『潜水服は蝶の夢を見る』 by ジャン・ドミニク・ボービー を読んだ
忘れられない映画なんだ。
ゼロ年代のベストにも入れた、大好きな作品(同タイトル)の原作。
あの頃の感想(→『潜水服は蝶の夢を見る』)には、「絶対原作を読もうと思った」なんて言ってるくせに、今頃になってしまった。
いかに本を読まないかが分かるな…。
この本は、私の宝物になった。
文の一つひとつが宝石のよう。
味わい深く、センスきらめく言葉たち。
文字を読む際には、いつもじっくり舐めるように読む私には、ぴったりの本だった。
舌の中でコロコロ転がし、しっかりその味わいを感じてから飲み込む。
こんな鑑賞法だとなかなかペースは進まないのだけれど、この作品に関してはそうやって読む以外に、正しい読み方は無い。
それこそ、覚えるぐらいにしっかり抱きしめる。そうするのがちょうどよい作品だ。
なんて、高貴な精神の持ち主なんだろう!
彼が生きた煌めく人生が、彼の記憶の端々から文字通り甦る。
もう彼が味わうことのない、生きながら葬られてしまったその肉体の中で、まだ自分は生きているんだ!と必死で訴えかけてくる。
彼がいかに魅力的な人物だったのか、どんな人生を送ったのか。それがこの薄い本から伝わってくる。
文の構成の見事さから、言葉の選び方から、文学の才能を痛いほど感じる。
病に倒れる前は、世界的な雑誌「ELLE」の編集長だったということだが、バリバリのやり手だったと言う。
皮肉なことに彼の病が彼を、ビジネスマンではなく文学者へと押し上げた。
どんな才能ある作家も、ある点では彼に適わない。
それは、ここに紡いでいる言葉の数々は、生と死の境目に居る者が発する叫びだということ。
振り絞るような魂の記録なのだ。
“ロックトインシンドローム”。実は私の相棒さんの友人に、ジャン=ドミニク・ボービーと全く同じ病気になってしまった人がいる。
オフ会で出会った四国に住むその人を、健気にも相棒さんは毎年訪れる。今年も、つい先日のGWに行ってきたばかりだ。
この病にかかる前は理系の技術職で、バリバリ働いていた彼だったらしい。
この病に倒れて早10年にもなる。
やはり、ジャン=ドミニク・ボービーと同じように目だけはしっかりとしていて、そこで彼が生きていることが伝わるのだと言う。
ジャン=ドミニク・ボービーにとってのクロードにあたる人物が、彼に居ないことが私には気がかりだ。
この本の話だけは奥さんにしたことがあるが、ここまで素晴らしい作品だとは想像もしていないだろうと思う。
次に会う時は、この本を奥さんにプレゼントしよう。
2015/06/21 | 本
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コメント(6件)
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この映画も本も素晴らしかったですが、近くに同じような病の方がいると、感じ方がまた違ってくるかもしれないですね。
いま健康に動けていることに感謝しないとです。
http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-1194.html
ボーさんへ
こちらにもありがとうございます♪
ボーさんも読まれましたか!
そして、URLを貼り付けてくださりありがとう。
今後もこんな風に、コメント欄に貼り付けていただけると助かります。
そうなんです。映画の方を見た時は、こうした病気を知らなかったのですが、この本を読んだ時は相棒さんの友人のことを思い出してしまって。
ジャン・ドミニク・ボービーの言葉がより深く、心の中に響いてしまいました。
こないだ本が返ってきたので(笑)、久しぶりに映画のことも思い出したりしました。そういえばあまり観る気がなかったんだけど、とらねこさんに激押しされて観たんだっけな…とか。すすめてくれてありがとう
本もまた再読してみよう。7年経ってまた読んだら新たな発見がありそう。おぼろげに覚えてる中では、映画になかった実際に見た夢のエピソードなどが印象に残っているでありんす
SGA屋伍一さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
えっ、そうだったっけ?私激推しなんてしたんだ。
全然覚えてませんでした…
そっか、それでこの原作本を貸してくれたのね。
これをSGAやんが貸してくれた7年前って、1番本読んでない時期だったんですよね。
こんなに長らく返さずに居てごめんなさい…。
SGAやんが「返さなくていいよ」って言ったのに、人をジャイアン扱いするんだもん!
とらねこさん、こちらにもお邪魔します。
思わず懐かしくて。。私は映画→原作→映画でした。
この本、ホント素晴らしいよね。
どうして今? と思ったらブロガー仲間さんに借りてたのね(笑)。
もう7年前かー。時の経つのは早いね。
http://thinkingdays.blog42.fc2.com/blog-entry-410.html
真紅さんへ
こちらにもありがとうございます♪
本当、懐かしいですね〜。この頃はもう真紅さんとやり取りしていましたよね、きっと!
私は、映画→映画→原作でした(笑
これ、とある方が自分から本を貸してくれて。その時私、「最近本読んでないからなかなか読めないかもよ」、なんて遠慮しようとしたんですけど、「いつでもいいよ」と貸してくれたのでした。しかし、そうこうする内に月日は経ち…
「もういいよ、あげるよ」って言ったので、安心していたのに
「とらねこさん借りたもの返してくれない、とらねこさんはジャイアンだ」
とか言うんですよ!酷いでしょ?
急いで読んで返しましたよ、もう〜。
飲み会の席でジャイアン呼ばわりされるんだもの、たまんない!