『封印されたアダルトビデオ』 by 井川楊枝 を読んだ
この激ヤバな内容…。これは凄い。AV業界の裏事情を書いたものとして、突出した内容だった。
目の付け所がまず良いのと、タイトルだけで思わず惹かれる、というのは確かにある。だが、ただ業界に詳しい人が書いたというだけではない迫力がここにはあった。
特に最終章が白眉である。筆者が何故これを取り上げたのかが良く分かるはずだ。彼自身が当事者でもあった、“あること”を告白している。これらは“封印”しておくわけにはいかなかったのだろう。圧巻の締めとなっている。
AVについて詳しくもない癖に、いきなりこれが見たくなった理由。
それは、『劇場版 テレクラキャノンボール 2013』だった。
「どうしてこの人達は、こんなものが撮れてしまうんだろう。」という驚きがあった。何かが突き抜けていて、その理由が私は知りたかった。
「AV業界って、私が想像したような生ぬるい世界ではないんだなあ」という感慨もあった。
そんな思いから、ここに出てくる出演者の一人、“バクシーシ山下”について、何の気なしにWkipediaを読んでみた。
宮台真司が取り上げていたこともあったので興味を引かれたのだが、『劇場版 テレクラキャノンボール』以上にトンデモない内容のことがさり気なく羅列されていた。で、そうこうする内にこの本へと辿り着いてしまったのだった。
19に分かれたチャプターは、各章様々なAVの裏事情を追っていく。
様々な理由から発売されなくなってしまったAV達。見ることが適わなくなってしまったその理由たち。
様々なパターンがあるが、地味なものは未成年であることが後から発覚したり、AV女優が自殺・発病してしまったり、契約上の理由、公共の場で撮影し逮捕されてしまったなど、よくある物という印象もある。その中に、障害者を出演させてビデ倫(映倫ならぬビデオ業界の倫理規定)に認めてもらえなかった、というものもあった。これに関しては、逆にここ数年でようやくそうした事実が報じられるようになってきた。時代より早すぎた不幸な例と言えそう。
「AV業界は企画が勝負」ということで、他よりもっと目を引くことを狙って、いつの間にかトンガりまくっていき、何かの限界や常識にどんどん挑戦するかのような、“面白ビックリ人間模様”。これらが印象的だ。
特に凄いのは、バクシーシ山下が関わっている物だった。どこか人間の本質に鋭く迫るかのような作家性すら感じさせられるものがあった。
他国の宗教の儀式に赴いた挙句、大々的にニュースとして報じられてしまったり、死者の墓を犯したり、関係者が死んでしまい“呪いのビデオ”と言われたり。自衛隊の基地に乱入して、AV女優を使って大盛り上がりの狂乱を撮ったり。バクシーシ子飼いの真性マゾ男優、観念絵夢がまた何でもさせられちゃって可笑しい。
そうこうする内に、あれは無いのかな〜…と半分位で思った。そうです。有名なバッキー事件ですね。
とうとう1番最後に登場するのだけれど、正直この事件については、この部分だけもっと詳しく掘り下げるか、これだけで一冊の本にするかしてもいいぐらいだ。
その内実が本当に酷い。私は初めてこれを知った時には心底恐ろしくて震撼したのを覚えている。
その、バッキーという会社の代表取締役から、組織の体質まで踏み込む。さらに、ここに来てようやく「実は…」と言った形で、筆者本人が関わった部分について、自分の過去について、おそらくずっと言いたくて我慢していたかのように、一気に奔流が噴き出してくる。この部分に関しては当然壮絶なのだけれど、エロだのSMというよりもグロの最先端で、汚いながらも呆れて読めてしまいそう。
いやはや、AV業界って人間の恥部を覗くような部分があって、だからこそ奥深い“獣道”なんだろうな。
2015/07/27 | 本
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