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現代アジアの作家たち特集(2) ショエーブ・マンスール『BOL 声を上げる』、アン・ホイ『男人四十』、レイス・チェリッキ『難民キャンプ』

ショエーブ・マンスール『BOL 声を上げる』

Bol-Movie
この作品には本当に驚かされた。
パキスタン映画はあまり見たことなかったけれど、ボリウッド的娯楽映画の要素を持ちながら、社会派映画として堂々と意見を述べる大胆さが。
この監督はパキスタン出身だけれど、こちらの作品に限ってはインドとの共同製作ということもあってか、社会派映画でありながら音楽がまた素晴らしいと来てる!この融合はグル・ダッドの『渇き』を思い出した。インド映画の父と呼ばれたグル・ダッド、これまた素晴らしかった。しかも、昨今のインド映画ではついぞ見ない、シリアスな社会派テイストが新鮮で驚きの連続だった。カメラワークなんかも素晴らしいんですよ。ビックリするね。

その貧しさから、子供をどんどん増やす家庭に育った苦しみ。生まれついての性差の厳しさ。パキスタンに住む人達ならではの悩みがリアルに等身大に伝わってくる。女性に生まれて喜ぶのは、娼婦としての利用価値のため、という側面もなんと酷いのだろう。
「命を奪うのが罪なら、与えるのも罪では?」「産んでおきながらその生を全う出来る楽しみを奪うのなら」という訴えは、日本ではちょっと考えられないような訴えだった。でもそうした社会の違いを超えて、だからこそ見て良かったと思う。しかもちゃんと映画として面白いという、本当に驚くべき作品でした。

今回のフィルムセンターの特集は、福岡市民総合図書館の所蔵なのだけれど、福岡での映画祭が行われた時、観客賞を獲ったのがこちらのショエーブ・マンスール監督の作品。IMDbでもかなり評価が高い。この監督は未だ2作しか撮っておらず、2011年のこの作品が最新作とのことなのだけれど、今後も見る機会があったら是非とも見てみたい。

アン・ホイ『男人四十』

July_Rhapsody
タイトルとあらすじから想像していたものよりずっと面白かった。
こちら、『少林サッカー』の同年に、同作品に継いで受賞数の多い作品だったそう。まるで違うジャンルだけれど、この評価にはなるほどと思えるものがある。

いかにも平凡な家庭のように見えた、高校時代から結婚が続いていた夫婦のジャッキー・チュンとアニタ・ムイ。教え子の女子高生カリーナ・ラムが現れ、彼に屈折した恋心を抱くようになってから、その夫婦の全く違う姿が見えてくる。
長江の流れが美しく、漢詩の響きが切々と沁みてくるような、そっと心に残るようなリリカルな詩情性たっぷりの作品だった。
いつしか教え子の少女と恋に落ちてしまうのだけれど、小憎らしい少女であるせいか、彼の反応が意外。真面目な教師に見えるのに、まさかこの小悪魔タイプにあっさりと陥落してしまうの?と。出席日数が足りないまま卒業した彼女とまさかの小旅行。
その後、平凡そのものに見えた彼の結婚の、本当の姿が見えてくる。彼の子供は、実は妻アニタ・ムイの初恋の相手との忘れ形見だったこと。長年の結婚の中で培われた相手へのいたわり。
別れを決心した妻に、二人が泣きながら抱き合うラストは、「人生、こんな風であっても幸せかもしれない」と思えた。
何かのキッカケで人は繋がるし、長年の年月の中で愛着を積み上げていく。激しい恋でなくても、満ち足りた人生。

レイス・チェリッキ『難民キャンプ』

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トルコ南東アナトリア地方に住む、クルド民族シヴァン(ルク・ピエス)。村の作物が何者かによって焼き払われ、あらぬ疑いをかけられて村を追われてしまう。
ドイツに亡命して来たものの、行き場が無く…。難民キャンプで青年は追い詰められてしまう。
クルド人問題について興味があったので、この監督の作品は全部見ようかと思っていたぐらいだったのに、結局この作品一つだけになってしまった。無実の青年が追い詰められていく姿が、ひたすらに苦しい苦しいクルド人。
故郷のアナトリア地方を映したカメラがフワフワっと漂っていて、映像が美しく浮遊感が素晴らしかっただけに、ラストの悲しい結末が想像出来てしまった。
「冒頭の一言が、意味がない訳ないだろう」と思いながら見てしまったから余計に。
シンプルで美しく、悲しい作品。

 

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