相米慎二を育てた男 プロデューサー伊地知啓 特集 『雪の断章』『セーラー服と機関銃 完璧版』『光る女』
雪の断章 情熱
屋根に哀しみ乗せた列車の〜♪
斉藤由貴が出演しているという理由で、何となく避けて来たこの作品だったけれど、それは大きな間違いだった。斉藤由貴を初めて可愛いと思った!ファンの方、ごめんなさい。
そう言えば、薬師丸ひろ子も観月ありさも、みんな相米映画を見るまではさほど好きではなかった。むしろ苦手だったのに、相米演出の下では全員素晴らしく見えちゃうんですよね。演技も堂々としているし、滑舌も良いし、何よりそれぞれ皆個性があって本当に実力のあるアイドル達/女優だなあと思う。きちんと鍛え上げられてる感じがします。
相米作品中は、女の子がイジイジしてないんですよね。いじめられる設定(“みなしご”設定多し)であっても、皆健気で真っ直ぐで、負けん気が強かったり。この気が強いってのがポイントで、“アイドル映画”ー“女の子映画”であっても、映画の中でヒロイン達は甘やかされてないんです。むしろ逆境に強く耐えるタイプの強さのあるヒロインだから、観客である私達は応援してしまうのね。で、その通り作品の裏でも監督のシゴキに耐えられた子達だからこそ、ここまで立派に映るんだろうなとも思う。
あと、ショートカットやポニーテールが好きですよね(笑)。
この作品はちょっと変わっていて、サスペンスとしては正直あまり出来が良くないのかもしれません。ラストの展開が唐突なのがもったいないし、投げっぱなしジャーマンに思えたりもする。
でも、クライマックスが迎えられるための下地である、ドラマ部分はちゃんと前半にも描かれてはいましたよね。男二人は、何か人生に傷を負っていて、幼い彼女の真っ直ぐさに逆に元気づけられている。だから守ってあげたいんです。世の中の彼女を育てていた10年間は幸せな時間として、しっかり守られていたのだけれど、それは少女が大人になるまでの時間であると同時に、男たちの傷が癒えるまでの時間であったりもした。少女が大人になってしまうからこそ、壊れてしまうバランス。
「俺と一緒に生きてくれるのか?」っていうあの世良公則の必死さと引き換えのギリギリさが、もし唐突でなく少し前から感じられたら、もっと良かった気はする。
人形がガラス越しの向こう側に映ったり、何かの宗教的な儀式が映り込んでいたり(アンドレイ・ルブリョフ的!)、ちょっと変わった映画。でも私は結構好きだったな。
セーラー服と機関銃 完璧版
前回の『甦る相米慎二 特集』の時は112分のバージョンだったので、今回の“完璧版”とは違うんですね。完璧版は19分長いバージョンでした。
こちらもまた、男親を無くしたばかりの、天涯孤独の少女。
その少女を庇護するのは、ヤクザ…と言いたいところだけれど、少女の方がヤクザの親分になってしまうという、破天荒な物語。
こうしたダイナミックな物語に、叙情性とロマンチシズムをもたらす辺り、さすがの相米慎二!そのくせ、これまた圧倒的なまでに“女の子映画”になってるんです。
うーん、これ今の邦画の映画製作者じゃ、絶対こんな魅力的な映画にはならないよなあ〜…。
で、『雪の断章』と同様に、ヒロインがひっくり返った姿で登場するんですね。
斉藤由貴は、バイクに乗ったままグッと反り返っていて、薬師丸ひろこは逆立ちをしている。
彼女たちの“世の中を別の角度から見れることが出来る”という、自由な精神…と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、
女の子が故の“剣呑さ”や“怖いもの知らず”な感じ、こういうものが滲み出るんですね。
当たり前にカメラの前でじっとしていないのも、相米ヒロインの佇まい。
112分の方に無いシーンというと案外すぐ分かる。途中、魚眼レンズのシーン(家の中)が出てきたり。これが結構長いんですよね。これは確かにいらんだろ…と思ったりしますが、要らんものばかりではない!
刑事とお茶するシーンや、刑事が薬師丸ひろ子の家に来るくだりなんかもカットしてある部分ですよね。
それから、「猿の脳みそ」のくだり→猿の目のアップとか、割と実験的なこともやってたんだなあと驚きます。
それより一番驚いたのが、泉(薬師丸ひろ子)が浜口社長(北村和夫)に家に連れ込まれ、ヤラれそうになるところを、マユミさん(風祭ゆき)が救ってくれるシーン。
これは濃厚なセックスを感じさせる部分で、だからこそカットされたのだと思いますが、
大人社会に踏み込んでしまった少女が直面せざるを得ない、大人の汚らしさだったと思います。
これが無いのとあるのとでは、ラストシーンの感慨の深さがグッと違ってくる。
マユミ(風祭ゆき)が初めて泉(薬師丸ひろ子)の家を訪れた時に、泉が背伸びして付けた口紅を拭き取るショットがあったり、
「私、愚かな女になりそうです」というラストの締めの一言も、こうした一部始終の地獄めぐりが済んでこそ、ようやく出てくる“少女”の成長を思わせる台詞だったんですね。
どんなショッキングな経験を過ごそうと、あえて“普通の少女”として過ごせることの喜び、謳歌宣言が、
かえって清清しいものとして響く。これこそが少女の強さであると。
119分のバージョンではちょっと物足りなく思えた部分に、きちんと納得がいく結果となった。
やっぱりこの作品は最高!
光る女
この作品で相米慎二作品は全部コンプったことになるのだけれど、これを最後まで残しておいて正解だったという気がしてやまない。
というのは、こちらは相米慎二中1番変テコな映画でもあり、他の邦画と比べてもなかなか見ない類のカルトっぷりを誇る、実験映画的な作りだったから。
他の相米作品を見ずにこれを見たら、ガックリしてしまったかもしれない。
でも、監督の全キャリアを語るのに、この作品を見ている人/いない人とで、相米慎二に対する考え方が大分違うかもしれない。
つまり、最後の最後までこの作品を取っておいた価値のある、珍品であった。
相米慎二をコンプった者だけが見れるカルト作品というか、むしろ「ありがとう!相米、ありがとう!」と感謝したい気持ちになった。
決して嫌いではない。
衣装が二種類しか無い、毛皮のベスト(チョッキというべきか)をずっと着ている武藤敬司。
ゴミの山の上でオペラを歌う、日本語がカタコトのマンデイ満ちる。
六本木辺りの会員制クラブのような、殺人プロレスの廃退的な小劇場っぽさ。
新宿駅を映しても北海道を映しても、まるで外国に居るかのように感じられる、不思議なまでに絵的なファンタジー世界。
誰かがレビューで、『台風クラブ』がヒットしたおかげで、やりたい放題のこの作品を撮れることになった、と言っていた。
相米慎二が、リアリズムよりは映画的なファンタジー性、マジックリアリズムへと向かう傾向があることは、『雪の断章』や『東京上空いらっしゃいませ』の例を挙げると分かりやすい。が、娯楽性や一般的な商業作品を排して思う存分“ソウマイズム”を振るうと、もしかしてこんな風になるのか。
そう思うととてもこの作品に対する愛を感じられる。
もし感じられないなら、まだまだあなた自身にソウマイズムが足りない。
2015/05/25 | :映画特集
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コメント(2件)
前の記事: バースデーディナー@白金essea
こんばんは^^
>斉藤由貴
デビュー時から好きで『雪の断章』も観に行きました。
冒頭の長まわしに「アイドル映画にしては前衛的(?)~!」
と思いましたが、なるほど相米監督だったのですね。
(今頃気付いた^^;)
当時は男二人の心の機微を感じ取ることが出来ず
少女趣味なキャンディキャンディ的設定や
ダメダメなミステリ部分が引っかかり
あまり良い印象を持たなかったのですがこうしてレヴューを拝読すると
満更悪い作品でもなかったかも・・・と思えてきました(今更ですが^^;)
それから私も相米作品コンプってることに、
これまた今更気付きました(笑)
amiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
わーい、私の大好きなところに反応してくれるamiさん!とても嬉しいです。
斉藤由貴の大ファンだったんですね!ここでの彼女、すごい女神でしたね…。
そうなんです相米慎二監督だったんです!いやいや私も、『セーラー服と機関銃』で驚いたぐらいでしたけど。
『雪の断章』に関しては、私もミステリ的にちょっとイマイチな話運びだと思ったんですが、
見終わった後どんどん思い返して、なんだか好きになっちゃいましたよ。
物語に“厚み”、“深み”があるんですよね。
おお、amiさんもコンプされていましたか。
『光る女』はソフト化されてないので、見ることが難しかったです。『東京上空いらっしゃいませ』も廃盤ですし、『ラブホテル』もか…。
なかなか相米コンプは大変なんですが、全部書きたかったなあ〜