(失礼ながら)『ブロンソン』やら『ダークナイトライシング』のベインやら、マックスにキャスティングされるなんて、よっぽど何か魅力がある、と思われているんでしょうね!
ディカプーとのインセプション以来の共演て、イリャリトゥの新作ですね。
でもこの記事を読んじゃって、2人の仲がちょっぴり心配!?笑
http://m.news.walkerplus.com/article/54018/