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『カフェ・ド・フロール』 意外な結末

poster2ダラス・カウボーイズ・クラブ』のジャン=マルク・ヴァレの、ダラスより一つ前の監督作品。
ちなみに、2015年に新作の公開も決まっていて、『ワイルド(原題)』。さらに今年製作の新作は『デモリション(原題)』。というわけで、今後も続々と騒がせてくれそうで今から楽しみ!

ダラス〜』を見て、あのアメリカ南部の土っぽいカウボーイの気概に騙された後こちらを見ると、全然違うテイストに驚く。本来はこんな人だったのか。
ダラス〜』には感動させられ、前向きな気持ちにグイグイと押されるように思えたけれど、こちらの作品はまるで印象が違った。

『カフェ・ド・フロール』なんていう、可愛らしくていかにもゆるふわっぽいタイトルからは、「フランスっぽいなんかお洒落な雰囲気?」だなどと騙されそうになるけれど、全くもって大違い。ラストでは、主人公の気持ちを考えて、苦しさに押し潰されそうになるほど。
グイグイ抉られました…。辛い、しんどい思いをした。

…いや、好きです。今後も好きになりそうです。

メインプロットと、サブプロットが別個に進んでゆくのだけれど、この2つが交差するところに驚きがある。
さらに、ラストショットにも度肝を抜かれた。これについて詳しくは後で書くけれど。

2つのプロットは、各々では極めてシンプル。
時間軸は2つあり、登場人物も異なる。少し過去と思われる時代と、もう一つはおそらくは現代の時間軸。

過去の時間軸には、ヴァネッサ・パラディ演じる母親ジャクリーヌの物語。ダウン症の子供に献身的に連れ添い、彼を生き甲斐にする愛情深い母親。
一方、現代の時間軸には、20年という長い年月を連れ添った夫婦の終わり。“ソウルメイト”ー運命の絆だと長年お互い思っていたが、男・アントワーヌ(ケビン・パラン)には新しい恋人(エブリーヌ・ブローシュ)が出来、別れてしまう。一方、別れの痛手から未だ立ち直れないキャロル(エレーヌ・フローラン)。

この先、ネタバレ


キャロルの“喪失”の行方が、テーマの大きなものになっている。
彼女の絶望の深さは、見ている方があまりに胸が痛くなるほどで…。

彼女はラストのシークエンスの前に、“生きていく理由”を失ってしまう。
人生の“選択”に、他に道が見出だせなくなるような思いに駆られたら。

彼女には、それと知らぬ“罪“があった。
絶望して死を選ぶのは、あまりに簡単な答えであるかもしれない。

私は、これを単にスピリチュアルな、まるで仏教徒じみたカルマを描いた物語であるとは思っていない。
苦しみ、傷つきながら生きる人は、いくらでも居る。そのために生きる希望を失ってしまう人も。

こうした苦しみが何処から来るのか、深く考えるほどに、
何も宗教を紐解かなくとも、奇跡を語らずとも、
自分が生きていくなんらかの“道標”として、過去にではなく、未来に向う理由になればいい…。

悲しみが、さらなる悲しみを呼び込んでいるのかもしれない。
それを神が試している、そう思える人も居るだろう。

血反吐を吐くほどの悲しみの後の静謐を、苦しみもがいた末に獲得する物語。
自分の不幸が、廻り廻って自分の前世が招いたものだと知り、
そこでようやく断ち切ることができるなら。
変化を自分から獲得することが出来るなら…。

ところで、ラストの2つのショットについてですが。

まるで『シャイニング』みたいにカメラが寄っていく。どんどんズームして、二人の映っている背後に寄る。もっと寄ると、その遠く向こうに小さく映る、橋の上の背後の人物の影に寄っていく。
これが怖くて、思わずゾッとした。

その後、映画の中で何度か写った、青い画面の中に一筋の光が差し、消滅するかのように消える画。これがまた謎を招く。

これは、一体どう考えるべきなのでしょうか。

あの一筋の光は、前世の車の事故のシークエンスを思い起こさせるものに似ている。
光が明滅するところは、車の爆発のよう。

一方で、もしかしたら、“ジャクリーヌとキャロルを繋ぐ、カルマの姿”を表現しているのではないか、と。
愛する者を死に導く良くない連鎖を、フッと断ち切る事ができた姿かもしれない、と思った。

キャロルはカルマを断ち切ることが出来て、来世ではようやく幸せになれるのかもしれない。

 

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コメント(2件)

  1. 新ガーデンシネマ!行ってらっしゃったんですね。
    私も先週行きましたが、時間が合わなくて「カフェ・ド・フロール」はパス,「間奏曲はパリで」を観ました~
    でもこの映画も観たい!
    友人と観たい映画ばかりで「毎日通いたい」なんて言ってしまいました。

    映画館もリニューアルして、観やすくなりましたね~

  2. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうなんです!これ、オープニングでしたね。
    私も『間奏曲はパリで』見ましたよ〜。本当ステキな、いい映画でしたよね!
    もうすぐUPします。

    いや本当、映画館見やすくなりましたよね!
    座席の上下の幅もゆったりしているし、スクリーンも大きくなって。
    あと、トイレが超素敵な空間!高級フレンチのレストランみたいじゃないですか?(笑
    シネコンみたいな環境に変貌したので、今後もますます通いそうです!




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