『ニンフォマニアック Vol.1&2』@早稲田松竹にて二本立てイッキ見!
自分に正直な女の話だと思った。
およそ、自分の根幹に“性欲”というものが根付いていてこれに支配される人生を送る人と、人生の選択をする時に(といっても、人生は選択の連続なのだけれど)理性でこれを否定しそれに左右されることの無い人と、2種類の人間が居ると思う。
“ニンフォマニアック”、つまり色情狂と言う言葉を使ってしまうと、岡田斗司夫のようなものをイメージする人も居るかもしれないけれど、実はもっと単純な二項対立の話で、前述したような2種類の人間の前者、つまり「自分の根幹に“性欲”というものが根付いていてこれに支配される人生を送る人」であれば、この話は何処かしら共感すべきものを発見してしまうに違いない。
以前知り合いの一人の女性で、“男を落とすまでが趣味”という人が居た。彼女は、クラブやら何処かしらで出会った人や自分とデートした人と、セックスにまで持ち込むのが好き。でも付き合う人は欲しくないから、同じ人とは二度とヤらない、と言っていた。“狩りが趣味”なんだそうだ。また他の知り合いは、一人の人と全然長続きをしないという女性が居た。彼女曰く、「結婚を視野に入れ始めると、吟味するのが最も大事なことである」、という理由からであったが、彼女はいつも1週間〜2ヶ月ほどしか続かなかった。2ヶ月が一番長い方だった。でも、付き合い始める前の段階のデートや、付き合ってすぐというのが一番楽しいのだそうで、この状態が一番楽しいことを知っている自分は、このフレッシュなデートのおかげで、自分はいつまでも若さを保つことができるのだと語っていた。その通りかもしれない、と私は思った。
私は若い頃、二人の男と付き合ってどちらにするか迷ったことがあるけれど、その時に「いづれ早い内にどちらかを選ばないことには、どちらも失ってしまうだろう」という危惧から、どちらかを選ぶことに決めた。「どちらに対しても申し訳ないから」というようなまっとうな理由ではなかったし、実際のところ楽しかった。自分が選ぶという立場に居るために、優位に立っているように思った。
ええと、何がこれらの話につながるのかというと、私はもっとマトモなことを言おうとしている。つまり、この作品では、“性”については語っているが、“愛”については語っていないということ。
ジョーの人生の中で、ジェロームについては、愛情に最も近いものを感じていたに違いない。一番近しいものを感じる誰かとの結婚、それから出産。そこで満足して自分の人生を選んでいたなら、普通の母として妻として生きていくことが出来たはずだから。
でもこの物語は、そうしなかった人、自分の人生の充実より“性欲”を選んでしまった人のファンタジーとして、この物語は面白く見れる。「もしそうしなかったら」というファンタジー。
実際、この物語はあらゆる描写がコミカルで笑えるし、これまでのトリアーの中でも一番娯楽性に満ちている。人生の中で最も大事なものとして性欲を選ぶ人の話なんて、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうだろう。でも一瞬一瞬で見るなら、それなりに共感してしまう部分も不思議とある。『メビウス』についてキム・ギドクは「チ●コの冒険物語だよ」と語っていたけれど、こちらはまさに「マ●コ」の冒険物語だった。
とりあえず、ラムシュタインの曲から始まるオープニングが最高だし、一人でも多くヤった方が勝ちのビッチ電車杯で『Bone to be wild』がかかるのが楽しかった。
でも何より最高なのは、オヤジ・スカルスガルド!
途中、『奇跡の海』に似通っていて、トリアーの倒錯した理想像はあそこにあるのかもしれないと思えた。またところどころは『アンチクライスト』的でもあったり。 とってつけたようなラストはそれこそファンタジックで、『ドッグヴィル』のラストにも似ていたかな。
’13年、デンマーク、ドイツ、フランス、ベルギー
原題:Nymphomaniac
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
製作:ルイーズ・ベス
製作総指揮:ペーター・オールベック・イェンセン、マリー・ゲーゼ・デネッセン他
原案:ジェンル・ハルンドストーリー
撮影:マヌエル・アルベルト・クラロ
キャスト:シャルロット・ゲンズブール(ジョー)、ステラン・スカルスガルド(セリグマン)、ステイシー・マーティン(若いジョー)、
シャイア・ラブーフ(ジェローム)、クリスチャン・スレイター(ジョーの父親)、ジェイミー・ベル(K)、ユマ・サーマン(H夫人)、ウィレム・デフォー(L)、ウド・キア(ウェイター)他
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コメント(2件)
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こんばんは☆
ワタシはvol1しか観ていないのでもやもやしています。
前半については、真摯に「色情狂とは」と解説しているようなタッチで面白かったというか、控えめなトリアーという印象でした(笑)
vol2はレンタルで観ようかな。
すたさんへ
こんばんは〜♪お久しぶりでーす!コメントありがとうございました。
楽しかったですね。1はかなり面白かったですよね!なんか他の作品に比べると、あまりにも分かりやすいんですよね。ここまで娯楽よりであるのは、彼がもう精神病から立ち直ってしまっているのではないか、と勘ぐりたくなりました。
そうそう、“色情狂とはなんぞや”な前編。後半では、ノーマルライフな人になれたかもしれない人生設計からズレと、その孤独さが存分に味わえます。
ラストがね、ひねくれ過ぎなんですしょうか、マトモには終わらない。余計な気がしちゃったんですが、すたさんはどう思うかしらん。