ルビッチ・タッチ!@エルンスト・ルビッチ特集 (1)『百萬弗貰ったら』『生きるべきか死ぬべきか』『極楽特急』
『百萬弗貰ったら』
「ルビッチ・タッチ」と呼ばれる、軽快で一風変わったハリウッドの巨匠。
今回のルビッチ特集、この作品から私は見始めることが出来てとても幸せだった。
私はこの作品に心底惚れ込み、熱狂してしまった!
「金持ちが全く知らない誰かに百万$をあげたら」、というたったそれだけの設定で、これほどの多彩なエピソードを紡ぐなんて。
8人の監督の8つのエピソードから成るオムニバスではあるけれど、ルビッチが監督しているため全体的に一本筋が通っていて、テンポ良く楽しめる。
ルビッチが監督したのは、6話目の「あるサラリーマン」。
ということは、一番短く簡潔な…というか、あまりに簡潔すぎる一作。
会計士と思われる小部屋から飛び出し、何処に向かうかと思えば最終的には…。
台詞もなく「Boooo!」と発される音一つだけで終わる作品。
なんとなんと!(いや、思わず観客は爆笑してましたけど)
私が個人的に気に入ったのは、最初のエピソードの「陶器店」と、4話目のエピソードの「暴走族」、それから最後の8話目のエピソード「おばあちゃん」。
「陶器店」。ある陶器店で働いている店員だが、皿を割るごとにいちいち給料から差し引かれてしまう。妻にもタラタラ文句を言われ続けるが、じっと我慢するだけの小心者の男。彼が百万$もらってするのは、思う存分皿を割ることだった。
あの顔つき!思い切りのいい皿の割り方!
この“コメディの呼吸”が最高だった。
日本では「四谷怪談」を思い出すような、死ぬほどジメっとした怪談話が有名なだけに、この作品のカラッとした陽気さがたまらない。
「暴走族」、これもまた楽しい一作。
真面目に働いて、ようやく買ったセダンを、ドライブに出かけた途端にメチャクチャにされてしまう夫婦がやったことは…。
本来良心的な市民が繰り広げる大胆さがまたいいし、思い切りの良い展開が死ぬほど楽しいッ!!!
気持よく車がグシャっと潰れたり、事故が起こってボロボロになるのだけれど、まるでディズニーアニメを見てるみたい!
「おばあちゃん」、こちらは養老院を舞台にした物語。
慈善事業であると言いながらも、お年寄りを自分の都合良く管理する院長。
特に圧巻なのは、ただのダイレクトメールをまるで「愛する孫からの手紙」のように想像を読み上げる下り。ここでは思わずホロっとしてしまうほど。
ここからの急激な展開であるから、この喜劇の面白さに拍車がかかる。
いやはや、物語に深みがあるところがまた素晴らしい。
『生きるべきか死ぬべきか』
ちょうど一年前ヴェーラで見たばかり。その時はナチス映画特集だった。
そこで、この超絶傑作を知りました。その時は二度見て帰っちゃった。
ナチスをネタに、こんなサスペンスフルでドラマチックなコメディが作られようとは。
シェイクスピアも驚くような、ルビッチのキレッキレ喜劇。
よもや、シェイクスピアの世界に名だたる名作『ハムレット』の、“人間の生きる苦悩を初めて描いた”とされている死ぬほど有名なこの台詞「生きるべきか死ぬべきか」で、こんなに笑いが起こるなんて!
物語のテンポが小気味良く進むのだけれど、プロットが複雑であるため、初見より二回目以降の方が面白いかも。
ポーランドを舞台にナチスを欺く、ミステリータッチの作品で笑えるコメディなのだけれど、思わず思い出したのがラングの『死刑執行人もまた死す』と、ヒッチコックの『海外特派員』。
コメディとしてはこちら、サスペンスとしてはラングの『死刑執行人〜』、
この2本は共に私的に、両雄並び立つ戦争映画の大傑作となりました!
『極楽特急』
コンゲームをベースに途中からラブコメに変わっていくストーリーというと、今やってる『フォーカス』がちょうど同じ。
あの作品は、こちらを参考にしているのかもしれない。
お互いにスリの手管を自慢し合うシーンなんて、まさにこの映画のオマージュそのもの。
女は恋と勘違いし、詐欺師に心を奪われてしまう。だが男もまた、本心では女に惹かれている。
自信たっぷりだった彼女が、恋に敗れたと分かる時の、あのプライドの高い素振りが何とも健気なんですよね。
女と男のちょっとした心理のスレ違い。細かな心理変化。
こうしたことが鮮やかに描き出されるので、“コンゲーム”としての落とし所に、また一風変わった別の魅力が加わり、何倍にも魅力になって跳ね返ってくるかのよう!
ルビッチは何とも言えない微妙な心理を描くのが、本当に上手いものだと舌を巻いた。
「この展開、こうなったら嫌だなあ、こうなったらあの人が可哀想なのに…」と、見ながらとある人物に対してハラハラしてしまう。
そして作品は、こうした観客の心から、物語のテンポが全く外れていかないんですよね。
女の凛とした態度が、思わずガッシリと観客の心を掴むのだけれど、こここそがこの物語の「落とし所」。
これがあるからこそ、その後の車の中での「元サヤに戻る」泥棒二人が、スンナリと気持ち良く見れる。
まさに演出の天才的である所以というか、観客の心理の奥深くに上手に触るものだなあと驚かされた。
小津が参考にしたのは、まさにルビッチのこういうところなのだろうなあ。
2015/05/05 | :コメディ・ラブコメ等 アメリカ映画
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コメント(4件)
前の記事: 『インヒアレント・ヴァイス』 ヤク中探偵は天使
こんばんは。
ルビッチ特集とは、田舎者の私には羨ましい限りです。
私は『生きるべきか死ぬべきか』と『天国は待ってくれる』の後期の2作品しか観たことがないのですが、
仰るとおり『生きるべきか~』は『死刑執行人~』に勝るとも劣らない戦争映画の傑作だと思いますし、
『天国は待ってくれる』も優しくてあたたかい、本当に素敵な作品でした。
amiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます。
おお!ルビッチに反応してくださいましたか。嬉しいです!
私も実はルビッチはこれまで『生きるべきか死ぬべきか』と『生活の設計』の2本しか見たことなかったのですが、この2本が最高なので、今回の特集は出来るだけ通うつもりで居ます。
amiさんおすすめの『天国は待ってくれる』は、ちょうど昨日見たところだったのですよ!
ドン・アメチーのカッコ良さと来たら!!
まるでこの人、ブラピみたいですね。美しくて思わず見とれるほど…。
奥さんとの二度の駆け落ちがもう最高でした^^
ふんわりとハッピーな気持ちになれて、ルビッチってすごく見ていて気持ちがいいんですよね。
こんばんは。
コメント機能不調だったのですね。とらねこさんのDVD観賞術に驚きのコメントをエントリーしたつもりだったんだけど、まぁ、いいや。
それはそうと、ルビッチ良いですね。シネマヴェーラさんで出会って、大変気に入っています。本来この手のジャンルはあまり観ない下衆野郎ですが、古ければ大丈夫って処でしょうか。
今回も沢山観たいのですが、なかなかそうも行かず、何から観れば良いのか迷ってしまいます。今のところ4本は観れました。
「生きるべきか死ぬべきか」はスケジュールが合わず、「百万弗貰ったら」は全くノーマークでした。
ヴェーラさん、またかけてくれないかな。しっかり憶えておいてまたの機会を待つ事にします。
「生活の設計」はなんとか時間を作りたいと思います。
imaponさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
わーん!せっかくimaponさんがDVD鑑賞についてのコメントくださったのに、それを読めもしないなんて悲しいよ〜!
暫くの間一切コメントをもらうことが出来なかったので、改めてコメントのありがたさが身に沁みますね…。
やった!imaponさんがルビッチ見てくれるなんて、嬉しいビッチ。
うんうん、どれ見ればいいのか分からないですよね。『生きるべきか死ぬべきか』はもしかしたらマイベストかもです。
今日、『ニノチカ』見たんですが、なかなか面白かったですよ〜!グレタ・ガルボがグレてます…じゃなくて、ツンデレ。
あともう一週間しか無いんですが、ちなみに今日は『極楽特急』と『天国は待ってくれる』ですね。『極楽特急』はすごく評判が良くて、見た人みんな絶賛してますよ〜♪『天国〜』の方もなかなか可愛くて、きっと気にいると思います。いきなり「今日」なんて言われても困ると思うのですが、もし時間があったら是非に〜!