ノーザンライツ2015に行ってきた(『ビッチハグ』『リメイク』『オスロ、8月31日』)
今年も行って来ました、トーキョーノーザンライツフィルム・フェスティバル。
長いタイトルでなかなか覚えづらい名前の映画祭なのですが、今年ですでに4年目。
素晴らしいことに、いつ行ってもお客さんがほぼ満員だなんてね、たった一週間の映画祭で(しかもこの覚えづらい映画祭タイトルで←やかましい)、この快挙は本当に凄い。
この映画祭の人気にあやかってか、北欧の各国映画祭なども開催されてはいるのだけれど、こちらほどの人気を博しておらず。本当にこの映画祭の実力というか、かかる映画を選ぶセンスが評価されている証左。…なんて思ってしまいます。
今年はタイアップもいろいろあって、WOWOWでもこの映画祭に合わせて北欧映画特集が組まれたりしてましたね。
『ビッチハグ』
『シンプル・シモン』がキュートですっごく可愛かった、アンドレアス・エーマン監督作品。
『シンプル・シモン』は一昨年のノーザンライツでかかり、その後映画祭スタッフが公開にかこつけた作品なのだけれど、これが公開時にユーロでもロングランヒット。いつものユーロのお客ぽくない、若いお客さんがいっぱい来ているのに驚いた記憶が。ちなみに、私のtwitterのTLでは、こちらがあまりに気に入り、7回も見てしまったという方まで居てびっくりした。北欧らしいセンスの良さが光る可愛い作品で、私はすっかりこの監督が気に入ってしまったんですよ。
その『シンプル・シモン』は2010年の作品なので、こちらはその後の作品ということになるけれど(’12年製作)。
これがまた、とびっきりキュートで、かつ今まで見たことないようなストーリーテリングの物語で本当に驚いた。
一人の女の子が自分の故郷を「自分の居るべき場所」と感じず、別天地で新しい自分になろうとする物語…というのはよくある話。ところが、NYに在住し記事を書くライターの仕事を手に入れておきながら、飛行機に乗り遅れたため田舎を出ることが出来ず、しかも「まるでNYに居るかのように偽装した記事を書く」という話にすり変わっていく。スウェーデンそのままの田舎の風景が映りながら、「まるで憧れのNYに来たばかりでワックワク!」というような記事を書き上げる、図々しさが本当に面白い。
さらに、“自分探しの物語”かと思わせながら、いつの間にか“難しい時期の女の子同士が、それぞれの悩みや本来の姿を曝け出し、本物の友人を見出す話”へと変化してる。
ビッチっぽい振る舞いの女の子と、片やボーイッシュでぶっきらぼうな、だけど心を閉ざした女の子。正反対の二人がいつの間にか楽しそうに会話している姿に、共感してしまう。
女の子同士の友情って実は難しいもので、必ずぶつかり合ったりしていたなあ、なんて思い出してしまった。自分が不安定な時期って、実は女の子同士の友情を結ぶのが少し難しかったりもする。自分の未熟さも忘れ、相手の弱さを不満に思ったり。それでも自分の姿を見せようとするからこそぶつかり合う。こうした気持ちをあけすけに、だけど嫌味なく描き切っていて見事!
邦画では『下妻物語』も似たようなテーマで、完成度の高い物語だったなあと思いだしたりも。
『リメイク』
こちらはアンドレアス・エーマン監督の最新作。こちらは14年製作なので、上の『ビッチハグ』の後に作られた現在最新の作品ということになるのね。
『ビッチハグ』が気に入ったので、さらにもう一作見ることにしたのがこちら。これがまた、想像以上の物語で思わず唸ってしまった。
まずこちらの物語、撮影がホームビデオで映された“擬似ドキュメンタリー”のようなテイスト。“POV”(Point of View=主観カメラ)と言われる手法で、これ自体は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来、本当〜によくあるテクニック。ドキュメンタリー的な臨場感を感じさせるために、わざわざ手ブレ映像を見せてみたり…はいはい、これもよくあるパターン。
実は私はこのアイディア自体はもう飽きたし、かつ映像に酔いやすくなってしまうのでマイナスポイントも当然ある。でもこのアイディアだけで面白い映画が撮れた例は意外と多くて、『REC』や『クローバーフィールド』、『トロール・ハンター』、最近では『クロニクル』や『V/H/S ネクストレベル』なんかは好例。(ただし、『パラノーマル・アクティビティ』とかその手のつまらないものは当然数えないし、『イントゥ・ザ・ストーム』は、POV風を装ってるだけであるので、POV映画には入りません。)
この作品でも私は思わず、「うわっハズレだった」と思ってしまった。素人風を装うあまり、わざとフォーカスを全然違うところに合わせたまま映像を繋ぎあわせたり、さらには“絞りを甘くしたために自動フォーカスが合わなくなって、映像がボケたり合ったりを繰り返すという、安定しないままの映像を見せる”、というものまでしれっとテクニックとしてやっちゃってる。思わず頭を掻きむしって「うわああああ」と言いたくなったのだけれど(私の腕より下手じゃねーか!)、いつの間にか引き込まれてしまった。
この先ネタバレ*************************
同時進行で浮気をしているのかと思わせながら、実は過去の自分の恋愛を思い出していた。このことに、クライマックスで初めて気づく作り。ここにまず痺れましたよね。
自分が未熟であったから、踏み出せなかった“あと一歩”。これ、結婚相手を選ぶ時には、実は得てして起こりうるパターン。
過去に自分が相手を傷つけてしまったのに、自分の中では時が止まっていて、「もう一度謝りたい」と思う。やり直せるかもしれない、とすら思ったりもする。
この彼女は、現在の相手と以前の恋人をいつしか比べていて、同じ場所に行くたびに心ここにあらずになってしまっていた。…
そうした彼女の思いが、より伝わる方法として“POV”が選ばれていたんですよ!なんと、そう来たかと、私は感激したのだった。
もちろん今の相手からすれば勝手な話だし、前の恋人からすれば「自分を本気で愛した男を、いつも傷つける女」ということになってしまう。それは正論なのだけれど。
その時の自分に素直であるままで、いつも正しく相手を愛せるか?
そんなの、誰にとっても難しい問題でしょ…?
自分の反省も含めて、この物語が身に沁みてしまった。
いやあ、本当に素晴らしかった!
P.S.…この人って顔がティム・ロスに似てない?
『オスロ、8月31日』
こちらは、ラース・フォン・トリアーの甥、ヨアキム・トリアーの一作。
初めて見たけれど、実力を感じさせる素晴らしい作品で、こちらもまた大満足!
孤独な青年の心情がヒシヒシと伝わってくる。
彼が心を許せる唯一の友人ももう家庭持ちになり、“今の自分”とはズレが生じてしまっている。
「本当に、自分は今回はもう駄目だと思う」、この台詞の重さがズッシリと答え始めると、彼の眼の前で行われる一つ一つの会話が、おそらく彼にとっては“地獄めぐり”であると分かる。彼が痛みを感じていることがヒシヒシと伝わり始める。
「自分の居場所がない、ここから逃げ出したい」と思う、“一刻も猶予のならない心情”と、「まだ何とか自分はやっていけるかもしれない」と思う、そんな心情で揺り動かされているんですよね。これからも生きいていけると思う一瞬と、死を覚悟してしまうほどの絶望に満ちた一瞬。たった一日の中で、それが何度繰り返されるものか。
こういう思いは、分からない人には分からないのかもしれないけれど…。
ただ、ラストのモンタージュをどう感じたかで、この作品に対する見方が変わってくるのかもしれない、と思ったり。
私は、「彼が存在していない空間」を強調していたと思う。
何故なら、“彼がそこに居た空間”のショットをそのままに、彼は不在であるという表現であったから。つまり、あのシークエンスで強調されているのは“不在”そのものだ。
という理由から、私はその後の彼の自殺を意味するシークエンスとして捉えたのだけれど、友人は単に「元の黙阿弥に戻っただけだった」という感想だったので、実はちょっとだけ拍子抜けした。
しかしその時私は、「友人がそう思うなら、彼にとってはそれはそれでいいのかもしれない」、そう思ったのでその時に反論はしなかった。
私にとっては、その瞬間は「友人の思いと違っているということを噛みしめる瞬間」として、心に残った。
どんな風に感じるかで、人の心は揺れ動く。
幸せを感じていた瞬間に、ふと不安になる一瞬もある。そこに居た人たちの満ち足りた笑顔を見て、青年は急に不安に駆られる。あんな風に思ったのは何故だったのだろう。
あの朝のプール際のショットを思い出しながら、友人の感想と自分のそれがズレたことが、妙に心に残った。
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TNLF乙です。
『リメイク』しか観れなかったけど、他の2本も時間が合えば行きたかったなあ。公開希望。
そして『リメイク』。これ、揺れる女心っていうのを見事に出せてましたね。
「揺れる女心」、出せてるようで全然出てない作品がなんとまあ多いことか。そこのモヤモヤを一気に吹き飛ばしたような感じでね。
大事な決断って、それが大事だと気が付かないことの方が圧倒的に多くないですか?
大抵は過ぎ去ってから気が付くもので。
その後悔なんかも、他人から見れば単なる「ワガママ」なんだろうけど、本人に取っちゃ一大事。
けど恋愛下手な女子はそこに気が付かなくて、同じことを繰り返してしまうんだろうね。
rose_chocolatさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
『リメイク』だけでも、エーマン見てくれて良かった〜!
最新作ですし、もし公開されるとしたらこっちかな…?
『シンプル・シモン』でしたら、3/4からレンタル開始になるので、もし良ければ是非見て欲しいな!
『リメイク』、本当に胸の痛みを感じるような作品でしたよね。
大事な決断を、その場で気づかないことが多いって本当にその通り。
後になって大事だったと気づいても遅いんですよね。
私は彼女の気持ちが良く分かります。
自分が振った相手との思い出って、自分からすれば良いものしか残ってないのに、相手からは「忘れたい相手」として憎まれさえしている、というのがすごいリアルに思えました…。