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『マジック・イン・ムーンライト』恋のマジックはいずこ

img_contents_spウッディ・アレンの作品は、何を見てもそこそこ面白く、多少期待外れであってもそれほど大きくは外れない。そんな安心感のある監督で、見れば見るほどアレン世界の面白さが分かってくる監督だと思う。

しかし、昔はウッディ・アレンが嫌いだった。何故この人が好きなのか分からないとすら思っていたし、スキャンダルにも嫌気が差した。映画好きの友人に薦められる度に面倒臭いと思う筆頭案件が、ウッディ・アレン監督作だったりした。

私は若い頃、浮気する男が心底許せなかった。恋愛物と言えば文学作品ではバルザックの『谷間の百合』、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』、ブロンテの『嵐ヶ丘』などが好きだったのだ。恥ずかしながら、純愛物が好きだったというわけだ。その後、D.H.ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』に傾倒していくのだけれど、あれは浮気をするにもそれなりの理由があり、人間らしさを標榜するための手段、自分自身の解放であったから、楽しみのために恋愛や浮気をするのとは違っている。

ところがウッディ・アレン作品には、よく浮気する男と女が居る。それが当たり前の世界であり、大人のオトコとオンナという描写になって居たし、フランス映画もそれと同じ理由から時々付いて行けず、若い時分にはフランス映画好きとは言えなかった。

自分が精神的に成熟し大人になることが出来て、大人の事情が飲み込めるようになり、それとともに少しづつではあるが、ウッディ・アレンの面白さが分かるようになった。遅咲きのウッディ・アレンファンである。それでも、ウッディ・アレン本人の姿が出てくる作品を見ると、未だに苦手意識を感じる。本人とさほど釣り合ってるとは思えないモテモテの役が多いからか。若い女性と簡単に恋に落ち、それらがまるで彼の願望そのものを描いているように見えてしまう。

それが今回もまた感じられた。コリン・ファースは本来いつも素敵なのに、アレン作に出てくる俳優のご多分に漏れず、台詞をベラベラがなりたて、手をバタバタと動かしながら“アレン風”演技をしている。台詞はシニカルで嫌味たっぷり。これから孤独の人生を生きるであろうと思われる、厭世家の男だ。自分に自信があるので人に対しても横柄に振る舞い、高慢さが目に付く。こうした彼が若くて魅力たっぷりのエマ・ストーンから好かれてしまうのだから、不思議でならない。

しかし、そうしたことにあまり固執しなければ、ウッディ・アレン作品は楽しむことが出来る。彼の作家としての一番の魅力は、何と言っても軽快な台詞の知的さだ。そのくせ等身大の人間的魅力も感じる。ふんだんに盛り込まれたユーモアセンスには、あけっぴろげでクスリと笑え、しばしば下品なユーモア精神がたっぷり。皆過剰なまでに喋りまくるのは、彼のコメディならではのテイストだ。

ただ、ふと思ったのは、ウッディ・アレンはもしかして本当に鬱状態に陥っているのではないだろうか?ということだった。まるで、コリン・ファース演じるウェイ・リン・スーが、ジャスミンの憂鬱を未だ引きずっているかのような。

南仏の美しい風景と、可愛らしい古いクルマ、キラキラ眩しいエマ・ストーン。こうしたものを楽しみつつ、理屈っぽくロジカルな騙し騙されの物語に終着していく。マジックはなかなか起こらない。でも、ラストでは…。自分が人生の何に重要性を置くかで、世界は違って見える。

 

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