『不正義の果て』テレジン収容所の生き残り、ユダヤ人長老のインタビュー
幻の映画『ショアー』のクロード・ランズマン監督の、なんと新作が到来!『ショアー』に関しては、本で読んでその映画がどんなものであるかを知っていたが、未見の状態。13年に作成された今回の新作に合わせて、『ショアー』が再上映される!全部で9時間半もの長丁場だから、4部作(!)に分かれている。さらに未公開だったもう一作品、『ソビブル、1943年10月14日午後4時』も上映される。
『ショアー』は加害者・被害者・傍観者等の、様々な立場からの人物のインタビューで構成されている。これってまさに、去年初めて知って圧倒されたリティ・パニュの『S21 クメール・ルージュの真実』。こちらはカンボジアのクメール・ルージュだったけれど、『ショアー』はヨーロッパ全土・そして世界を悪夢に叩きこんだナチスドイツ。これは見ない訳にはいかない…!
さて、こちらの『不正義の果て』。実は『ショアー』と撮影時期を同じにしている。ホロコースト、テレージエンシュタットの生き証人にして、最後のユダヤ人長老、ムルメルシュテインのインタビューがメイン構成となっている。この彼がまだ生きて居た時代のインタビューと、時間が流れ現在年老いた姿のランズマン監督が歴史を振り返る形で現在の姿のテレージエンシュタット駅を映す場面も。
何も説明が無く始まるため、「ここは一体何処なのだろう」と観客に思わせる。カメラがゆっくり横移動をし列車や車に乗って、何も無いと思われる野原のような場所に到着する。まるで強制的に連れて来られたように感じた。
ナチスが最終的解決として考えていた、“マダガスカル計画”の実際についても描かれる。テレジン収容所を出た後の行き先として、「東」としか言われていなかった場所。それから、ユダヤ人の自治区として最初は理想的なものへと誤魔化されていた、テレージエンシュタットの実際。
次第にあらわになってくるのは、ユダヤ人の長老として、ムルメルシュテインの存在が本当に、哀れな同胞を助けることに尽力できたのか?という疑問だ。実際のテレジン収容所は他の絶滅収容所へ行くための通過点でしか無かったのに。テレジンの二人の長老は、ナチスに結局は殺される羽目になった。エーデルシュタイン、エプシュタイン。最後の長老であるムルメルシュテインだけは殺されず、後の裁判でも無罪になった。
彼曰く、自分が生き残ることが出来たのは、「千一夜物語」の語り部のようなものだったから、と言う。テレジン収容所についての様々な物語を、アイヒマンとの関係についてを、彼は繰り返し繰り返し語ることによって、自分は生きながらえてきたと。彼の話には確かに嘘はないかもしれない。だが時にまくし立てる、まるで都合の悪いことから逃げるかのように。でも、その話は知識が其処此処に感じられ、非常に面白いものだった。
確かに、歴史的記録映像としての価値は十二分にある。『ショアー』ほどの衝撃はないかもしれないけれど(まだ未見ですが)、ホロコーストやナチスドイツ、アイヒマン周辺に興味のある人は必見。
2015年の今年は、アウシュビッツ解放から70周年。
’13年、フランス、オーストリア
原題:Le dernier des injustes
監督:クロード・ランズマン
出演:クロード・ランズマン、ベンヤミン・ムルメルシュテイン
2015/02/16 | :ドキュメンタリー・実在人物 フランス映画
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