『ホーンズ 容疑者と告白の角』 周到なB級映画の“技あり一本”!
ホラー映画ってありきたりなよくある型へと、どんどん押し込まれてしまう消極性みたいなものがあって、そういうものからは積極的に逃れようとしていかないと、みるみる創造性が失われてしまう。それはどのジャンルでも同じかもしれないのだけれど、ことホラーにおいて難しいのは、何度も見たことあるような“通俗性”と“創造的な斬新さ”とを両立させようという試み。
この作品は、こうしたことを逡巡しその上で「ハイ一本!」みたいな技ありが効いている。だから快作なのだ。それなのに、こうした努力も乱暴な言葉で「B級だけど案外面白い」みたいな愛の無い言葉が得意気に投げかけられ、それで良しとしなければいけない。
この作品が本当に楽しいのは、中二病的な阿呆らしい想像が目の前でみるみる形になっていくこと。この馬鹿馬鹿しさは、ユングに言わせればまるで“集合意識”的な、“悪夢の原形”とでも言える形そのもの。さすがスティーブン・キングの息子、ジョー・ヒルの原作だ。
アジャのホラーが好きな観客達にとっては、一番アジャらしさに喜んだのは前半だろう。出会った人々がそれぞれに自分の悪夢を語り、目の前で実践していく世界。だからここをアジャはひらすら執拗に何パターンも描いてみせるし、何ならこれだけで世界が終わってくれてもいいと思ってしまったのは、塩味だけでいけるホラー好きだからかしら。
しかし物語は賢いことに、そうした塩味に終わらない。ミステリー仕立てで“犯人を見つける”という行為が悪魔の正当性を打ち出す。つまり、メタモルフォーゼが<主人公にとっては逆説的に自分の望みを叶えるための手段>となっているのだった。素晴らしいのは、キリスト教的な落とし前がきちんとついていること。これをやらなければ、糞真面目な観客たちは納得しない。
だからラストのシークエンスは、悪夢の原形そのままで納得する、よくこなれたホラー好きにとっては丁寧すぎるようにも思える。でも、これはこれで良いのだ。
それにしてもダニエル・ラドクリフ君は、『ウーマン・イン・ブラック』といいこちらといい、頑張ってハリーポッターのイメージから脱却しようとしているなあ。
逆に言えば、イライジャ・ウッドもそうだけれど、自分に付けられてしまったイメージが強すぎるからこそ、徹底的に破壊し尽くさないといけないのだろう。
ちなみにイライジャの方がラドクリフ君より先に行ってるな、と思えるのは彼の方がいち早くこうした活動を始めたから。
『パリ・ジュテーム』(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督作『マドレーヌ界隈』)→『マニアック』→『スティーラーズ』→『グランドピアノ 狙われた黒鍵』と、まさにホラーでもってイメージの破壊工作に余念がない。
それより私が気になったのはマックス・ミンゲラですよ。
彼はこの世代の悪役の名を欲しいままにしてるじゃないですか!(笑)
実は片っ端から彼の出演作を見ていることに気が付いた。せっかくだからコンプろう。ついでに、今後も応援しようっと!
2015/05/18 | :ホラー・スプラッタ アメリカ映画
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コメント(6件)
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ホラー映画はシンプルな塩味って面白いことを(笑)
ラドクリフくんより若干先輩にあたるのがイライジャくんってホントそうですよね!
そのうち、ちびっこふたりで共演なんかしてくれたら面白そう(爆)
この監督の美的センスはワタシの好みなので今後に於いて期待値上がりそうです(笑)
itukaさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
いやー、この映画の面白さってなかなか難しくて説明できないですね。
今読み返してみたら、全然駄目だこりゃ…。
この作品の面白さって案外、マトモに説明するの難しいですね。
ロードとハリーポッターは、ハリーの方が先に始まったのですが、ロードの“RPGファンタジーの元祖”っぷりには敵いませんね。
アジャは、特に『ヒルズ・ハブ・アイズ』がすごくて、神がかってます!
>この作品が本当に楽しいのは、中二病的な阿呆らしい想像が目の前でみるみる形になっていくこと。
おそらく本人にとっては恐ろしい現実で、信仰心が強ければ強いほどその恐怖は・・・
でも、観客の目には滑稽で笑える状況で・・・
その恐怖がガキっぽいファンタジーな形で表されるのが、とても面白く感じられました。
哀生龍さんへ
こちらにもありがとうございます♪
ホラーと隣合わせのコメディ。
うんうん!この辺りがすっごく楽しかったです!
中二病的思いを作品に変えることが出来る辺り、さすがのお父さん譲りですね。
あのドーナツの食べ方とか面白かったな〜!わざと口の中もっぐもぐにして喋るとか、いい演出でした。
こんばんは!
どうも御無沙汰してしまって、申し訳ありません。色々とバタバタしていたものですから・・・でも今日は久々にとらねこさんにお薦めしても良いかなと思う映画に出会えたのでブラリです(笑)
その前に信頼のアジャブランド提供の『ホーンズ』ですが、結局映画館では観る事が出来ませんでした。なにせ愛知県では非常に交通の便が悪いシネコン1館のみでの上映だったので・・・PTAの新作も同じ状況で、今年のベスト入りが有力視される作品は、ほぼすべてDVD待ち。このような悲惨な状況となっております。
とらねこさんが激押しされている『ジュザベル』なんてこっちでは上映すらされていない気がします。
東京は良いなぁ~とちょっと愚痴ってみました!
さて、久々のとらねこさんに観て頂きたい作品ですが、『ペーパーハウス 霊少女』です。
「オカルト映画?」と思われるかもしれませんが、是非ご覧になってください。僕のハートにはピンポイントで突き刺さりました!
ただツタヤで調べてみたところ、レンタルはしていないので、購入しなければならないかもしれませんが・・・ただアマゾンでは1000円くらいで購入できます!僕も買った(笑)!
興味が有りましたら是非どうぞ!!
蔵六さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
『ホーンズ』見れませんでしたか、残念…。「イオンシネマ名古屋茶屋」って、そんなに行くの大変なんだ。
伏見ミリオン座は便利なところにありますもんね。
そう言えば『ブラックハット』もTOHO名古屋ベイシティで、時間も遅いし行くのが大変…とtwitterのTLで言ってる人がいっぱいいました〜
お勧め決まりましたか!で、なんだかレアなものなんですね…!うぐっ…。でも、蔵六さんが言うならきっと面白いに違いない!?
ひとまず、『キャンディマン』2巻先に行ってみましょうか。