『真夜中のゆりかご』 普通の家庭にある恐怖
スザンネ・ビア最新作がやって来た!
スザンネ・ビア監督は、『幸せな孤独』『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』の頃には「デンマークの俊英!」なんて大注目をしていたんですね。ところが、ハリウッドに招聘されて作った英語の作品『悲しみが乾くまで』が、正直ガッカリで(出演はベニチオ・デル・トロ等なのに)、以来映画館ではスルーしてしまっていた。ところが、何気なく見てみた『未来を生きる君たちへ』がまたまた素晴らしくて、やはりこの監督は追いかけなければ、という気持ちになった。
やはり、いつも驚きのストーリーで人生の一面を抉り出す、この監督らしい一作。
重圧を次第に感じてくる、お得意の寄りの画面が今回は全く気にならない。
心理を丁寧に追い、登場人物の気持ちが痛いほど伝わってくる、お得意のやり口。
「子は親を選べない」とはよく言うが、この例は究極だなあと思う。
まだ赤ん坊の時分に、麻薬中毒のネグレクト両親…しかも父親の方はDV。そう知っていたら、人の子の親としてはそれを放っておけない、という気持ちになるのも分かる。
で、そうしたことから驚きの展開へ。ネタバレで語ってしまうと面白さが半減以下になってしまう作品なので、出来るだけネタバレしないように語りたいと思うが…。
二組の夫婦と、それぞれの家庭の2つの部屋。
これら小さな世界を舞台に、こういう展開になるなんて。まさかの悲劇が一組を襲う。
母親が真夜中に起きる、ふとしたベッドのショットと、その後夫が真夜中に起きるショットが全く同じ。ここが上手い!と思った。
“子供の突然死”…。親にとっては絶対に起こって欲しくない悪夢だと思う。
しかも、それが何の理由もない突然死で“なかったら”。
…考えるだけでも怖い。
母親という存在になると、あんな風に理性を失ったり、取り乱してしまい、目の前の現実に対して理解が及ばなくなってしまったりしまうものなのかしら。
妻を、失うまいと何とか自分で取り繕うとする夫…。
子育てをする何の変哲もない普通の家庭にも、もしかしたら起こりうるかもしれない。
いかにも身近にありそうな恐怖で、納得のいく面白さだった。
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』
お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む
-
-
『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた
今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む
>いかにも身近にありそうな恐怖で、納得のいく面白さだった。
自分の連れ合いの本心や隠し事に、どれぐらい気付けるか。 気付いていても無意識の内に“気付いていない”ことにしているのではないか。
起こるべくして起こった悲劇なのか、本当は避けられるはずの悲劇なのか。
自分の家庭のことを振り返ると怖くなるので、切り離して、映画の中の2組の家庭に起きた出来事として見ました。
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>自分の家庭のことを振り返ると怖くなるので、切り離して
こういう風に切り替える瞬間て、映画を見ていてふと気づく時ありますよね!
で、こういう思いをさせる映画が、すごくワタシ好みだったりします!
>自分の連れ合いの本心や隠し事に、どれぐらい気付けるか。 気付いていても無意識の内に“気付いていない”ことにしているのではないか。
ふむ、なるほど…。私には無い類の思考回路です。
そういう細かい心遣いが出来る人が相手で羨ましかったりして(爆