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『泰平ヨンの未来学会議』by スタニスワフ・レム を読んだ

アリ・フォルマン監督の『コングレス 未来学会議』を先に見て、後から原作体験。

うん、やっぱり映画→原作本の順番は、永遠に正しいな、と思いました。
原作を先に読むとロクなことがないよね?映画好きの皆さん。

…というのも、『コングレス 未来学会議』はオリジナルとまるで話が違うんですよね。
私は原作の方が断然好き。しかし、映画は今の時代に合うものへとかなり改竄されているので、もはやこれは別物ですね。
あまりに違うので、文句を言う人は居ないかもしれないレベル。

いやはや、スタニスワフ・レムは初めて読んだのだけれど、
この狂った筆圧の高さと、途方も無い世界を創造するセンスがとにかく、さいっこ〜!!!
面白くて、何度ウロコが落ちてもまだまだ足りない。

というのは、

1) 世界を提示する

2) ひっくり返して見せる

3) さらにその世界をひっくり返す

4) 次に何が来るのか???

といった感じに、クルリクルリと世界の表層を剥いてしまう感がもう圧巻なんですよ。
『マトリックス』は、この作品から着想を得たのだと思う。『コングレス 未来学会議』でも、マトリックスに似たものを感じたけれど、やはり間違っていなかった。

いやあ、なんて天才が居るんだろう!
IQ180の「神童」と呼ばれた人が、最も目の覚めるような鮮やかなSFを書いた、それを想像してみて下さい。
奇想天外すぎて、もう拍手喝采したくなる鮮やかさ!

私は、SFはその世界の成り立ちを一から作り上げ、この設定の面白さについて説明することそのものが、SFの面白さの“核”であると勝手に思っていた。が、レムのディテールの描写については、もうこれ自体が一種の芸であり、この面白さが止められない、止まらない…と何度も何度もお代わりしたくなる、想像を絶する濃さ!
「すげえ!レムすげえ!!!」と何度も腹を抱えながら(抱腹絶倒の描写が連続なのよ)、
なんだか気持ちがスーッとしてスッキリするものを感じた。
「ああ、これこそが、本を読む醍醐味だなあ」と懐かしく思った。
自分の小さな“主観意識”の外側へと飛び出し、世界の枠からはみ出て行き、
全く思ってもいない場所へ連れて行ってくれる。

「どういう社会であれば人間は幸せに暮らせることが出来るのだろう」という、文学的な問いがありますよね。「こんな社会であれば理想であるはずだ」という。
トーマス・モアが『ユートピア』を書き、人間嫌いのスウィフトが『ガリバー旅行記』を書いたように。それは疑問であり、挑戦でもあった。
レムは未来の社会を描きながら、そのゲッソリするような本当の姿を覗かせてみせる…。
この奇術師的なやり方は、私はある種の“ユートピア否定”のように感じられたんですよ。

おかげで、よりこの物語にグッと来てしまった!

いやあ、あまりに面白かった。もっとレムを読まなくちゃいけないな。

P.S…5月から新訳が出るようです。
それは有り難いことなのだけれど、私は旧訳の素晴らしさに、胸を打たれまくってしまった。
自分を「吾輩は〜」などと書いているので、面食らう人は居るかもしれません。
でも、そこだけ変える訳には行かないんでしょうか?
こんなに素晴らしい訳があるのに、新訳にしてしまうなんて勿体無い!と思うんですが。

 

2015/05/06 |

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コメント(2件)

  1. レムの面白さがよく感じ取れる投稿で笑顔です^^
    ちょうど今月5月は、上記の新訳のほかに、長らく動きがなかった国書刊行会のレムコレクションで久々の新刊「短編ベスト10」が出るのと、同じくレムコレクションの「天の声・枯草熱」が重版されるのとで、なにやらレム祭りな感じですね!!

  2. すたさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございます。
    いやー、レムの面白さなんて言葉では説明できませんね。
    苦心惨憺したのですが、この程度です…。

    終盤にかけて心の中がゲッソリとしてくるほどの、世界の内実と、行き場のなさが果てしなく押し寄せてくる絶望感…
    この感覚がまた素晴らしかったのですが、もう少しこれについても語ればよかったなー。

    すたさんは新訳も有り派なんですね。でもきっと、旧訳を読んだ上での新訳なんですよね。
    『コングレス 未来学会議』と合わせて、今年はレム祭りですね〜!




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