『百日紅 Miss Hokusai』 大江戸妖怪ウォッチ
北斎の描いた太鼓橋そのままの世界が目の前に広がった瞬間、「この映画見て良かった!」と大満足で笑顔いっぱいになってしまった。
優しい色合いの、浮世絵調の手描きっぽい細い輪郭線に、錦画のような色の重ね方。ああ、江戸情緒なり!
私の知らない江戸の姿を見ることの出来る喜び!
べらんめえ口調の江戸っ子気質なMiss Hokusaiの、きっぷのいい姐御っぷりがまたいい。眉毛なんか太くて、フリーダ・カーロを思い出す。こちらのメキシコの女史も、絵描きの男まさり美女で、業が深いひとだったから事によると、ビンゴかも!?
この時代の吉原、花魁が出てくるとさらに迫力が増すんですね。
お栄さんは名の知られた画家の娘とは言え普通の市民ですから、矢絣(やがすり)の着物やら地味で動きやすそうな活動的な着物を颯爽と羽織っているけれど、
吉原の花魁ときたらアナタ、島田に結った髪や髪飾りの金ピカ加減、豪華絢爛なナントカ単衣(ひとえ)にブルル!悪の魅力ー♪
最近ちょうど、こんなことを考えていたんですよ。
目に見えるものしか信じない人の貧しさについて。目に見えるものしか信じない人間は、真実から遠ざかっているのではないかって。
見えない世界に目を向けると、もっと豊かな世界になるんじゃないか。
“虫の知らせ”というやつがあるでしょう?それは、単なる偶然なのか。本当は無意識が教えてくれているんじゃないか、って、そんなことをユング大先生だって言ってましたしね。
この作品は、五感全部と、プラス1である六感もフル活用して生活を過ごす、インクレディブルな北斎親子を描いていた。
彼らが目にした妖怪らしきものの落とし前をつけようとせず、あのままに放って置く辺りは驚き。
こうしたエピソードの散らばり方は、逆に物語を窮屈で小さいものへと縮小させることなく、むしろ芳醇な味わいにさせている!
特に私が好きだったのは、行燈(あんどん)に落ちた蛾からニュルニュルと怪物らしきものが引き摺り出てきて、あのろくろ首に繋がる一連のシークエンス。
ろくろ首の方は、首が長〜〜く伸びるところを直接に描かず、鈴が鳴りながら首だけククッと動く、ミニマムな表現が逆に大胆!
よってらっしゃい見てらっしゃい、大江戸小江戸の妖怪ウォッチだよ〜!
この先、ネタバレ
お栄の妹、お猶になかなか会いに行こうとしない北斎親父を、“人でなし”等ではなく、“意気地なし”と言うこと。
彼が何を怖がっていたかというと、自分が知らぬ間にしてしまったかもしれない“罪”だった。
お猶が夭逝後にボソッと呟く親父の台詞に、何故かストンと合点がいく。彼も妖怪みたいなものなんだね。
こうした北斎画伯の常人ならぬ描写は、小布施にある北斎館に行ってみるとよく分かると思う。
常に画家として進歩し続け、画風もどんどん変わっていった巨匠が、死をどれだけ退けようとしていたかが分かる。
点数の多さを誇る所蔵美術館ではないけれど、東京で行われた北斎展では見たことのないものもあったので面白かった。
90を過ぎた最晩年の頃の彼の作品も見れるよ。
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良い映画だと思うんだけど、案外賛否わかれてますね。
やっぱり原恵一だけに、ファンの期待値が大きすぎるのかな。
実写で撮れば良いのにって意見もありますが、これはやはりアニメーションならでは。
両国界隈が主要な舞台になってますが、今と地形がそれほど変わってないので、これはあの辺かなあとか、地元民の楽しみもありました。
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
へえ〜そうなんだ、賛否分かれてるんですね。
でも、私の好きなのって大概そんなのばかりなので、あまり気にしなかったりして(爆)
そうそう、毎度思うんですが、「実写でやればいいのに」という発言は、アニメーションならではの表現がきちんとやれている作品に対して失礼ですよね。
確かに、ノラさんは地元民の楽しみというのがありそうですね!
江戸っ子下町感に溢れてて、お栄さんカッコ良かったな♪
力作でしたね~ アニメで吉原を出したのも斬新だったし、さらには陰間茶屋まで出てきたり… しかしあのオカマ君は、なかなか粋でありんした
あと屏風に祟られるシーンはすごく怖かった… まちがって観に来ちゃったお子さんは、絶対トラウマになるだろうなあ。まあそれはそれでよし(笑)
SGA屋伍一さんへ
こちらにもありがとうございます。
力作?私は傑作だと思ってます。
「大好きになりそうだコレ…大好きだわコレ…感激!感激!感激!感激!」の連続でしたよ。
“陰間茶屋”って言い方あるんですね。勉強になりました。
あの屏風に祟られる話も背中ゾクゾクしましたね〜。
ここに出てきた恐怖話って、怨霊的な扱いというよりは、
生身の人間の精神的な生きるストレス・苦悩から生まれてきたもの、という描写で納得がいきました。