ルビッチ・タッチ!(3)『天使』『ニノチカ』『青髭八人目の妻』
『天使』
こちらがまた最高!
なんて、なんてカッコイイ作品なの!
この作品、「ルビッチタッチは低調」と言われているらしい。
そしてディートリッヒはこれを「平凡」の一言で片付け、それどころか自分の考え方とはまったく遠いと、出演さえ渋ったらしい。
こんな抑えめギリギリのルビッチらしさが、最高にカッコイイものとして痺れてしまった私は何?
大人で瀟洒で、何とも言えず渋い魅力たっぷり!
甘くならない大人の駆け引きは戦いのよう。そして、恋愛部分をまるでサスペンスのように描く手法に驚いてしまう。
そう言えば、ルビッチの描くラブストーリー部分は、“サスペンス”と言えるような緊張感に満ちていることに気づいた。
こんなものって、なかなか他に見ないのでは?
(他にこんなのあるよ、というものがあったら良ければ教えてくださいね〜!)
ちなみに、ネタバレで話してしまうが、ディートリッヒが「自分の考え方とは違う」という部分は、結婚していながら不倫しそうになるシーンのことだと思う。
それこそ今では「不倫は文化」などと言われて久しいけれど、この1937年という時代は、フロイト博士に言わせれば“まだまだ無意識の世界の捉え方が違う時代”だからだろう。
つまり超自我が本能(エスもしくはイド)を抑えていた時代だ。
不倫ばかりを描くアレンとルビッチの、ラブストーリーの結末の違いは明らか。
『ニノチカ』
グレタ・ガルボのツンデレっぷりが見事。ガチガチに頭の固いソ連の共産党員役の彼女が、最高に可笑しくて可愛い。
そんな彼女を一生懸命口説こうとする、資本主義社会を代表(?)するロマンチックな貴族、メルヴィン・ダグラス。
二人のズレた掛け合いが何とも可笑しくて、スクリューボール・コメディの一級品になってるのでした。
メルヴィン・ダグラスの台詞は、まるでシェイクスピアのよう!大仰でロマンチックで機知に富んでいて最高。
脚本は、ビリー・ワイルダーがその中の一人に名を連ねているのでした。
そうそう、ドイツ出身のルビッチによる“ハイル・ヒットラー!”ジョークには笑ってしまう。
「ロシア人同胞かと思ったら違った」という辺りね。
ニノチカが、フランスに流行しているという設定の馬鹿馬鹿しい帽子を被るシーンが、何とも言えずイイんですよ。変な帽子だけどw。
ニノチカばかりかロシア出身の3人も、もっさりしたロシア帽からアメリカの紳士のようなストロウ・ハットを被る。このシーンの切り替えショットが鮮やか!
ただし、ラストになるに従って、資本主義プロパガンダが少々気になる部分も。
ユーモアとして冒頭の部分は許せても、ラスト間際のご都合主義的なソ連の描写は、絵に描いた餅のよう。
まあ、それも含めてこの時代なので、仕方がないのでしょう。
ロシア映画やロシア文学が好きな人だったら、この描写にイライラしてしまうかも(苦笑)。
『青髭八人目の妻』
こちらも脚本の一人に、ビリー・ワイルダーの名が。
お互いに相手に負けまいとする、男と女のバトルが楽しい。捻った脚本が知的な一作。
ただし、ちょっとテンポ悪く感じてしまう部分も?
他のルビッチ作品と比べると少し落ちるかもしれないけれど、やはりまだまだ魅力的でございましょう。
パジャマの上半分だけをデパートに買いに来る男(ゲイリー・クーパー)と、下半分を買う女(クローデット・コルベール)。この出だしがイイ。
情にほだされて結婚に至るが、大金持ちの男はこれまでなんと7人と結婚し、離婚を繰り返していた(内一人は病死)と分かる。
そうと分かったら、事前契約の離婚手切れ金を釣り上げる、しっかり者の女。
いつか分かれてしまう男となら、自分の気持ちはあげることは出来ないと、
結婚した途端に女は、相手に嫌われよう、離婚に仕向ようとあらゆる努力を始める。
この辺りのコメディの楽しさが、何とも大人の笑い。
でも、女の気持ちは分かる気はする。
相手に無理やり嫌われようとすると、男は何とかして結婚の旨味を楽しもうと、食い下がって頑張るくせに、
「離婚したければ、半年は自分にベッタリくっついておけ!そうすればすぐに飽きる」なんて、酷い台詞だもの。
ラストの大団円は少し疑問符が残るけれど、多少強引であっても気持ち良く終わらせる。
ちょっと女が上手ぐらいの方が、世の中上手くいくのかもしれない。それにまあ、彼にはいい薬になったでしょう!
これまたルビッチ流なのでした。
2015/05/16 | :コメディ・ラブコメ等, :映画特集 アメリカ映画
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