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『ビッグ・アイズ』 ティム・バートンの二重人格性

main_visual「アメリカでもこんなに男尊女卑の時代があったなんて」と驚く、婦人運動前のアメリカ。…と、男尊女卑大国日本に居ながらにして思う訳だけど。
グリグリの大きな目の子供の絵は知っていたけれど、その作者については何一つ知らなかった。こんな話が裏にあったとは。しかし、佐村河内のように赤の他人がゴーストライターをしていた訳ではなく、財布が一緒のその夫なのであれば、営業上手な方が前に出るのは得なのかもしれない、…と思いながら見てしまった私は、普通ではないのか?もちろん、“それが円満なうちは”ということだけれど。

この先、ネタバレで話します


美術やアートという自己表現は、ある種世間に認められたくてやっているようなもの、その気持は分かる。でも、彼女一人では売り込みの才能もそのキッカケを作るチャンスももしかしたら皆無に等しかったのかもしれず。旦那のウォルター(クリストフ・ヴァルツ)は阿呆でした、男運無かったね!というただそれだけの話なの?うーん、そんなにストレートな物語をティム・バートンはやりたかったのかな?この映画ってなんだか、いろんな子葉が伐採されて、茎だけになっちゃってる一本の木のようなイメージなんですよね。

私は、ちょっと違う視点から見てしまったかもしれない。ある種“夫婦二人の罪”だったように思うのです。
確かにウォルターは、詐欺のように他人の作品を自分の手柄にしてしまい、それも二度目のことだった。二度目であったからこそ、彼女からすれば許せない気持ちになった訳で。もしこれが一度目のことだったら?もし二人が円満な夫婦生活を続けることが出来たなら?もし単に彼女がアーティストとしてのエゴを出さずに、作品製作のみに没頭することが出来ていたなら?二人で世間を欺き続けることが出来たなら…?

あの冒頭のあまりにもお手軽な恋愛描写は、ウォルターにとっては良いカモであったかもしれないけれど、マーガレット(エイミー・アダムス)にとっても当初ウォルターの存在は有り難い存在であったには違いない。「自分はバツイチ子持ちで、相手に引け目を感じている、ウォルターは私の救い主のようだ」と言っていた彼女。
だんだん関係がこじれていき、終いには醜い終わり方をする夫婦の姿は、何も驚くには当たらないような気がしている。あの法定裁判では見事にウォルターの“偽物ぶり”を証明することが出来たけれど。世間には駄目男や駄目女はいっぱい居て、それはまるで“恋愛詐欺”、“結婚詐欺”のように泥沼化する関係など、いくらでもいるように思った。

ただし、この物語に関しては、もう少し別の見方もした。それは、ティム・バートンがこれをやることの意義について。ティム・バートンは、まるで二人が一緒になった一人の人間のようだ。彼は気質的には本来、マーガレットのように内気で商売下手な、世間に自分を合わせることの下手なアーティストタイプであるのだと思う。それは、『シザーハンズ』や『エド・ウッド』のような作品を例に挙げずとも、彼の暗い気質は作品中にいくらでも見て取れる。しかしこうしたナイトメア・ビフォア・クリスマスのジャック的なマイノリティの叫びが、世間に受け入れられたことを考えると、彼はどこかで自分の、姑息で抜け目の無い商売人をウォルターの中に見て取っているようにも思う。

それは、ジョニー・デップと組んで何度も下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる的に、大量生産大量消費していこうとしていた姿をも彷彿とさせる。つまり私には、まるでティム・バートンの中にウォルターとマーガレットという二人の人物が居るかのように思えた。これを自覚的に世に出すことが出来るティム・バートンは、誰が言わずともそれを十分承知しているのだろうと思う。つまり、これこそが現在の彼が描くべき自分自身の肖像で、そうした歪んだ二重人格の自画像を、私はこの作品の中に見て取ったのだった。

’14年、アメリカ
原題:Big Eyes
監督:ティム・バートン
製作:リネット・ハウエル、スコット・アレクサンダー他
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン他
脚本:スコット・アレクサンダー、ラリー・カラゼウスキー
撮影:ブリュノ・デルボネル
音楽:ダニー・エルフマン 
キャスト:エイミー・アダムス(マーガレット・キーン)、クリストフ・ヴァルツ(ウォルター・キーン)、ダニー・ヒューストン(ディック・ノーラン)、ジョン・ポリト(エンリコ・バンドゥッチ)、クリステン・リッター(ディーアン)、ジェイソン・シュワルツマン(ルーベン)、テレンス・スタンプ(ジョン・キャナディ)、ジェームズ・サイトウ(判事)

 

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コメント(4件)

  1. とらねこさん☆
    なるほどー
    ティムバートンの内面を二人の人物で表現したのね。
    なんとなく今までのテイストと違うなぁと思っていたけど、そういうことなら納得。
    まだ観てなかったけど、俄然見たくなってきちゃった。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございます。
    これ、私のTwitterでは評判良かったんですよ。
    興味があれば是非ー。

    ティム・バートン、デップさんが出てくるのはもう打ち止めにした方が良さそうです…。

  3. 法廷で絵を描かせる判事が域でした。
    まったく筆を取らないってことは全然絵心がなかったってことですかね。
    それとも、世間に恥の上塗りしたくなかったのか気になります。

  4. itukaさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そう、全く描けなかったんでしょうね。それか、描いたところでバレるのは分かる訳ですし。
    心理的に事実に凌駕されてしまったか…。
    前の奥さんの件もありましたし、やはり彼自身は一切描いてなかったんでしょうね。




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