『ショア』 壮絶なるナチスドイツのドキュメンタリー 20世紀最大の悪夢の生き証人たち
『ショアーの衝撃』という本を読んで以来、ずっと見たいと思っていた幻の映画だった。フランスの大学で映画を学んだ友人の「打ちのめされた…」という一言にも動かされた。しかし9時間半もの長さのある映画なので、見る機会もそうそう無い。ところが今回ランズマン監督の特集があって、ようやく見ることが出来た。
『不正義の果て』のトークショーの時に知ったのだけれど、『ショア』をフランス外で初めて上映したのはなんと日本だったと言う。ランズマン監督自身が、ビデオレターでそう話していた。場所は日仏、現在のアンスティチュ・フランセ。「まさにそこで世界で初めて『ショア』を公開したのです。」というランズマン監督の言葉は、感動的だった。
ナチス・ドイツが第二次世界大戦時にユダヤ人にしたことは、20世紀最悪の、もしくは世界史上最悪の事件だった。『ショア』は’85年に製作された映画だが、この世界史上稀に見る大罪を、目の当たりにした生き証人がまだ居た。加害者・被害者・目撃者、それぞれの立場の人の人が、巻き込まれてしまった大惨事について、自分がその目で見たことを話す。もし「死ぬ前に見た方がいい映画」は何かと聞かれたら、私はこの作品を置いて他はないと答える。
リティ・パニュの『S21 クメール・ルージュの真実』も同じようにカンボジアの大虐殺についてのドキュメンタリーで、やはり加害者と被害者の視点から描かれている。ジョエル・オッペンハイマーの『アクト・オブ・キリング』も(多少信憑性に疑問を感じるにしろ)、同様にインドネシアの大虐殺について加害者の視点から描いたドキュメンタリーだった。しかしこちらの『ショア』のような、ナチス・ドイツが犯した、人類史上最も稀に見る忘れてはならない世紀の大虐殺について語られる時、その規模の大きさから言って途轍も無く、比較のしようが無いほどで、あまりのことに「打ちのめされる」以外の言葉が見つからない。
9時間半というと、通常の映画で言えばたったの5本分だ。しかし、この作品のようなものに出会える確率は、たとえ5000本見てもまずないだろう。この作品を見ないのは、人生の損失に他ならない。「見て良かった」と言えるかどうかは別にして、生きている内に絶対見た方がいい作品だと思う。
P.S.…私が行った回は、毎回毎回満席立ち見でした。この特集、全国に回らないかなあ。
『ショア』を見た人も見るのが難しい人も、こちらの本もどうぞ。
『ショアーの衝撃』(クリックでAmazonに飛びます)
クロード・ランズマンその他作品
『不正義の果て』
2015/03/16 | :ドキュメンタリー・実在人物 フランス映画
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コメント(2件)
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とらねこさん☆
9時間半もの長さで、これを劇場でやったの??
しかも立ち見の人って!
でもそこまでおススメなら、じっくり見たいわ☆
できれば座って・・・・
アウシュビッツを見てきただけに、本気を出して見ないとな作品ね。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
>9時間半もの長さで、これを劇場でやったの?
うんこれは、4部に区切って上映されました。
もちろん、その都度お金は払わないといけないのだけど…
3部を見ようとした時、2度ほど満席売り切れの目に会っちゃいました。
40分前に行って駄目だなんて思わなくて。
最終日は、朝からチケットだけ取りに行きましたよ。
イメージフォーラムという劇場なのですが、ここでの“立ち見”は通路に座布団を敷いて見るってことなんです。かなり辛いですけどね…。
一度、この劇場でやったことありますが、辛かったなあ。通路がコンクリートなので。
『ショアー』では、毎回“立ち見”になり売り切れてました。
立ち見席はいくつかだけで、その後は“売り切れ”になるんです。ミニシアターでここまで売り切れるなんて素晴らしい企画だと思いませんか。
その企画力で人を惹きつけることが出来るのも、渋谷ならではかもしれません。